白虎の初恋 2
朝餉を終えた瑶月は、劉晟と共に庭を歩いていた。
夏の日差しを避けるように、劉晟が日傘を差している。
瑶月が歩く速度に合わせ、ゆっくりと歩を進める二人。
そんな二人の前に、見覚えのある姿が目に入った。
「……あら?」
少し先で、台車の車輪を直している白虎と、その隣で手伝っている娘がいる。
「何をしているのかしら」
瑶月が首を傾げると、劉晟もそちらへ目を向けた。
二人はそのまま近づいていく。
「白虎、どうしたの?」
瑶月が声をかける。
「……!」
白虎と阿福が同時に顔を上げた。
そこに立っていたのは、日傘を差した劉晟と瑶月だった。
「……!」
阿福は、思わず息を呑んだ。
以前から街では噂になっていた。
竹林の奥にある屋敷に、美しい貴族の夫婦が引っ越してきた、と。
阿福自身、何日もこの屋敷へ食材を届けていたが、屋敷の者と顔を合わせることはあっても、その夫婦を実際に見るのは今日が初めてだった。
――なんて、お綺麗な方たちなのだろう。
思わず見惚れてしまうほど、二人は美しかった。
身に纏う衣には品があり、その佇まいからは隠しきれない気品が漂っている。
そして何より――
劉晟が差している日傘が、ほんの少しだけ瑶月の方へ傾いていた。
瑶月に日が当たらないように。
それはあまりにも自然な仕草だった。
けれど阿福の目には、その姿がひどく優しく映った。
まるで、妻を大切に思う夫そのもの。
「……っ」
阿福は慌てて立ち上がった。
「だ、旦那様、奥様!」
緊張で声が少し上ずる。
「わ、私はいつも食材を運ばせていただいている阿福と申します!」
深々と頭を下げる。
「今日は、その……台車が壊れてしまって……」
ちらりと白虎を見る。
「白虎さんに直していただいておりました」
瑶月は柔らかく微笑んだ。
「そう。いつもありがとう、阿福」
「い、いえ……!」
瑶月は懐から小さな包みを取り出すと、阿福の手にそっと握らせた。
「これを」
「……?」
阿福が包みを開く。
「こ、こんなにも……!」
思わず目を見開いた。
「いいのよ。いつも届けてくれているもの。生活の足しにして」
「で、ですが……」
「遠慮しなくていいわ」
瑶月は穏やかに笑った。
阿福はその笑顔を見つめた。
噂に聞いていた、美しい貴族の夫婦。
実際に目にした二人は、噂以上に美しく、そして気品に溢れていた。
けれど――
それだけではない。
自分のような街娘にも分け隔てなく声をかけ、こんなにも優しくしてくれる。
阿福は胸の奥がじんと温かくなるのを感じた。
――これが、貴族というものなのだろうか。
阿福は、心からそう思った。
そして隣では、白虎がそんな阿福の横顔を、ひっそりと眺めていた。




