宴の余韻
波乱の春宴が、終わりを告げようとしていた。
すでに大殿を後にする者もいれば、名残惜しそうに席を残している者もいる。
それぞれが、思い思いに帰路へついていた。
やがて劉安が席を立つ。
その隣には、令蓉が控えていた。
劉安が令蓉を伴って大殿を出ようとした、その時。
令蓉がふと振り返った。
そして、瑶月へ穏やかな笑みを向ける。
「今日は楽しかったわ。今度、お茶でもしましょう」
瑶月は少し驚きながらも、微笑んで頭を下げた。
「ありがとうございます。喜んで」
令蓉は小さく頷き、劉安と共に大殿を後にした。
続いて、慕容も側近に導かれながら席を立つ。
そして――
長淵が劉晟へ歩み寄った。
「今日は……すまなかった」
短い言葉だった。
劉晟は長淵を見つめる。
「かまわない」
それだけ答えると、瑶月へ視線を向けた。
「帰るぞ」
「はい」
瑶月は立ち上がり、劉晟の隣へ並んだ。
そして長淵へ向き直る。
「長淵さま、お先に」
静かに一礼する。
「ああ」
長淵はそれだけを返した。
瑶月と劉晟は並んで、大殿を後にしていく。
長淵は――
ただ、その二人の背中を見つめていた。
追うことも。
呼び止めることもできない。
ただ、遠ざかっていく背中を眺めることしかできなかった。
やがて二人の姿が大殿の外へ消える。
長淵は、しばらくその場から動かなかった。
――帰りの馬車。
車輪が石畳を規則正しく叩いている。
車内には、妙な沈黙が流れていた。
瑶月と劉晟は、向かい合うように静かに座っている。
劉晟は、今日の宴で起きたことを思い返していた。
兄の問い。
自分が口にした約束。
母の言葉。
そして――
白い衣に身を包んだ瑶月の姿。
しばらく黙っていた劉晟が、ふと顔を上げる。
まっすぐに瑶月を見つめた。
「今日の装い、よく似合っている」
「……」
瑶月が顔を上げる。
劉晟の視線は、逸らされることなく自分へ向けられていた。
その真っ直ぐな瞳に、瑶月はなぜか落ち着かなくなる。
「……綺麗だ」
「……!」
思いがけない言葉に、瑶月の頬が僅かに熱くなる。
まともにその視線を受け止めていられず、瑶月はふいと目を逸らした。
「……ありがとう」
小さな声だった。
劉晟は、それ以上何も言わなかった。
ただ静かに、窓の外へ目を向ける。
馬車は夜の景都を進んでいく。
二人の間には、先ほどとは少しだけ違う沈黙が流れていた。




