消えゆく灯火
劉晟は、瑶月を力強く抱えることができなかった。
少しでも力を込めれば――
壊れてしまいそうだった。
まるで、ほんの僅かな衝撃で砕けてしまう瑠璃のように。劉晟は瑶月を、そっと腕の中へ抱えていた。
それでも、瑶月の背中からは、止まることなく血が流れている。
劉晟の両手は、瑶月の血で真っ赤に染まっていた。
「……」
劉晟は止まらない。
今にも消えてしまいそうな命を腕の中に抱えたまま――
ただ、ただ走った。何も考えられなかった。
この腕の中の命だけは失いたくない。
その一心だった。
空には、いつの間にか厚い雲が広がっていた。湿った風が頬を撫でる。
そして――
ぽつ。
劉晟の頬に、一滴の雨が落ちた。
続いて、もう一滴。
やがて雨は、静かに降り始めた。
その時。
ふと――
瑶月の重い瞼が、ゆっくりと開いた。霞んだ視界に映ったのは。自分を抱え、必死に走っている劉晟の姿だった。
息を切らし。
顔を歪め。
それでも、一歩も止まらず走っている。
瑶月は、その姿をしばらく眺めていた。
雨に濡れていく彼の顔。頬を伝う雨粒が、涙のように見えた。
瑶月は――
ふっと笑った。
その気配に気づき、劉晟が足を止める。
「……瑶月?」
声が震えていた。
その瞳には――
困惑。
嬉しさ。
恐怖。
焦り。
様々な感情が入り混じっていた。
瑶月は、もう一度微笑んだ。
そして。
すでに感覚のない腕を、ゆっくりと持ち上げる。
震える指先。
力の入らない手。
それでも、必死に伸ばす。
そして――
ぼろぼろになった指先が、劉晟の頬へ触れた。
「…………」
劉晟は動かなかった。
ただ、その小さな手を見つめている。
瑶月は穏やかに笑った。まるで、何も心配することなどないと言うように。
けれど――
その手から、突然、力が抜けた。
がくん。腕が落ちる。
「……!」
劉晟の瞳が、大きく見開かれた。顔から血の気が引いていく。
「瑶月……?」
返事はない。
「瑶月……!」
声が震える。それでも、瑶月は動かない。
雨が、二人の身体を濡らしていく。
劉晟は瑶月を抱き直した。
「瑶月……!!!」
その叫びが、降り始めた雨の音を切り裂いた。




