残された者 1
それから、数日が経った頃。
瑶月は、罪人として檻の中にいた。
粗末な布の上に座り、両手を膝の上に置いている。
檻の外では、小雪が泣きながら手を伸ばしていた。
けれど、周囲の喧騒にかき消されて、瑶月にはその声が辛うじて聞こえる程度だった。
「お嬢様……! 私も一緒に都まで行きます!」
「小雪……」
瑶月はゆっくりと顔を上げた。
「もう、着いてこないで」
「嫌です……!」
「好きに生きていいのよ」
「お嬢様を置いていけません……!」
小雪の声が震える。
「小雪の居場所は……お嬢様のお側です……」
泣いている。
こんなに泣いている小雪を見るのは、何年ぶりだろう。
瑶月は、ほんの少しだけ笑った。
「……困った子ね」
檻の中から空を見上げる。
東州の空は、どこまでも青かった。
けれど、目の前の檻によって、その空は幾つにも裂かれている。
もう、あの空を自由に見上げることもできないのだ。
視線を戻した。
いつの間にか、檻の周囲には東州の民が集まっていた。
「瑶月様……!」
「お守りくださり、ありがとうございました!」
「瑶月様を殺さないで!」
「我らの瑶月様を返して!」
悲痛な叫びが、次々と響く。
瑶月は何も言わなかった。
ただ、民を一人一人見つめる。
父が守った人。
母が守った人。
兄たちが命を懸けて守った人。
そして、自分が最後まで守ろうとした人。
瑶月は小さく微笑み、そっと目を閉じた。
東州の民は、そんな瑶月を囲むようにして、都へ向かう道を共に歩いた。
誰一人、途中で離れようとはしなかった。
瑶月には分かっていた。
自分は、おそらく死ぬ。
――斬首刑。
東州を守護する沈家が山賊の侵入を許し、これほど多くの民を死なせた。
それだけでも、死罪に問われてもおかしくない。
まして、自分は敵兵に毒を使った。
人を救うために学んだ医術を、人を殺すために使った。
それもまた、罪なのだろう。
だから。
死ぬことに、もう恐怖はなかった。
むしろ――
あと少しで、父上に会える。
母上にも。
兄様たちにも。
そう思うと、不思議と心が軽くなった。
「……もうすぐね」
瑶月は小さく呟いた。
馬車がゆっくりと進む。
やがて、朔国の都を囲む巨大な城壁が見えてきた。
都の城門。
そこを通れば、自分は二度と東州へ戻れない。
瑶月は最後に一度だけ、空を見上げた。
青い空。
幼い頃から何度も見上げてきた、東州と同じ空。
けれど、もう東州はない。
瑶月は静かに目を閉じた。
「……父上、母上、兄様」
ほんの少しだけ、口元が緩む。
「待っていてね」
そして、檻は都の城門をくぐった。




