天牢に咲く華
もう、何日目になるのだろう。
瑶月は、ぼんやりと天井を見つめていた。視界が赤く染まっている。
血だろうか。それすら、もうよく分からない。瑶月は変わらず、磔にされていた。
容赦のない尋問。
鞭から始まった拷問。
水責め。殴られることなど、もはや軽い方だった。
頬は腫れ上がり、片目はほとんど見えない。最初の頃は、あれほど痛かった。
けれど今は――
痛みすら、遠い。
身体が痛みを感じることを、諦めてしまったかのようだった。足元には、血溜まりができている。瑶月は、その血溜まりをぼんやりと見つめていた。赤い水面に、ぼやけた自分の姿が映っている。
そして、ふと思った。
――去年の今頃。
私は、あの人に出会った。
荒野で。あの日から、まだ一年しか経っていない。
「……一年」
瑶月の唇が、かすかに動いた。
たった一年で。こんなにも、人は変わるのだろうか。去年の今頃は。まだ、何も知らなかった。自分を攫った男が、こんなにも優しい人だということも。その人のそばで、こんなに穏やかな時間を過ごすことになることも。
瑶月は目を閉じ、思い出そうとしていた。
平陽の屋敷にかけられていた風鈴の音を。よく聞いてた、あの澄んでいた音を。
そして――
今年の秋には、劉晟と一緒に紅葉を見るのだと。そう思っていた。
けれど。
もう、その望みは叶わない。
「…………」
瑶月は静かに目を閉じた。
その時。
ギィィ……。
重い扉が開いた。
「まだ口、割らねぇな」
「今日もやりますか」
兵士たちが入ってくる。片手には、見慣れてしまった鞭。
瑶月はゆっくりと目を開けた。もう、逃げる力もない。
それでも――
「……劉晟は」
かすかな声が漏れる。
兵士が眉を寄せる。
「何だ?」
瑶月は、僅かに息を吸った。
「……無事?」
それだけを尋ねた。
兵士たちは顔を見合わせる。やがて、一人が鼻で笑った。
「自分の心配をしろよ」
瑶月は、何も答えなかった。ただ、ほんの少しだけ目を伏せる。
――生きているなら、それでいい。
そう思った。
「始めるぞ」兵士の声が響く。
再び、天牢に重い音が落ちた。
今日も。同じ一日が始まった。




