謀反の果て
承琰は、倒れている瑶月へ目を向けた。
そして――
劉晟を見る。
「月ちゃん連れて、もう行け!!!」
その声が大殿前に響き渡り、劉晟は承琰を見つめた。
一瞬。
何かを伝えるように、二人の視線が交わる。
やがて――
劉晟は、軽く頷いた。
そして、倒れている瑶月のもとへ駆け寄る。その身体を、そっと腕の中へ抱き上げた。
「瑶月……」
返事はない。
それでも――
まだ、息をしている。
それだけを確かめると、劉晟は瑶月を強く抱きしめた。
「行くぞ!」
兵たちへ声を張る。
青龍、白虎、朱雀、玄武。そして小雪たちも、一斉に動き出した。混乱する禁軍の間を抜け、劉晟たちは大殿前から駆け出していく。誰も追わなかった。
いや。
追うことができなかった。目の前で起きたことが、あまりにも現実離れしていたからだ。
皇帝・劉安が倒れている。
そのすぐそばには、承琰。
そして――
皇后・令蓉。
残された三人と、混乱する禁軍だけが大殿前に取り残された。
やがて。
遠ざかっていく兵士の足跡が聞こえ令蓉は、その音へ顔を向けた。遠くへ去っていく劉晟の背中。いつの間にか自分の背丈を超え、大きくなったその背中を。息子の腕の中に、彼の守りたかった人がいる。
令蓉は、静かにその姿を見つめていた。
そして――
ほんの僅かに、口元を緩める。
「……やっと守れたわ」
誰に聞かせるでもなく。小さな声だった。
その言葉だけを残し――
令蓉は、静かに目を閉じた。
承琰は、倒れた劉安を見つめた。
しばらくして――
その身体が、もう動かないことを確認する。承琰はゆっくりと顔を上げた。
目の前には、未だ何が起きたのか理解できずにいる禁軍たち。
承琰は、深く息を吸った。
そして――
「我は皇太子、承琰」
その声は、僅かに震えていた。それでも、はっきりと大殿前へ響き渡る。
「父、劉安を討ち取った」
禁軍の間に、ざわめきが広がる。承琰は一度だけ目を閉じた。
続けて
「これより、皇位は我が継ぐ」
その言葉に、禁軍たちは息を呑んだ。誰も動かない。誰も、口を開かない。ただ、新たな皇帝の姿を見つめていた。やがて承琰は、ゆっくりと隣へ目を向ける。
そこには、令蓉が立っていた。
「……やっと終わりましたね」
承琰の声は、先ほどよりも小さかった。そして、どこか疲れたように笑う。
「どうです?」
承琰は令蓉に尋ねた。
「ええ」
一呼吸。
「女の復讐は――」
その瞳には、二十年間消えることのなかったものが宿っていた。
「二十年経っても、遅くないわね」
承琰は、何も答えなかった。ただ静かに、皇后の言葉を聞いていた。大殿前には、もう劉安の声はない。
長い年月をかけて積み重なった因縁が――
今、静かに終わろうとしていた。




