天牢へ向かう者 2
「瑶月」
長淵は、静かに彼女を見つめた。
「劉滄燼が謀反を起こしたと、証言するんだ」
瑶月の瞳は揺れない。
「そうすれば、ここから出られる」
淡々と告げる長淵。
けれど、その声の奥には、隠しきれない焦りがあった。
「……できません」
瑶月は短く答えた。
長淵の瞳が揺れる。
「……証言すれば、ここから出られるんだ」
先ほどよりも、明らかに強い語気だった。
「できません」
瑶月は、もう一度答える。
「このままでは――」
長淵の声が僅かに震えた。
「このままでは、ここで死んでしまうぞ。瑶月」
「…………」
瑶月は、長淵をまっすぐ見つめた。
その顔には、恐怖も迷いもなかった。
そして、静かに口を開く。
「たとえ、ここで命が絶えようとも――」
一言、一言。
確かめるように。
「嘘の証言はできません」
長淵の表情が、僅かに歪んだ。
「……なぜ」
瑶月は答えた。
「彼は、謀反を計画していませんから」
静かな声だった。
けれど、その決意は揺るがなかった。
自分が助かるために、何も知らない劉晟を罪人にする。
そんなことだけは、絶対にできない。
長淵は何も言えずに、ただ目の前にいる彼女を見つめることしかできなかった。瑶月の意志があまりにも強よい。
傷だらけで。
鎖に繋がれ。
いつ死ぬかも分からない場所にいる。
それでも――
自分の信じるものだけは、決して曲げない。
長淵は、酷く痛む胸を抱えたまま踵を返す。
重い扉が閉じる。
その向こうに、瑶月を残してきた。
だが、彼は振り返らずに進んでいく。
――瑶月は、死ぬまで証言しない。
分かっていた。
あれほど傷つけられても。
自分の命が危うくても。
劉晟を謀反人にするような嘘だけは、決して口にしない。
ならば――
別の方法を探すしかない。
瑶月を、あの天牢から出す方法を。
長淵は歩きながら、必死に考えを巡らせる。
どうすればいい。
何をすれば彼女を救える。
けれど。
いくら考えても、答えが見つからない。
時間だけが過ぎていく。
「……時間がない」
長淵は小さく呟いた。
天牢に囚われている彼女に残されている時間は、もう多くはない。
このままでは――
本当に、彼女を失ってしまう。
長淵は拳を握り締めた。
何としてでも。
瑶月を救いたい。




