偽りの夫婦
夏の日差しが、日に日に強くなってきた頃。
瑶月は劉晟とともに、よく三白州の街へ出かけるようになっていた。
瑶月の歩みに合わせ、ゆっくりと歩く劉晟。
その片手には日傘。
もう片方の手は、しっかりと瑶月の身体を支えている。
そんな二人の姿を、少し離れたところから青龍たちは眺めていた。
「……気のせいかもしれないけど」
青龍がぽつりと言う。
「滄瀾さま、変わった?」
玄武が即答した。
「気のせいじゃない」
「いやぁ~、人って変わりますねぇ」
朱雀がしみじみと呟く。
白虎は腕を組みながら首を傾げた。
「言うほど変わった?」
「「「変わった」」」
三人の声が重なる。
そのやり取りを、小雪は横目で見ていた。
街へ出ることは、瑶月にとって良い気分転換になっていた。
道行く人々を眺め、店先に並ぶ品々へ目を向ける。
時折、楽しそうに足を止める瑶月。
その姿を、劉晟は隣で静かに見つめていた。
そんな穏やかな時間の中――
一人の年配の女が、劉晟へ声をかけてきた。
「あら、夫人。やっと起きたんだね!」
「よかったねぇ」
瑶月の瞳が、大きく見開かれる。
「…………え?」
夫人……?
今、夫人って言った?
瑶月は驚きのあまり、隣にいる劉晟を見上げた。
けれど劉晟は、何事もなかったかのように女へ頷く。
「あぁ。ありがとう」
「…………」
否定しない。
瑶月は呆然としたまま、劉晟を見つめた。
女は嬉しそうに笑いながら、そのまま人混みの中へ消えていった。
しばらくして。
屋敷へ戻った瑶月は、劉晟の前に立った。
そして、まっすぐ彼を見つめる。
「……私に言うことはないの?」
劉晟は少しだけ目を伏せた。
「……あんな事があったからな」
静かな声だった。
「身分を隠して、ここにいる」
そう言うと、劉晟は淡々と瑶月へ事情を説明し始めた。
三白州にあるこの屋敷は、慕容が用意したものだということ。
ここでは身分を伏せ、周囲には謀反の混乱から逃れてきた者として暮らしていること。
そして――
「俺と其方は、夫婦ということになっている」
「…………」
瑶月は、再び言葉を失った。
劉晟はそんな瑶月の様子を気にすることもなく、さらに続ける。
「慕容には、俺たちがここで暮らしていることを悟られないよう手を回してもらっている。屋敷の者たちにも事情は伝えてある」
「……そう」
瑶月は黙って話を聞いていた。
劉晟の説明は、あまりにも淡々としている。
まるで、夫婦というのも身分を隠すための手段の一つに過ぎないかのようだった。
けれど瑶月の頭の中には、先ほど街で聞いた言葉が残っている。
――夫人。
その二文字が、どうしても消えてくれなかった。




