運命の岐路
ここ数日。
瑶月は、酔仙楼にある例の個室――
その隣の部屋へ、何度も足を運んでいた。
長淵が出入りしているという、上層階の個室。
そして、その部屋へ集まる先代皇帝派の貴族たち。
瑶月は、その密談の内容を探ろうとしていた。
今日もまた。
瑶月は朱雀、玄武と共に、隣の個室で待っている。
上層階は、階下の賑わいが嘘のように静かだった。
瑶月は茶杯を置き、壁の向こうへ耳を澄ませた。
その時は急に訪れた。
「……軍は、すでに」
衣擦れの音に、言葉の続きが埋もれる。
朱雀が卓から離れた。玄武は扉の脇に立ち、廊下をうかがっている。
「滄燼様のお返事は?」
瑶月の指が、茶杯の縁で止まった。
「明日には、嫌でも旗を掲げていただくことになる」
長淵の声だった。
その後に、数人の低い笑い声が続く。
「先帝の御子が立たれれば、我らに従う者も――」
それ以上は聞き取れなかった。
瑶月は朱雀を見た。いつもの笑みは消えている。
劉晟は、今夜も晟王府で夕餉を取ると言っていた。
明日は兵の報告を聞くと。
この密談のことなど、何一つ知らない。
それなのに、壁の向こうでは、すでに彼の名の下に軍が動こうとしていた。
「戻りましょう」
瑶月は立ち上がった。廊下へ出ると、朱雀が低く尋ねる。
「すぐ、劉晟さんにお伝えしますか」
「……えぇ」
そう答えた時だった。階段を上がってきた玄武が、二人の前で足を止めた。
「晟王府の周りに、兵がいます」
「兵?」
「鎧は着ていません。ただ、同じ顔を何度か城内で見ました。禁軍かと」
瑶月は階下へ目を向けた。
酔仙楼の入口にも、卓につかず人の出入りを見ている男がいる。
明日、軍が動く。その前に、劉晟の屋敷へ禁軍が集まっている。
劉安は、知らないのではない。
知っていて、待っているのだろうか。
「府へ戻ったら、出入りできる門を確かめて。兵を連れて歩かないで」
瑶月は歩き出した。
長淵が何を約束し、誰がどこまで知っているのかは分からない。
分かるのは、このまま劉晟を屋敷に留めてはいけないということだけだった。




