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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第一章 一年で一番幸せな日とか

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#5 ダンジョン?

前回のあらすじ

 兵士に町が囲まれていることが判明し、西へ逃げることになる。そこで、僕たちが中央王国にかなり執拗に追われていることに気づく。

 白昼夢みたいな日だ。ふとそう思った。


「あまり物音を立てるな。しかし、なるべく俊敏に動け」


 管理などされたこともなければその存在も知らなそうな裏路地を僕ら四人は駆けていた。古ぼけて腐り切ったこの町は、すでに中央王国とやらの騎士団の手に落ちたようだった。そこら中を純白と鋼色が折り重なった甲冑の兵士が闊歩し、この町に滞在していた人々を連行している。中には、暴行を加えている者や、家屋を荒らす者もいた。兵士達が呈している様相は、格好が違えば蛮族そのものだった。


「あんまりジロジロ見ない方がいいですよ。どうせ何もできないんですから、心の健康によくありません」


 僕の前にいるナドが、僕の目線を察してそう言った。確かに、すぐそばで起きている惨状には盲目的でいた方がいい。


 そうして目を背けつつ、裏路地に現れる兵士を避けながら、僕たちは西に向かって進み、いつの間にか町の外れまでやってきていた。しかし、それと同時に連なっていた家屋が形作ってくれていた裏路地がなくなるということでもある。


 通りに出る。つまりは、武装した何十人もの兵士に見つかるということだ。そうなれば予見するのは死、全滅、終わりだ。


「さて、どうしますかね」


 ナドが八方塞がりといった様子で呟いた。町の出口としての役割を持っているであろうこの場所には、通りよりさらに多くの兵士が居た。この町を囲んでいるというのは本当だったらしい。


 ということは、この町に穴はない。


「あ! ちょっと! どこ行くんですか!」


 躊躇っていると、おもむろにトコロデが立ち上がり、通りの方へ堂々と出て行った。


 ……何をすると僕たちに伝えることなく。どうするつもりだろう? まさか、女であることを活用した、人情に訴求することで隙を作り出そうとしているのかもしれない。そうやって、囮となってくれることで!


 そんな風に僕は予想したのだが、ローブを被ったトコロデはどこからかロッドを取り出した。木の根をそのまま流用したような、オーソドックスなロッドである。ただ、ロッドの頭にあたる部分だけ、やけに色が濃く変色していたのがやけに目に付いた。


「ん……おい、アイツって……」当然の如く兵士に見つかるトコロデ。二、三人の甲冑が、一定のリズムで金属音を鳴らし、トコロデに近づいていく。


「あいつ……まさか!」ソシテが初めて焦ったような様子を見せた。まさか、魔法を使って切り抜ける気だろうか? だとすれば、この大人数。相当強力な魔法なのだろう。僕らも巻き込まれかねない。


 そうしてトコロデはロッドをかざし、振り下ろした。


 兵士の頭に。兜に。上から思い切り地面まで一直線に。


「がっ」


 鈍い音が響いた。兵士は完全にのびており、地面と平行になっている。


 いや、え? 殴った? あのロッドで?


 そうなると栓を抜いたようにトコロデは止まらない。二の手三の手で的確に兵士を殴り倒していく。そうしてあっという間に近づいてきた兵士を軒並みダウンさせた後、僕らの方を向いてこう言った。


「行こう!」


 ほっぺたに血が張り付いていた。


「居たぞ! こっちだ!」


 その声を合図に全員が走り出していた。とにかく町の外へ外へと駆けていた。トコロデが倒してくれた数人の兵士によって、丁度包囲網に穴が空いており、すぐ後ろを何百人に追われることにはなったが、町を抜け出すことには成功したのだ。


 で、どうするつもりなんだろう。このまま森を抜けるまで、追っ手を撒くまで、朝日が昇るまで、ずっと全力疾走というわけにはいかない。もしそうなったとしても、我々より日々鍛えてる兵士たちの方が走ることに関してエキスパートのはずだ。


 だから今、ものすごく無茶な逃避行を遂行しているというのは言うまでも無いだろう。


 このまま逃げていても、いつかは捕まる。僕らの背を追う兵士全員を薙ぎ倒すことも不可能だ。とてもここから西に行き、いつか渓谷にたどり着いたとしても、その渓谷を乗り越えられはしないだろう。


 詰まるところ、詰んだのだ。


「どう! する気なんですか?! ソシテ!」ナドが必死そうにソシテへ詰問する。


「どうしたもんかな……」打開策はないようだ。


 僕もどうにかならないかと、先程の閃きを期待して無意味そうな思考を繰り返していたのだが、やはり僕も全く思いつかない。単純に全力疾走中の体が頭脳労働には不向きだというだけかもしれないが。


「やっぱり全員倒すしかないのかな?」


 僕らの後ろをロッドを持ちながら走るトコロデがそう言った。先程までは気づかなかったが、トコロデは追手の兵士たちによる槍や石なんかの投擲物を逐一弾いてくれていたようだ。もちろん魔法や魔力なんかの神秘ではなく、ロッドそのもので物理的に、パワフルに。


「うぉっ!」


 トコロデの方を見ていたせいか、前方に生えていた木の枝に気づかず、危うくぶつかるところだった。しかし、それにしても森というのは進みづらい。地面は根が這い足を絡める。並んだ樹木が道を狭める。空を覆う枝が視界を遮る。あまつさえ夜でもある。満月なのは救いだったが、しかし暗闇が空気を満たしているのは事実だ。


 そう言った悪条件も一助となって、兵士と僕たちの距離は縮まりつつあった。


 あと、シンプルに僕の体力も限界だった。


「もしかすると……いや、どうだ? だが、しかし、賭けるしかないのか……?」


 ふと、風の音に紛れてソシテのそんな呟きが聞こえた。賭ける、とは一体何にだろう。


「何か……ハァ、思いついたんですか、ハァ……」


「これは賭けだ。正直勝算はない」


「で、その賭けの内容は?」


「西に向かうのはやめて、徐々に北西へ舵を切る。そこに、おそらくは……何かしらがある」


「ハァ……え? な、何かしら?」


 著しく具体性を欠いた表現に耳を疑った。これから命運を賭けようとしているモノの正体が何かしらなどというシルエットもない表現なのだ。僕が当惑するのは必然だった。


「何かわからんから何かしらなんだ。少なくとも、渓谷よりはずっと近い。追いつかれる前に辿りつける」


「うーん、じゃあ、そっちに向かうしかないの?」


 否定するに足る材料を、僕は持ち合わせていなかった。馬鹿正直に突っ走っても追いつかれ、賭けに負けても殺される。


 そんな二択を前にして、僕は自分の放ったあの言葉を思い出した。


 片方は『行けば必ず大怪我を負う道』で、もう片方は『何が起こるか分からないが、死ぬ可能性が高い道』だったら、どちらを選ぶか。


 今はまさしくその状況だ。


 ならば僕が選ぶ道は決している。


「北西に、行きましょう!」


 僕は誰よりも先に進路を変えた。


「あっ」


 しかし、不慣れな道を先導するというのは案外難しいもので、すぐに木の根に足を取られてすっ転んでしまった。


 そうして地面と熱い抱擁を交わすことになると思ったのだが、その接触は起こらなかったのだ。むしろ逆に、ずっと空を漂っている。唯一感触があったのは右足首で、恐る恐る目を開けると僕の右足首は何者かに掴まれていた。


「ドジだね〜」


 それはトコロデだった。右手で僕の右足首を掴み、掲げている。僕はというと、若干戦旗のようになびきながら、宙吊りの姿勢になっていた。


「はい、これ持ってて」そう言ってトコロデはロッドを僕の方へ投げてきた。びっくりして取りこぼしそうになったが危うくすんでのところでしっかり捉えることができた。


 そうして両手が自由になったトコロデは、左足の足首を左手で掴み、掲げていた手を下ろした。僕はトコロデの背後を見るような形で背負われたのだ。そんな体勢を保ったまま、トコロデは変わらず走り続けていた。


 足首を掴むその握力は、とても女のなせるものではなかった。


 兵士が変わらず追ってきているのがよく見えた。どころか、彼らが掲げている松明が、増えたような気がする。迅速な連携訓練の賜物だろう。


 数分、進路変えてから、それだけの間僕たちは走っていた。一体、僕たちの目指す場所には何があるのだろう。ソシテの言った、何かしらとは一体なんなのだろう?


 それは僕たちを救うのだろうか。それとも貶めるのだろうか。


 そんな道を進まざるを得ない僕たちは、とても不幸だと、なぜだか僕は感じていた。


 自業自得の行き着くところなのかもしれないのに。


 僕の頭に血が上って限界が近づいてきた頃、トコロデの足が止まった。


「ここですか?」


「多分な」


「何があるんですか?」僕がそう聞くと、トコロデは両手をパッと離す。頭から地面に激突して痛みが頭の内を駆け回った。


「いてて……」立ち上がって、彼らが見ているものを僕も見る。そこに広がっていたのは、中央に歪な生え方をした大樹が鎮座している、とても広い野原だった。


「ただの、原っぱ? ここに何があるの?」トコロデが純粋そうに疑問を述べた。


「それは俺も知るところではないんだがな……とにかくあの木だ。怪しいのはあれだろう」


 そうのんびりもしていられないので、僕たちはあの木を目指すことにした。


 遠目から見ただけじゃ分からなかったが、大樹は思っていたより高く長くうねるように生えていた。もしかするとこのあまりに広大な野原は、大樹によって周りの木が淘汰された結果なのかもしれない。


「弓の音……」


 そうトコロデがつぶやいたかと、月の光に照らされて、空から雨が降っているのがわかった。否、雨と言ってもそれは、矢の雨だ。


「杖、返して」強引に僕の手からロッドを奪い返すトコロデ。


 そうして息つく間もなく僕は僕以外の三人が作ったテントに囲まれ、ソシテが錆びたナイフで防護壁を作り、トコロデがロッドで矢を弾き落とし、ナドが空に背を向けて矢を浴びていた。


 皆一様に別々の方向を向いているということは、この野原は囲まれているということになる。しかし僕らは追われていた兵士たちに追いつかれた訳ではない。その証拠に、僕らがやってきた方向からは矢が飛んできていない。


 だがそれ以外に三面は違う。少なくとも誰かしら……それも大量の人間がいる。


「突撃ィーッ! 前進ー!」


 大勢の掛け声と共に、土を踏み荒らす足音が周囲から聞こえてくる。


「なるほどな……急ぐぞ!」


 そうして僕らは真っ先に、この原っぱの中央にそび絵立つ樹木へと駆け出した。幸い、ある程度は樹木に近づけていたのですぐに着いた。のはいいのだが……


「で、この木をどうするんですか?!」ナドが随分慌てた様子でそう言った。


 一見すると本当にただの木だ。根っこが少し露出していて、岩石か何かに絡みついているらしい。


「根を退けろ! 兵士がそこまで来てるぞ!」


「わかった!」


 木の根は何か巨大な岩石のように絡みついており、それをどかすのに少し苦労したが、四人が全力で引っ張ることでようやく人一人分の隙間を開けることに成功した。


 その先にあったのは、風化した岩石が積み重なり、所々に苔の生えた、遺跡のような出立ちの建造物だった。


「これって、ダンジョン?」トコロデが心底疑問そうに言った。


「これが何だろうと……行くしかない」


 ソシテは振り返ってそう言った。


 兵士の軍勢はすぐそこまでやってきていた。兜のせいで顔つきは見て取れないが、その使命と闘志に凝り固まった表情は容易に想像できる。


 僕は石造りの深淵を覗く。何一つ明かりのない僕らの道筋。


「行くぞ!」


 何が起こるか分からない。そんな道を僕らは選んだのだった。




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