文化祭の魔法が解けた日、私は終わりを先に告げられた
文化祭の準備という免罪符が、私たちをただのクラスメイト以上の何かに見せかけていた。
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同じ係になった。
それだけのこと。
毎日、放課後の教室で顔を合わせる。
毎日、少しずつ、どうでもいい言葉を交わす。
段ボールを切るカッターの音。
模造紙の端を押さえる指先。
気づけば、その「作業」こそが、私の日常の主軸になっていた。
好きだと自覚したのは、たぶん、そんな些細な瞬間だったと思う。そうたくんの、一所懸命で優しいところ。
文化祭が近づくにつれて、距離は自然と縮まっていった。
同時に、少しだけ怖かった。
祭りが終われば、この魔法は解ける。全部、最初からなかったことみたいになる気がした。
だから、決めた。
この喧騒が終わったら、ちゃんと伝えたい。
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当日も、祭りのあとの静かな片付けの日も、私たちは当たり前のように隣にいた。
最後の机を運び終えて、夕暮れが差し込む、埃の舞う教室。
「ねえ、そうたくん」
意を決して、言おうと思った。
指先が震えている。頭の中で何度も練習した言葉が、今にも飛びそうになる。
それでも、言うと決めた。
でも、私の唇が動くより早く、彼が言った。
「ちょっといい?」
胸が、うるさいくらいに高鳴る。
ちょうどよかった。もしかして、同じことを考えてくれていたのかもしれない。
「どうしたの?」
努めて冷静に、笑いかける。
そのまま、想いを溢れさせればよかった。
でも、先を越されて。
「俺さ、彼女ができたんだ」
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一瞬、思考が白く濁った。
音が、少しだけ遠くなる。
「……そっか、おめでとう」
反射だった。
喉の奥が引き攣れていたけれど、「ふつう」の友達として、きちんと笑えたと思う。
「ありがとう」
彼は、照れくさそうに笑った。
何度も見てきた、あの優しい顔で。
少しの沈黙。
西日が、私たちの間を、残酷なほど真っ直ぐに照らしていた。
「だからさ、えみとも、ちょっと距離をとらないとなって思ってて」
言葉が、うまく意味にならない。
「……そっか」
それしか出てこなかった。
「ごめん」
その一言が、優しさなのか、拒絶なのか。
考える余裕すら、私にはなかった。
「ううん、大丈夫。幸せにね」
少しだけ笑って、私は教室を出た。
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帰り道。
西日が、スポットライトのように私を照らす。
周りの音がやけに大きく聞こえる。
誰かの笑い声も、車の音も、全部が遠い。
さっきまでいた教室だけが、
どこか別の場所みたいだった。
冷え始めた空気を吸い込みながら、
カッターで切った段ボールの感触を思い出す。
全部、少しずつ好きになっていた。
全部、少しずつ、私だけが積み上げていた。
でも。
言わなかったことも、
言えなかったことも、
もう、どちらでもよかった。
ただひとつ。
あの教室で、
肩が触れ合っていた、あの距離だけが。
少しだけ近く、少しだけ遅かった。
ただ、それだけのこと。




