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景都の夏
景都にも、夏が訪れていた。
お忍びで景都の街を歩く、景国皇帝・劉承琰。
その右手には、変わらず扇子があった。
「やっと落ち着いてきましたね〜」
承琰は、いつものように笑顔で側近へ言った。
「陛下のお力です」
「そうですか〜」
軽く笑いながら、承琰は通りを歩いていく。
ふと、茶楼の前で足を止めた。
軒先では、影芝居が上演されている。
以前とは違う、新しい物語。
今度の話は――将軍と、庶民の娘の恋物語だった。
承琰はそれを一瞥すると、扇子をぱたぱたと扇ぎながら呟いた。
「変わらないですね〜」
少し間を置いて。
「だけど、こっちの物語の方が私は好みかな」
そう言って、また扇子をぱたぱたと動かす。
そして、ふと思い出す。
それにしても。
わざわざ青龍を寄越したと思えば――。
まさか、忘れ物を取りに来ただけだったとは。
「……恋というものは、人をアホにする」
ぽつりと呟く。
「私は、そうはなりたくないな〜」
その顔には、いつもの笑顔とは少し違う笑みが浮かんでいた。
そして、もう一度、遠くへ視線を向ける。
「それにしても……」
扇子が、ぱたりと止まる。
「とんでもない人に、借りを作ったな〜」
遠い空を見つめながら、承琰は小さく笑った。
「晟は、返し切れるのか?」
その問いに答える者は、誰もいなかった。




