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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第二章 雨が降りそうな日に

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#23 1日目ー鮮烈な現実下

前回のあらすじ

 自らを精神の医者だとなのるオヨビと出会うが、殺人鬼事件の真犯人であると自白される。そして殺人鬼を操り、ハウを追い詰めると宣言した。

「これから私は殺人鬼、つまりは真ではない犯人を用い君を追い詰める。そうして君の精神性を測る。君は最大の不幸に見舞われないよう、精神崩壊をしないよう、精一杯気を張って、犯人探しに勤めたまえ」


 オヨビはそう言った。


 死体は沈黙し、僕もまた同様に固まっていた。


「では、私はこれで。せいぜい頑張るように」


 と、オヨビは言った。


「あ、ちょっと!」


 僕は止めようと、オヨビの元へ駆け寄ろうとしたが、足に力が入らない。


 参っているのだ。バラバラ死体を前にして、意味不明な宣言を喰らった今の状況に。


 足が震えて前へと進めない。困惑して体が迷ってしまっている。


 そうしてオヨビは立ち止まることなく、退店していった。その振る舞いは本当にただ喫茶店を訪れ、そのまま茶を飲んであっさり満足して店を去る、日常の一部のようであり、人死が起きているこの場所において限りなく不似合いだった。


「……なんだよ、これ」


 僕の声は震えていた。


 と、とり、とりあえず、憲兵を呼ばなければ――――いや、ダメだ。呼べない。


 僕はなぜだか、どうしてかわからないが、類を見ないほど厳令の上に指名手配された極悪犯という扱いを受けている。顔も割れているのだ。今ここに僕が憲兵を呼んだら、この殺人の罪共々捕まりかねない。


 まぁ、僕に課せられた罪状のことを考えれば、殺人一つ増えたところで大差はないのだが……


 しかし、とにかく捕まるわけにはいかない。憲兵と関わらないようにするのは当然だ。


 この状況で僕がしないといけないことは、つまり――――


 逃げる!


 そうして僕はそのまま、死体を放置して現場から逃走した。


 さっきのオヨビの退店が客としての日常なら、僕はさながら食い逃げだ。


 しかし、本当とんでもないことになってしまった。今のうちに起きたことを整理しよう。走りながら頭の中を整頓しよう。


 差し当たってはオヨビについてだ。頭の医者、いや、精神の医者だっけか。その精神のお医者さんが、僕に興味があって……それで、殺人鬼を操っている真犯人。


 真犯人が先に判明する殺人事件とは、中々な新機軸。いやいや、奇を衒いすぎだろう。


 で、殺人鬼を操っているから、それで僕を追い詰めるって? 言ってったっけ? どうもそれで僕の精神性を測るとかどうとか。


 そのあたりの専門的なことは僕には全く理解できないけれど、しかし僕が不幸な目に遭いそうなのは明白だし迷惑だ。


「そうだ……ナラに報告してみよう」


 彼女なら何の問題もなく憲兵に通報できるだろうし、何より僕以上にこの都市のことを知っているはずだ。殺人鬼の正体までは突き止められないにしろ、手がかりくらいは掴めるかもしれない。


 それから僕はナラが向かった方向へと舵を切り、彼女の制服を探した。


 ボロ切れを着ている男、清潔そうなシャツを着飾った男、薄汚れた布を巻いた見窄らしい女、長いスカートとフリルのついた服を纏った女。


 意外とこの都市は貧富の差が如実に現れていることに、僕は気づく。しかし、上も下も生活する範囲が同じなのだ。


 貧乏人も富裕層も、同じ店を利用し、同じものを買う。同じものを食べ、同じ道具を使っている。


 なのに生まれる貧富の差。それが一体何を意味しているのかは、浅学たる僕にはわからないのだった。


「あっ、いた。おーい、ナラ若社長ー!」


 かつて見た新聞社の制服に、ピタリ収まる格好の少女がいたので、僕はそう呼びかけた。そのままナラの元まで僕は駆け寄る。


「はぁ……はぁ……やっと見つけた……ナラ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


 僕は息も絶え絶えに、ナラにそう聞いた。案外僕は焦っているのかもしれない。


「何。そしてあなたは誰。この私に気安く話しかけて、あまつさえナラと私を間違えるなんて狼藉をする愚か者は」


 そこにいたのは、格好や雰囲気はナラと似通っていながら、その攻撃的な目つきと自信に裏付けされたであろう凝り固まった表情はナラとは似ても似つかない。


「……ナラ?」


「だから、私はナラじゃない」


 ……そういえば、ナラには確か妹がいるはずだ。くだらない駄洒落を添えて紹介していたのを覚えている。


「もしかして、ナラの妹さんだったり?」


「さっきからナラのことを呼び捨てに、しかも馴れ馴れしく話しかけているみたいだけれど、どういう関係なの。私、あなたみたいな人間のことは一度も聞いたことがないのだけれど」


 それと、早く身分を名乗りなさい。と、随分キツい言い方で少女は言い切った。明らかに年上の、しかも男にそこまで大きく出られるのは素直に感心する。


「あ、えっと、僕はハウエヴァーです。それで僕はナラと今、殺人鬼の調査の最中なんですが……」


 その毅然とした態度に敬意を抱いたのか、つい敬語になってしまった。


「そう。あなたは何。新手の詐欺師か何か?」


 詐欺師だと思われている……


「僕は、そんなあくどい人間ではないけど……ところで、君は一体何者なんだい?」


「私についての情報は高いわよ。知りたければ金を払いなさい」


 金……全く、現金な少女たちだ。


「あいにくお金はないんだけど……だったら、ナラの居場所は知らない?」


「それも貴重な情報よ。金を払いなさい」


 むむむ……なんとも金に執着した子だろう。


「お金は……ないんだけど、うーん……ナラに払った分のお釣りでなんとかならない?」


 と言って、ナラから買った新聞を取り出す。


「ふん、一応はお客みたいね。それで、いくら払ったの」


「金貨一枚」


「ふーん、そう。頭が沸いてるんじゃないの?」


「酷い言いようだな!」


「そう。金がダメなら他の有力情報で代わりとしても良いわよ」


 というか、そうだ! 僕は殺人鬼の話をナラにしたいのだ。


「だったら、その例の殺人鬼に関する話なんだけど、ついさっきそこで事件がちょうど起きたんだよ! だから、それについてナラに報告しないといけないんだけど……」


「そう。殺人事件の目撃者というには随分冷静なようだけれど。普通、そういう時は憲兵に通報するとか、事態の収束を図ろうとしない?」


 な……確かにそれはそうだろうけど……しかし僕には憲兵を頼れない理由があるのだ。


「それに、そうも淡々と話されるとあなたがその殺人鬼なんじゃないかって疑ってしまうわ。特記指名手配なんでしょう」


 血の気が引いて、ぬめった汗が吹き出す。


 どうして知っている?


「”どうして知っている?”なんて顔してるわね。この城塞都市で気づかれないと、本気で思っていたの? 徹底して頭が沸いているのね」


「えっとぉ……それは、その……」


「良いわ」


 え?


「えと……なにが良いんでしょうか……」


「だから、あなたという特記指名手配犯がこの都市にいるという情報で、情報屋たる私の情報網を提供してあげる。と言っているのよ」


 それはありがたいことこの上ない話だが、しかし僕がこの都市に存在していることを代価として認めるということはつまり……どういうことになるのだろう?


 なんだか、あんまり悪いことは起きないんじゃないだろうか。むしろ好都合とも言えるのでは?


「まぁ、君が良いならそれで良いけれど。あ、でも、できれば憲兵には教えないで欲しいな」


「ふん、それは私の勝手よ。差し出した硬貨の使い道を制限させる客などいないわ」


 それはそうだろうけれど。


「うーん……いいか。で、僕のことを対価として認めてくれるなら、僕の質問にはどれくらい答えてくれるのかな」


 僕はむしろ開き直った勢いで、少女に言った。


「私はデモ。ナラの妹。情報屋よ。ナラの居場所については残念ながら知らないわ」


 そうか。となるとまた東奔西走、汗水垂らして人探しだ。


「わかったよ。ありがとう。それじゃあ僕はここで――――」


 そう言って僕はデモに背を向けた。


「待ちなさい」


 が、しかし呼び止められた。


「まだ何か?」


「言ったでしょう。聞いていなかったの? 私は”情報屋”よ。この都市きっての裏社会に根付く有力有望な情報屋よ」


 頼りなさいよ。


 用いなさいよ。


 求めなさいよ。


 と、堂々と、あるいは粛々と、デモは言った。


「幸いあなたという情報のお釣りはまだあるわ。料金の範囲内までは働いてあげる」


「いや、えっと、別に必要はない……のですけど」


「利用しなさい」


 怖い。


「だったら、一つ――――」


 睨まれた。


「幾つか、聞きたいことがあるんだけど」


「何よ。仕方がないけど、本当仕事として、しょうがないから不可抗力的に、私の情報を使わせてあげる」


 なんだか、とても嬉しそうに見えるのは僕の勝手な思い込みだろうか。


「オヨビという人について知りたいんだけど、何かあるかな?」


「医師会の十人。そのうちの一人よ。精神に関する医者ね。たしか今都市に出張中らしいけれど、なに、あなた心に疾患でも抱えているの」


「別にそういうわけではないのだけれど」


 医者だというのは本当だったのか。あんな格好と振る舞い共々信頼できない医者がいていいのだろうか。


「ところで、医師会の十人っていうのは?」


「何? あなたそんなことも知らないの? 一般常識レベルよ?」


「あいにく記憶力が悪いもので」


 一息ついて、デモは続ける。


「中央王国が財力を尽くして抱えている各医療分野の頂点、スペシャリストたち。彼ら彼女らのおかげで、世界の人口は十倍増えたとまで言われているわ」


「それはすごい」


 しかし、そこまで尊大な存在が、どうして殺人事件の真犯人なんかに成り下がったのだろう。あぁ、いや、動機ならすでに判明しているのか。


 僕を追い詰めて、


 精神性を測る。


 それが何を意味しているかは、さっぱりわからないけれど。


「そういえば、その医師会の十人。オヨビも含めて計四人が今この都市に来ているわ。たしか、学術研究の一環とかで」


「四人?」


「そうよ。オヨビ以外の三人は――――」と言って続ける。


 子供専門、シタガイマシテ。


 外傷専門、トコロガ。


 脳神経専門、デスガ。


「の三人よ」


「ふむ……」


 オヨビは犯人を見つけろと言っていた。真犯人が自白した時点でミステリーとしては出オチもいいところだけど、真ではない犯人はまだ不明のままだ。


 裏で支配する黒幕より、表で手を下す実行犯の方が脅威としては強い。


 オヨビは犯人を使って僕を追い詰めると高らかに宣言した。それの実害が未だ出ていないので僕はどう動くか決めあぐねているのだが……


「もしかすると、その三人のうちの誰かが殺人鬼なのかもな……」


「どういう推理の飛躍よ」


 思えば、現在怪我の療養中である僕の目的は、ナラの新聞づくりを手伝うことである。殺人鬼の正体を明かすことが、目的を果たすことにつながるというのなら……


「デモ、お釣りはまだ残ってる?」


「ええ」


「だったら最後に一つ。その三人の居場所はわかる?」


「もちろんよ。それぞれ――――」


 殺人鬼が僕を狙うというのなら、そこに害がないとは言えないだろう。事実人が死んでいるのを僕は見たのだ。憲兵に任せることもできるが、これは僕自身の問題な気がする。


 故に僕は、片腕を大きく負傷して力と記憶のない弱々しい存在だけれど、人を殺す鬼の面の皮をひっぺがし、世の衆目に晒しあげることにしたのだった。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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