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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第二章 雨が降りそうな日に

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#18 3日目ー症状少女空想上

前回のあらすじ

 中央王国秘匿騎士団団長のイーと出会うナド。そこで自分がハウと行動している仲間だとバレないように気をつけながらも、イーから色々な質問をされる。

 一つ気づいたことがあります。というよりは仮説に果てしなく近しい物なのですが、私は記憶喪失だからこそあの寄生者に目をつけられたのだと考えることはできないでしょうか?


 証拠も論理もあったものではないですが、しかし一つ考えてみてください。


 記憶喪失、まさしく精神の空き部屋ではありませんか。そんな場所があればつけ込まれるのは必至というものでしょう。


 ともあれ、それがわかったところで事態が好転するわけではないのですが。


「はい、おはようございます」


 と、一人呟いて起き上がります。今日は朝に起きられましたね。


 さてと……今日はどうしましょう。とりあえず、何か食べ物を、と思って私は荷物を漁ります。


「あれ……おやおや?」


 しかしその手はある一枚の紙を見つけてから止まってしまいます。ざらざらとした質感の一枚紙。それは本来白紙で何も書かれていない紙なのですが、しかしそこには、太く精彩を欠いた荒い字で『旧世界』と書かれていました。


「なるほど……まずいかもしれませんね……」


 この紙に字を書き込める人間は限られています。なぜなら、これは状態を常に共有するという特殊な魔法で作られた一枚紙で、私たちのパーティーメンバーしか所有していません。私がこの紙に、何か文字を書き込めば、他のメンバーの紙にも同じ文字が現れます。


 とにかく、この紙からは色々まずい要素が見受けられます。旧世界という決して無視できない最重要ワードはともかくとして、このやけに太い字は、おそらく指に何かしらの液体……インクであればいいですが、血、とかなのでしょうね、この場合。それらをつけて書いたものなのでしょう。


 だから、私たちのパーティーメンバーの誰かが旧世界へ迷い込み、今尚手負の状態……ということになるのでしょう。


 となると、こんな寄生者なんかに構っていられる状況ではないですね。


「ところで、起きていますか?」私はそう問いかけます。かの者は応えません。


 もしかすると、昨日を境にあの寄生者はいなくなってしまったのではないでしょうか? エネルギー切れだとか、もしくは寿命だとかの時間的要因で。


 などと、楽観できていれば私はこんなところにはいないでしょう。それができればどこかの農村で牛を育てていますよ。


 旧世界のことも気にはなりますが、しかし今の私にはどうしようもありません。そもそもなぜただの都市に居ただけなのに旧世界の話が湧いて出てくるのでしょう? ここにはダンジョンも、ましてや地下だってろくにないでしょうに。


 であれば、今の私がするのは無闇な捜索ではなく事態の処理でしょう。寄生者の対処を終えた後……では、もしかしたら全く間に合わないかもしれませんが、しかし旧世界探しと寄生者対処を同時進行で行えばいいだけです。


 そうして私は部屋を出ます。一応、同じ宿に泊まっているはずのソシテとトコロデさんの部屋のドアをノックします。


「……いませんね。どちらも」


 昨晩からいないということであっているのでしょうね。となると、巻き込まれたのはあの二人でしょうか。


 外に出ると、少し冷たい風が鎧を揺らします。曇りのせいで少し寒いです。


 とりあえず今日はすぐにでも図書館へ向かいましょう。寄生者が起きているのかどうかは不明ですが、それはまた図書館にたどり着いた際にわかることでしょう。


 少し小走り気味で図書館へ向かいます。都市の人たちからは鎧が走っているのは大変奇妙な光景に映るでしょう。いい加減、指名手配犯らしく影の下を歩くべきでしょうかね?


「おや?」


 道中、おかしな建物を目にしました。まぁ、これを建物と形容すべきかどうかは甚だ疑問が残りますが、しかし元は建物としての本分を果たしていたのでしょうから建物なのでしょう。


 そこには、瓦礫で散らかった、つい最近訪れたばかりのあの魔法具店だったものがありました。ひどい荒らされようです。強盗にでもあったのでしょうか?


「何かあったんですか?」これで何もなかったらそれはそれでおかしいだろう、と思いながら、瓦礫の掃除をしている店主にそう聞きました。


「あぁ……この前来てくれたお客さんだぁね。それがだぁね、強盗に遭ったんだぁね」


 詳しく話を聞くと、昨日の早朝、開店準備のため店主が店にやってきたときにはすでにこの様子だったそうです。


 ふむふむ……なかなかひどいですねぇこれは。丁寧にしっかり荒らされています。元からそこまでしっかりした造りの建物ではありませんでしたから、少し手を加えた程度で瓦解してしまった、という感じでしょうか。


「ひどいんだぁね……何もかもズタズタなんだぁね……」


 ズタズタ……たしかに店に並んでいたであろう魔導書や魔道具の数々が切り裂かれたように破壊されています。というか、この建物に対する全ての破壊行為に、刃物を使った跡があるような……?


 刃物……ふーむ。こういう強盗には向かない得物ですよねぇ?


「そういえば、強盗と言うからには、何か大事なものでも盗まれたんですか?」


 探偵ごっこではないですが、というかこの強盗の件について私は何一つ助けを出すことはできないんですが、しかし私は店主にそう聞きました。


「それがだぁね、実は物自体はそこまで無くなってないんだぁね。あ、でも、ポーションと魔石はごっそり取られちゃったんだあね」


 ポーションと魔石? それはまた随分と庶民的な強盗犯だこと。ポーションというと魔力の補給でしょうか? 魔石……は何でしょうね。一応魔法陣を敷くために使われますが、しかしそこまで大量に必要なのはどういった理由があるのでしょう?


 巨大な魔法陣を作る……のだとしたら面白いですが。しかし全く現実的ではないでしょう。


 とまぁ、私は店主の邪魔にならないよう一言労いの言葉をかけて、その場を離れます。しかし、私がたまたま寄った店が強盗に遭っていたとは、まるで私が疫病神のようで少し申し訳なさがありますね。


 となると、あの鍛冶屋や、料理の店も心配になってくるというものです。


 ……特に意味はありませんが、気になってしまえば仕方ありません。一応見に行ってみますか。


 魔法具店から鍛冶屋まではそこまで距離はありません。少し歩いてすぐに到達できます。


「おやおや?」


 鍛冶屋も先ほどの魔法具店同様、瓦礫で散らかっているではありませんか。石造りの工房も兼ねている鍛冶屋なのですが、その壁面に使われている石材が片付けを難航させているみたいですね。


「こんにちは。まさか鍛冶屋さんまでこんなことになっているとは」


「……この前の、鎧の人」


 先ほどと同じように、私は店主と同じように詳細を聞き出します。するとまぁ偶然にも魔法具店の方と同じような供述をなされました。


「……酷いことをする。が、しかし何をしに俺の店に来たのか……それがわからんのだ」


「ほう。というと?」


 話を聞くと、強盗に遭った、といっても特に盗まれたものがなかったらしいのです。最高級の剣や盾、上質な鎧、金品に至るまで手付かずで散らばっていたのだとか。


「一種の嫌がらせなんですかねぇ? 恨みを買うようなこととかしました?」


「そんなことは……ない、のだが」


 でしょうね。鍛治一筋といった性分の方です。となるとさらに意味不明なのですが……


「ふむふむ……そういえば、あの金型ってどうしたんですか? あのすっごい古い剣の金型なんですが」


 特に意味はなく、会話を繋ぐために私はそれを聞きました。


「……金型? たしかに、どこへやったのだろう。見当たらないな」


「高価なものなんですか?」


「いや、決してそんなことはない。ただ古い倉庫に眠っていて、金型というだけで持ってきた、くだらないガラクタなのだが……」


 ふむ……まぁ、特に関係はないでしょう。


「しかしこんなおかしな犯行をする人間はどんな奴なんでしょうね?」


「さぁ……連続殺人犯も町に出ているらしいからな。あんたも用心したほうがいい」


 そこで私は現場を後にしました。随分探偵ごっこが板についてきましたね。


 しかしこの都市も中々物騒で騒がしいですね。そこまで治安の悪い都市ではなかったはずなんですが……かつて行われた『住みたい所ランキング』では堂々の第十六位でしたのに。


 ともあれ、次は料理店の様子でも見に行きましょうか。これでまた強盗なり殺人なり恐ろしい凶行に見舞われていたりしていたら、さすがに偶然ではないでしょう。私を貶めようとする第三者の存在を疑ってしまいます。


 えーっと、料理店はここから少し遠いんですよね……どうしましょう。図書館を優先しましょうかね?


「そこの鎧のお兄さん! 新聞を買いませんか?」


 元気一杯、少女の快活な声で私はそう話しかけられました。綺麗な制服を身に纏った、可愛げある新聞売りさんでしょう。


 それにしても新聞ですか。現状この都市で起きている色々に興味がないかと言われれば嘘になりますし、ここはひとつ買ってみてもいいですね。


「いいですねぇ。一部くださいな」


「わかりました! この私が精一杯書いた、私の生活に関わる私の化身のような一作ですので、ぜひ穴が開くまで、いえ、花が咲き、天地が創造されるまでじっくりご覧ください!」


 少女の癖して随分饒舌に、しかも相当なプレッシャーを、たかが情報収集に掛けてきますね……


 私はそんな期待の眼差しを向けられながら、新聞を流し読みします。そこで一番目立つ一枚目には、でかでかと殺人鬼についての所見が述べられていましたね。


 殺人鬼は刃物を用い、道端の人間を斬殺。遺体はそのまま現場に放置。凶器は発見されていない……現在新聞社直属の記者と、一般人Aが懸命に捜査中……


「そういえば、その殺人鬼はある詳しい筋からの情報で、全身鎧の男で、なんでも極悪非道の指名手配犯なの、だと、か……」


 少女は尻すぼみになりながらこちらをみて言いました。その表情には若干の恐れが混じっています。


「……なんですか? 顔に何かついてますか? まぁ顔というか兜ですけど」


「あなた、指名手配犯の、ナド……では?」


 絶句です。それはもう絶句ですよ。何もいえません。誰がここで気の利いたジョークを述べられましょうか。


 少女の言ったその一言は、はるかに的を射ていました。心臓が急激に高鳴ります。汗も噴き出してしまうでしょう。


 まさかまさか見破られるとは思いませんでした。というか、見破れるわけがないんですよ。私の手配書に描かれている似顔絵は思いっきり兜の絵ですし、その兜はすでに処分済みです。今は全くデザインが違います。


 その上、私はソシテやトコロデさん、ハウさんと比べてはるかに格下の手配犯です。賞金稼ぎとか、関門の憲兵とかが仕事で手配書を漁らないと私の手配書は出てこないのです。


 少なくとも、一般人の目に映ることは滅多にありません。


 なのにこの少女は、一目で見破ってきました。


 どうして……?


「あの……人違いです」意地汚く私はそう言いました。あわよくば勘違いと思って欲しかったのです。


「いえ……そんなはずは……ありません……! あなた、ナドでしょう! そして、連続殺人鬼!」


 たしかに私はナドですが、連続殺人鬼は違います! 絶対に違いますよ! 人を殺すって異常な労力を要するんですよ? わざわざそんな重労働進んでやりません!


 なんて、咄嗟に反論できれば良かったんですが、どう考えても悪手でしょうそんなの。一つ一つ言葉を選んで、穏便に済ますしかありません。


「あのですね……一体なんの根拠があって私を犯罪者呼ばわりするのかわかりませんけど、仮にも情報を扱う人間として、何も言わず疑るというのは、どうなんでしょうね?」


 少女相手にここまで真剣に反論するのもなんだか馬鹿らしいことこの上ないですが、しかし私は必死になって言いました。大人気ないかもしれませんが、そんなものはかなぐり捨てます。


「ひっ……いやぁーっ!」


「あ! ちょっと!」


 少しにじり寄ったところで逃げられてしまいます。その瞬間に彼女の逃走を許すことのまずさに私は気づきます。


 彼女が書いたという新聞に、私のことが追記されてしまえばおしまいです!


「ハウさぁーん! 助けてぇー!」


 ハウ? ハウっていうのは、あのハウさんですか?


 たしかに、この間彼と会った時言っていました。殺人鬼の調査に付き合っていると。たしか相方さんの名前は、ナラ?


 ということは、この少女がナラさん? だとすれば、まだ話をする余地が大いにあります。助けを求める相手がハウさんなら、彼も交えればきっと理解してくれるはずです!


「ちょっと待ってください! そのハウさんって人は私の――――」


 ――――――――


 ……ここは、どこでしょう。また意識が飛びました。


 先程まで走っていたはずなのに、今は薄暗い路地裏にいます。


「なぜでしょう?」


 理由があるとしたらあの寄生者を置いて他にありません。また勝手に私の体を扱ったのでしょう。しかし今回は最悪のタイミングと言えるでしょう。


「まずいですね。あの子を追うとかできませんよこれじゃあ」


 そういえば、なぜ路地裏なのでしょう? 別にここである必要はどこにも……


 そこで私は辺りを見渡すために、後ろを振り向きました。


「……え、いや、え、そんなまさか、だって」


 そこは路地の行き止まりでした。日陰が常に当たるのか、苔が生えています。


 そして、そんな景色に花を添えるように――――


「ナラ……さん」


 少女ナラの、がむしゃらに切りつけられた肢体が力無く転がっていました。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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