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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第二章 雨が降りそうな日に

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#19 3日目ー接続的空想上

前回のあらすじ

 寄生者の正体を明かすため行動するナドだが、しかし道中で出会ったナラに指名手配犯であることがバレてしまう。誤解を解くためその背中を追うが、そこで意識がまた途切れてしまい、目が覚めた時ナラを手にかけていた。

「これは……どういう……」


 横たわったナラさんの肢体を見て、私の頭にいくつもの否定したい妄想が広がります。


 これは私がやったのではないか。と。


 さらに言えば、この都市を騒がせた殺人鬼の正体もまた、この私なのではないでしょうか?


 だとすれば……私は……とんでもないことに見舞われてしまったのかもしれません。


「と、とりあえず、介抱、じゃなくて、えっと、どうしましょう」


 あたふたしながらも、倒れたナラさんの元へ駆け寄り、状態を確認します。


「……そんな」


 息はありませんでした。死んでいます。


 心臓を貫かれ、おそらくは死んだ後につけられたであろう傷が散見されます。ひどい仕打ちです。これが自分の体で行われた行為であることを考えると、吐き気を催します。


「私が……こんなおかしなことに、巻き込まれたから……」


 いえ、それは被害者ぶりすぎですね。私は巻き込まれてなお怠惰でした。


 事態の解決に及び腰でした。こうなるとは思っていなかった、とはいくらでも言えますが、こうならないように出来る方法は、いくらでもあったはずです。


 私は、最低です。こんな幼い少女を、自分の事情に巻き込んでしまったのですから。


 そして命を奪ってしまった。


 そんなのは、そんなの……


「おーい! ナラ! どこだー!」


 この声は、ハウさんでしょうか? ナラさんを探しに来たのでしょうか。


「あ、ナド! ……お前それ、ナラ?」


「ハウさん……」


 速攻で見つかってしまいました。隠れる時間なんてありません。


「なんでナドがここに……って、ナラのその傷……だ、大丈夫、じゃないよな」


 私はナラさんを抱えます。どこかに溜まっていた血が、その拍子になだれ落ちて地面に赤いシミを作りました。


「私は……取り返しのつかないことをしました。あなたには、いや、あなた以外にも、ですね。どう言葉を尽くしても贖罪はできません」


「何言ってるんだよ……ナド……それ、ナラ、どうしたんだよ」


「おそらくは私が殺人鬼だったのでしょう。無自覚に人を殺してしまったんです。もうあなたたちの仲間には戻れません」


 覚悟を持って、敵を倒す。それならまだしも、私は正当な理由なく人を殺しました。


 精神の中身が誰かなんてのは関係ありません。見苦しい言い訳でしかないでしょう。


 私がすべきなのは、おのずからこの場を離れることです。


 誰も殺さないように、誰も傷つけないように、私の頭の中に巣食う恐ろしい存在の魔の手に、誰も晒されないように。


「何言ってるの?」


「さようなら」


 と、私はそう言って、ハウさんの横を走って通り過ぎました。


「痛っ」


 その拍子に、彼の右腕と私の体がぶつかります。


「おい! 待てよナド!」


 ハウさんが追いかけてくる気配がしましたが、私はそれを気にせず一目散に走り去りました。追いつかれる心配はありません。


 私はただ無心で走り続けました。


 何か考え事をすべきだったような気もしますし、すべきことがあったような気がしますが、それも全て思い出せません。


 あぁ、もはやこのさい、全て忘れてしまえればいいのに。


 私は裏路地を駆けます。角を曲り、ゴミを踏みつけ、段差に躓きながら、行くアテなどなくがむしゃらに走り続けます。


「はぁ……はぁ……」


 精根尽きてたどり着いたのは、一昨日訪れたあの精神に関する医者がいた更地でした。相変わらず更地のど真ん中に上開きの戸がついています。


 そう言えば、いきなり消えていなくなったあの精神の専門家たるあのお医者さん、今はいらっしゃるのでしょうか?


「とりあえずここに身を隠しましょう」


 例え居ようが居まいが関係ありません。もし邪魔をするようなら、この手で……


 すっかり私は変わってしまいましたね。悪意を身に宿してしまいました。


 ハシゴを降りて、かつて訪れたあの部屋へ戻ります。重苦しい鉄扉を開ければ、そこには相変わらず散らかった部屋がありました。


 思えば、あの時からすでに私はかの寄生者に体を乗っ取られきっていたのでしょう。一度の診察に昼から夕暮れまで時間がかかるとは到底思えません。


 ……であれば、この部屋で一体何があったんでしょうね?


「君がここに戻ってくるであろう周期はすでに知っていたよ」


 後ろから話しかけられました。私、後ろ取られすぎじゃないですか?


「あなたは……」


「そういえば、自己紹介がまだだった。私の名前はオヨビという。頭の医者だよ」


 そう言って、彼女は扉に寄りかかりました。顔色は非常に悪く、クマが目の下にくっきり出ています。短い黒髪も艶が出て、フケを散見されます。


「なんの用ですか」


「本来、この場面でそれを聞くのは私のはずだが、しかし今回はその周期で正しい。私は用があって君に話しかけた」


「だから、その用っていうのは」


「君の頭の中にいる、そいつの件についてだ」


 私の言葉を遮って、ズバリと彼女は言いました。その張られた剣幕に、物怖じしてしまいます。


「それと、ついでにその少女にも、用がないわけじゃない。死なれたら困る。ここに持ってきて貰えたのは良い周期だ」


 何を言っているのかさっぱりわかりません。いやまぁ、決して理解できないわけじゃないんですが、しかしその意思が見えないのです。


 危険な香りが顔にまとわりついてくるようです。


「ナラさんに用があるなら、それは残念でしたね……彼女は、もうすでに……」


「もうすでに?」


「だから、その、お亡くなりに……」


 私がしました。


「だったら何だ? 人は死んだら周期が終わるわけじゃない。それに、まだ心臓を動かせそうじゃないか」


「は? いやでも、心臓が貫かれてるんですよ?」


「それくらい何ともない。バラバラ死体だというならまだしも」


「でも、いやいや、血だって大量に……」


「そんなのは屁でもない。木乃伊だというならまだしも」


 何を言っているんでしょうこの人は。頭がおかしいんでしょうか。この状態の人間を、まるで治して起き上がらせて会話できるまで回復できる、みたいな言い草です。


 そんなことができるなら、人は死にません。世界の医療は完全無欠です。


「私の知り合い……私と同じ医師会の十人のうちの一人に、生かしと殺しのスペシャリストがいる。都合よくそいつは今私の言いなりで、尚且つこの都市にいる。そいつに任せれば、その程度の傷は簡単に治せる」


「それは……いや、そんなのは……」


 あまりに都合が良すぎるというか……素直に怪しいというか……


「君の心中も察するよ。その少女の死体が随分と魅惑的なのはわかるが、しかしその欲望を果たすのはまだもう少し後に――――」


「生き返らせてください、絶対に、それと私にはそんな悪趣味はありません」


 ふむ、そうか。と言ってオヨビさんはこちらに歩いてきました。


「まぁ座りたまえよ。そもそも私は君と話をしにきたんだ。その少女は……その辺にでも置いてもらって構わない」


 そんな聞き捨てならないセリフを私は聞き捨て、唯一あるベッドの上に彼女を寝かせました。シーツが血で染まっていくのをとてつもなく迷惑そうな視線で見ているお医者さんが一人いたような気がしましたが、それは無視します。


 そして私は一つの丸いすに座り、一昨日のようにオヨビさんと対面します。


「さて、話の枕はまず、かの者の正体からにしよう」


「あの、オヨビさん、その話をするのはやぶさかではないんですが……その、ええっと……」


 私は自身の中に宿る寄生者が、もしかすると暴れ出してしまうかもしれない。そう危惧して話を遮りました。もはや肉体の主導権は私の中にはありません。ですので、寄生者の話、しかも正体に関する話を前に恐れるのは当然の心理と言えましょう。


「それなら心配はいらない。今、かの者にとって君の死は不利益でしかないのだから」


「それは……というか、何でそんなこと知ってるんですか?」


 おかしいです。おかしいことこの上ありません。どうしてオヨビさんは私の事情を全て把握しているのでしょう?


 私の中に寄生者がいるということを知っている……というのは百歩譲ってわかります。おそらくは一昨日の診察日の際、現れてしまった寄生者と一悶着あったのでしょう。


 ですが、寄生者の話をすると自害しだすことを知っているのは些か違和感というか意味不明です。誰にも言えないことを知っているというのは恐怖でしかありません。


「そんなのは単純だ。単純明快極まりない。以前にも私はかの者と邂逅している」


「え?」


「いや、それは間違いだな。邂逅したものと知り合いだというだけだ。かの者は以前も同じような方法を取ったらしいからな」


 さて、では本題に入ろう。と言って、オヨビさんは語り始めました。


「かの者、と呼び続けるのは面倒だから、まず名前を教えておこう。かの者の名前は『接続士』《コンジャンクション》という」


「接続士、ですか。思っていたものとは大分異なりますね」


 もっとおどろおどろしい名前だと思っていました。悪魔じみた、畏怖を存分に込めた名前だとばかり。


「接続士という名前の由来は彼が真の不老不死の体現者であることに起因する」


「不老不死の体現者?」


 そのワードには、イーさんとの会話が蘇ります。不老不死とは再現不可能な超常的事象なのでは?


「私の考える原理では、不老不死とは肉体さえ朽ちなければいいというものだ。精神の方は相当な強度を持って実在できる」


「はぁ……」


「だから、接続士は他人の精神を乗っ取り、体を入れ替え続けて、不老不死を体現させたのだ。人と自分を繋げ続け、自身を存在させる。ゆえに接続士というわけだよ」


 人と自分を繋げる……なんだかややこしい話になってきました。


「そんな存在が、果たして許されて良いものなんでしょうかね」


「あぁ、許されないさ。許される周期は存在しない。だから封印された」


「封印?」


「接続士を知っている人間を知っていると言ったな。それは私の祖父にあたる人間のことだ。もっとも、その祖父ですら又聞きの情報らしいのだがな」


 そう言ってから、オヨビさんは紙とペンを取って何かを書き始めました。


「かつて接続士は世界に反旗を翻したことがあるらしい。殺しても殺しても仲間に憑依し、戦況を乱し続けたのだとか。それの対策に、私の祖父の師匠にあたる人間が、命と引き換えにその力を制限した上で封印した」


 それはどうやら、接続士に縁のある物で、尚且つこの都市にあるらしいのだが……と言って、オヨビさんは手元の紙に絵を描いて私に見せてきました。


「君、こんな物を触らなかったか」


 それは、あの鍛冶屋で見せてもらった金型でした。ええ、確かに触りましたとも。それもがっつり、撫で回しました。


「はい。触りましたね」


「そうか。そう言う周期はわかっていた。あの金型に接続士は封印されていたのだよ。あれを触るだけで精神に入り込まれる」


「ん? でもちょっと待ってください。でしたらその金型が置いてあった鍛冶屋の店主が誰よりも触っているはずで、私に寄生するのはおかしくありませんか?」


 というか、元を辿れば古い倉庫に残っていた物だともいうし、そこに運んだ人間がいるはずです。


「まぁ、金型の流出とかその辺りは、ただの管理不足なのだが……しかし、君に寄生した理由は明白だ。力を制限したと、さっき言っただろう」


 オヨビさんはしきりに髪をいじっています。疲労が目に見えてわかります。


「接続士はもう自由に人に寄生できない。精神の大きさとでも言おうか。人の心に入り込むために、巨大な隙間が必要になったのだ。いわば実際生きた年月と、心の中身に大きなギャップが必要なのだ」


 だから、君、もしかすると記憶喪失なんじゃないのか? と、オヨビさんは締めました。


「……はい。そうですよ。確かに、私は、記憶喪失です」


 つまり、私の根拠のない仮説は正しかったということになります。


 記憶がなく空っぽになりつつある私は、接続士たる彼にとって都合のいい容れ物だったわけです。


 全く運がありませんねぇ、私は。


「ふむ。そうだろうな。彼は生前鍛治師だったらしいからな。……生前という言い方はおかしいな。彼はまだ生きている」


「でしたら、私はどうしたら良いのでしょう。このまま接続士を体に宿しているわけにはいきませんし……」


「それは簡単だ。君が金型の代わりを務めればいい」


 え? 思考を停止させるには十分な一言でした。


「それは、あの、どういう意味ですか?」


「単純だ。生きながらにして、死ねばいい。これも言っただろう。私には生かしと殺しのスペシャリストの知り合いがいると。そいつに頼めば造作もない。五百年くらいは接続士を留めていられる」


 そんな条件は飲めるはずがありません。五百年も生きながら死ぬって、意味がわかりませんし、絶対に嫌です! そもそも、そんな話を持ちかけてくるのさえ、意味がわかりません!


「嫌に決まってますよ! そんなの! そんな大樹みたいな人生送りたい人間なんていないでしょう!」


「そうか。だったら接続士に体を開け渡せばいいだけだ。そうなったらまた接続士を別の物に封印するだけだ。まぁ、その場合君は死ぬが……」


 それは……そんなのは……


 嫌です。快く受け入れられるわけがありません。……ですが、私の保身をしている事態ではないこともまた、私はわかっています。


 私の身を犠牲にしなければいけないことはわかっているんですが……しかし……


「もっと、別の方法は……ないんですか」


 そんなものあるはずがありません。希望なんてすでに粉々です。


「ないわけじゃない。それこそ、もっと厳しく苛烈な条件なのだが」


「そうですよね……って、あるんですか!?」


「力の失った接続士が、その状態ですべきことは何だと考える? 空白のある人間にしか寄生できないかの者が行うべき最善とは、一体?」


 接続士がすべきこと……? それは、やはり現状力を制限されているのだから、その状態からの、解放……?


 もしくは、私の次、つまりは後継者の発見、とかでしょうか。


「私の次に当たる人物を探す、とか?」


「違う。世界中の人間の心に空白を作ることだ」


 世界中の人間の心に、空白を?


「……つまり?」


「巨大な魔術を使う。全人類の人間の記憶を制限し、記憶できる事象を減少させ、虚な世界を作り出す。それが接続士が目指す目的だ」


「そんなことが、可能なんですか? 魔法なんかで」


 私の知る限り、魔法というのはそんな大それたものではなく、ただの生活の知恵とか器用な人間の手品じみたもので、人の精神とか記憶とかには干渉できるものではなかったはずですが……


「魔法じゃない。魔術だ。数百年前に存在した、望みを叶えるに等しい失われた技術だ。接続士には魔術が扱えるはずだ。そもそも接続士が不老不死を生み出したのも、魔術が関係しているはずだからな」


 魔術……願いを叶えるに等しい技術、ですか。


 それは何だか、随分浮いているというか、現実味がない言葉でした。


「それで、私にどうしろと?」


「それを止めてほしい。方法は自分で考えろ」




 **********




 私は外にいました。夕焼けが街を橙に染めています。いつの間にか晴れていましたね。


 まぁ、外に居た、というより、外に締め出されたと言っていいでしょう。話を終えてすぐに外へ出るよう急かされてしまいました。


 結局、全ての面倒事丸投げされただけのように思えますが、しかしやるべきことがはっきりしているというのは今の私にとっては光明と言えるでしょう。


 接続士。彼が今私の中でどのようにしているかはわかりません。話しかけても何も発しませんし、反応もしてくれません。


 ですが、最悪な行動は取ってくれるので、生きているのでしょう。


 そして虎視眈々と、狙い続けているはずです。


 ちなみにナラさんはオヨビさんが責任を持って預かると言ってくれたので、一応信じることにしました。とても信用ならない方ではありますが、いちいち文句を言っていられる場合でないことはわかっています。


「おーい! ナド!」


 遠くからハウさんの声がします。ど、どうしましょう。今彼に合わせる顔はありません。あんなかっこつけた別れ方をしたのにこうもあっさり再開するなんて、とても恥ずかしくてできる事じゃありません。


「はぁ……はぁ……やっと見つけた……どうしたんだよ。ナド……急にあんな事言って、どっか行って……」


 あたふたしているうちに彼は目の前にやってきてしまいました。


 どうしましょう。なんて言い訳しましょう。


「いえいえ、あれは本当、気の迷いというか。勘違いみたいなものですよ」


 あれ、いえいえ、こんなことを言いたいんじゃありません。


「そうなの……?」


「えぇ、ですから、さっき言ったことは忘れてください。そして、もう一度、私を――――」


 そう言いながら、私は鎧の左手の籠手を脱ぎます。なぜでしょう?


「仲間として一緒に歩き出してはくれませんか? ほら、これは混乱させたことを謝る謝罪の握手です」


 そう言って私は手を差し出しました。いえ、違います。これは私ではありません。


 私は握手のためでも鎧を脱いだりしません。


 どうして、なぜ勝手にハウさんに擦り寄るような言葉が口をついて出るのでしょう?


「……? まぁ、僕は良いけど」


 だめです。ハウさん。握手をしてはいけません!


 私に触れてはいけません!


 だって、あなたは……私以上に心の空白が大きい人間ではないですか!


「これで良いのか? で、ナラは一体どこに――――」


 ハウさんが、私の素肌を曝け出した左手を、しっかりと握りました。


 温もりが伝わってきます。


「ハウ……さん。あなたは、今、ハウさん……ですか」


 私は恐る恐るそう言いました。しかしその問いの答えは、言葉が出た時点で、判明しているようなものです。


「……ナド。お前って」


 ほんっとうに救えない馬鹿だよな。


 ハウさんの顔をした彼は、そう言いました。

最後まで読んでいただたきありがとうございます! もしよろしければ評価や感想をいただけると嬉しいです! 次回に続きます!

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