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れおくんすきです。みゆきより──初恋は未練の味

僕の名前は、れお。


1年1組、1番。


偶然だと分かっていても、

その数字を自分のものだと思っていた。


入学式でスピーチをした。

授業でもよく手を挙げた。


名前を呼ばれることには、慣れていた。

僕は、中心側の人間だと思っていた。


物心ついた頃から、襟足をずっと伸ばしていた。肩に触れるくらいまで。

切らないでいることが、僕らしさだった。


隣の席にいたのが、みゆきだった。

女子の「1番」だけど、目立つ子ではなかった。


内気で声が小さく、色白で細い体。

編み込みのポニーテールがよく似合う。


どこか、守りたくなるような存在だった。


初めて自覚したのは、冬頃だった。

黒板を見るふりをしながら、横を見る癖がついていた。


ある日の、給食の時間。

机を向かい合わせにして、同じ班で食べる。


僕は急に、うまく話せなくなった。

つい男子同士でふざけてしまう。


スピーチはできるのに、

挙手はできるのに、

みゆきの前だとおしゃべりができない。


そんな僕の様子を見て、みゆきはよく微笑んでいた。


二年生の秋。

登校して下駄箱を開けると、薄い封筒が挟まっていた。


白くて、小さくて、少しだけ紙が硬い。


封筒を開くと、

きれいに二つ折りされた手紙が入っていた。


「れおくんすきです。みゆきより」


読んだ瞬間、とても嬉しかった。

僕も、みゆきのことが好きだったから。


でも、その手紙をまた下駄箱に戻した。


その”気持ち”を、どう扱えばいいか分からなかった。


受け取ってしまえば、返さなければいけない。

返すなら、言葉にしなければいけない。


なかったことにするみたいに、僕は封筒を元の場所に戻した。


それがよくなかった。

手紙は翌日、クラスの男子たちに見つかった。


教室で読み上げられて、みゆきは泣いた。

僕は「やめろよ」と間に割って入って、その場を収めた。


でも、本当は守る前にやることがあった。


手紙をちゃんと受け取ること。

みゆきの「好き」に、向き合うこと。


それができなかった僕が、いちばんみゆきを傷つけたのではないか。


季節は巡り、冬になる。


休み時間、中庭で「はないちもんめ」をした。

たまたまみゆきと隣になる。


ニコッと微笑んでくれた。

手は少し冷たくて、握ると細かった。


この時間が、ずっと続けばいいのに。

終わってからも、しばらく指先に熱が残った。


二年生の終わり。


みゆきが転校することになった。

遠くへ引っ越すらしい。


最後の帰りの会。


みゆきはみんなの前でお別れの挨拶をした。

声は震えて、泣くのをこらえている顔だった。


それからみゆきは、一人ひとりに手紙を配って回った。机に封筒が置かれるたび、紙が擦れる乾いた音がした。


僕の机にも、みゆきは一通の手紙を置いた。


僕を見た気がしたけれど、目は合わなかった。僕は何か言おうとして、でも言えなかった。


封筒を開けると、こう書いてあった。


「れおくんすきです。みゆきより」


見たことのある言葉だった。


僕は嬉しかった。と同時に、安堵した。

そしてまた、返す言葉が見つからなかった。


それを最後に、みゆきは転校してしまった。


僕の中には、

下駄箱に戻した後味の悪さと、

中庭で手をつないだ感触と、

返事のできなかった手紙だけが残った。


三年生になる前。


僕は髪を切った。

ずっと伸ばしていた、自慢の襟足を。


僕は、主人公ではなかった。


少なくとも、みゆきの「好き」に対して、主人公みたいな返事を返せるほど、強くなかった。


こうして、僕の初恋は儚く終わった。

口の中に、甘酸っぱい未練の味を残して。

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