沈黙がばれる帰り道
帰り道、夕陽が街を淡く染めていた。
真帆がふいに歩みを止める。
「ねえ、亜由美。私……好きな人ができた」
その瞬間、胸がざわつく。
ああ……たぶん。
なんとなく、分かっていた。
「……誰?」
声が少しだけ乾いていた。
真帆は照れたように笑って言った。
「藤宮くん」
……やっぱり。
心臓がひとつ跳ねて沈んだ。
動揺を悟られたくなくて、私はむしろ言葉を重ねてしまう。
「藤宮くん、いいよね。すごく優しいし、誰にでも丁寧で…… 。図書委員のときも、ちゃんと仕事しててさ。 あと、授業中にノート取るのも綺麗だし……」
真帆が、じっとこちらを見る。
「……ねえ」
真帆が小さく息を吸う。
「なんでそんなに詳しいの?」
その問いのあと、 ふたりの間に沈黙が落ちた。
風の音だけが通り抜ける。
私は口を開こうとして、 でも言葉が出てこなかった。その“言えなさ”が、語ってしまう。
それでも真帆は、目をそらして小さく笑った。
「……ううん、ありがと。亜由美がそう言ってくれると、自信つく」
その笑顔は、どこかぎこちない。
私の笑顔も、きっと同じだ。
沈黙がまた落ちる。
さっきよりも、もっと重い沈黙。
そのときだった。
前方の道を、藤宮くんが歩いてきた。
夕陽を背にして、静かに。
私の心臓が跳ねる。 真帆も気づく。
でも、ふたりとも何も言わない。
藤宮くんは、こちらに気づかず通り過ぎていく。 その横顔が、夕陽に照らされて一瞬だけ輝いた。
沈黙が、さらに重くなる。
現実が、目の前を歩いていった。
真帆が小さくつぶやく。
「……やっぱ、かっこいいよね」
私は頷くしかなかった。
声を出したら、何かがこぼれそうで。
「私は……やっぱり好き」
その言葉が、決定打だった。
「……うん」
言ったあと、また沈黙が落ちる。
足音だけが妙に響いて、 言葉はどちらからも出てこない。
気づいているのに触れない空気が、 胸にじわりと広がっていく。
誰も悪くない。
ただ、好きな人が同じだっただけ。
それだけなのに、 沈黙がこんなにも苦しい。
真帆と別れて、角を曲がった。
足が止まる。
夕陽はもう沈みかけていて、街の色がゆっくり夜に変わっていく。
さっきまで隣にいたはずなのに、空気だけがまだ肩に残っていた。
「……はあ」
小さく息が漏れる。
胸の奥がじんと熱い。
でも、涙は出ない。
泣くほどのことじゃない。
そう思おうとするたび、喉の奥がつまる。
ふと前を見ると、藤宮くんが通り過ぎた道が、まっすぐ伸びていた。
その先に、真帆の“好き”がある。
私の“好き”は、立ち止まったまま。
「……私だって、好きだから」
誰に向けた言葉でもない。
風に消えていく。
家までの道はいつもと同じなのに、
今日はやけに静かだった。
沈黙が、まだついてくる。




