天牢
承琰のもとへ、その知らせが届いた時には――
すでに瑶月は、天牢へ入れられた後だった。
天牢。
それは皇族に対して重大な罪を犯した者を収監するための牢獄。
その名を聞くだけで、景都の者なら誰もが顔を強張らせる場所だった。
中では、取り調べと称して拷問が行われることも珍しくない。
「……天牢、だと?」
承琰の顔から、いつもの笑みが消えた。
すぐさま側近を呼ぶ。
「天牢へ行ってくれ」
「はっ」
「瑶月が本当に収監されているのか、現場を確かめろ」
「承知しました」
側近が急いで部屋を出ていく。
承琰は一人、卓の前に立った。
劉晟が捕らえられなかった。
それだけは、不幸中の幸いだった。
――おそらく。
瑶月が、事前に逃がしたのだろう。
あの女なら、そうする。
自分が残ることになっても。
劉晟だけは助けようとする。
「……まったく」
承琰は小さく息を吐いた。
けれど、その表情に笑みはない。
天牢に入れられた瑶月が、どんな扱いを受けるのか。
考えるだけで、胸の奥がざわつく。
やがて承琰は、手に持っていた扇子を卓上に置いた。
しばらく眺める。
そして――
「……父上から、話を聞かないとな」
今は少なくとも、情報が欲しい。
何が起きているのか。
誰が動いているのか。
なぜ瑶月が、天牢へ送られたのか。
承琰はその答えを求め、いつもより僅かに早い歩幅で劉安のもとへ向かう。
扉の前で、長淵の声が聞こえた。
「瑶月を出してください。話が違います」
「晟を捕らえるはずだった。あの女が逃がしたのだ」
「彼女は、計画に関わっていません」
「ならば、晟の命令で動いたと証言すればよい」
承琰は扉へ伸ばした手を止めた。
「そうすれば、出していただけるのですね」
「その後は、其方の好きにしろ」
長い沈黙があった。
承琰は、その沈黙が終わる前に扉を開けた。
「いやはや、朝から物騒なお話ですね」
長淵は顔を上げなかった。
劉安だけが、いつものように息子を迎える。
「先代派は、捕らえたのですか?」
「主だった者はな」
「旗を掲げる前に?」
「……何が言いたい」
承琰は笑みを深くした。
「父上のお耳は、相変わらず早いと思いまして」
動き出す前に捕らえた貴族たち。
まだ出されていない軍令。
その罪を、晟王府にいた女に証言させる。
「叔父上は、どちらへ?」
「それを聞き出している」
「では、私も探しましょう。景都の兵を、少しお借りしても?」
劉安は頷いた。
「生け捕りにしろ。勝手に殺すな」
「御意」
承琰は一礼した。
書斎を出ると、側近へ告げた。
「父上が今朝出した命令を調べて。門を閉じる命令も、人を捕らえる命令も、誰が受け取ったかまで」
側近が去る。
承琰は空になった手を見た。扇子を持ってくるのを忘れていた。




