白虎の初恋 3
瑶月は阿福に包みを渡すと、劉晟と共にその場を離れようとした。
その時だった。
ふと、阿福の首元で揺れるものが目に留まった。
白く艶やかな、真珠のような飾り。
「……綺麗ね」
瑶月は足を止め、その飾りへそっと指を伸ばした。
阿福は嬉しそうに笑う。
「北幻珠なんです!」
「……え?」
瑶月の指が、ぴたりと止まった。
「夫が、結婚の記念にって……」
満面の笑みで語る阿福。
けれど、瑶月の表情は一瞬にしてこわばった。
「……北幻珠?」
聞き返す声が、わずかに震える。
阿福は戸惑ったように目を瞬かせた。
「は、はい。でも……その、本物の北幻珠ではなくて……」
言葉を探すように、阿福が少し考える。
「北幻珠にあやかって、作られたものなんです」
「……そう」
瑶月は飾りを見つめた。
その隣では、劉晟もまた黙ったまま阿福の首元へ視線を向けている。
そして――
瑶月と劉晟の目が合った。
言葉はなかった。
けれど、互いの瞳に浮かんだものを見れば、それだけで十分だった。
――北幻珠。
まさか、この地でその名を耳にするとは思わなかった。
「ねえ、阿福」
「はい?」
「北幻珠について、もう少し詳しく聞かせてもらえないかしら?」
瑶月は穏やかに尋ねた。
「よければ、屋敷の中で聞かせてほしいの」
「あ……はい。私でよければ」
阿福が頷く。
「ありがとう」
瑶月は柔らかく微笑むと、阿福を屋敷へと案内するため、ゆっくりと歩き出した。
劉晟も何も言わず、その後に続く。
その横で――
白虎は、静かに立ち尽くしていた。
先ほどまで胸の中にあった淡い期待が、音もなく崩れていく。
――夫。
結婚。
記念の贈り物。
「…………」
白虎は、何も言わなかった。
ただ、手にした工具を静かに握り直す。
こうして白虎は――
誰にも知られることなく、静かな失恋をした。




