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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第二章 雨が降りそうな日に

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#17 2日目ー空想上の夢

前回のあらすじ

 寄生者についての知見を得るために、都市の図書館へ向ったナド。しかし、司書に蔵書の場所を聞いた瞬間、全く違う場所へと、いつの間にかいることに気づく。

「実はある人を探しているんです」


 と、イーさんは切り出しました。


 そして私は厚い鎧の下で大いに汗をかいています。それは鎧が暑いからではありません。このイーという方がどれだけ恐ろしい人間であるかを、私はソシテから聞き及んでいるからなのです。


 王国特選秘匿騎士団、名誉団長のイー。まぁ団長という肩書きはそこまで重要ではありません。秘匿騎士団はごく少人数で構成されていますので、役職はあくまで飾りみたいなものなのです。


 問題は秘匿騎士団の人間であるということです。


 彼らの存在を知っているのが中央王国の中でもごく少数。国の表沙汰にできない行為を全て請け負う、手の汚れ切った悪逆非道の恐ろしい集団なのです。


 その長たる御仁が、今目の前で、私に質問を投げかけているのです。


「人ですか。脱走者とかですか?」


 そう言った瞬間、いや、脱、ぐらいのところでイーさんの眼光が鋭く輝きました。


「何か知っているんですか?」


 そうでした。この方はハウさんが入っていた施設の管理者なのでした。脱走についての話題は何が何でも避けなければ。


「いえいえとんでもない。まさかそんな、常に気だるげで発言に覇気がなく、痛みや怪我に鈍感な、私と同じく記憶力に乏しい方のことなんて、一切知りませんよ」


「はぁ、そうですか。でしたら構いませんが」


「で、探している人というのはどんな方なんですか? 私に手伝えることがあるようでしたら、日頃よりお世話になっている中央の一助になりたいと思っていますが……」


 と、私はぬけぬけと言いました。


 我ながら口上が薄っぺらいことこの上ありませんね。


「そうですか。それは頼もしいですね。それでしたら一つお伺いしたいのですが、人の精神に入り込み、徐々にその体と心を支配していく存在……みたいなものを、この町で聞いたりしませんでしたか?」


 それはまさしく私のことです! と、声高々に宣言したいところでしたが、しかし踏みとどまり、私は一度様子を伺う事にしました。そして素知らぬ顔でこう聞きます。


「それを見つけてどうするんですか?」


 その質問はイーさんが秘匿騎士団であるということを知らなければ、私は恐らくしなかった質問でしょう。文に表すのも恐ろしい、実験や残虐行為を行う連中です。警戒しておいて不足ということはないでしょう。


「どうするか……ですか。うーん、多分処分するか……実験対象ですかね」


 ……なるほどなるほど。


「へぇ、それはすごい。私は無知蒙昧な身なのでその存在についての一切の情報を提供することはできませんが、もし何らかの有力な情報を得た場合は、嘘偽りなくあるがままの真実と情報をこの大地に誓ってお届けしましょう」


 早くこの場を離れなければ! このまま話していたら迂闊に口を滑らせかねません!


「それはありがたいことこの上ないですね!」


 と、ここで彼女は初めて笑顔を見せました。背景を知らなければ惚れていたかもしれません。それくらいには無邪気で可愛らしい顔をしています。


「では、もしそのような存在に出会うようなことがあれば、十分に気をつけることをお勧めします。それに、どうやらその存在は、体のどこからでも刃物を出せるらしいので」


 体のどこからでも刃物を出せる? そのあっさり出てきたのっぴきならないセリフに、私は追及をしたくなりました、が、しかし色々聞き出そうとして勘付かれでもしたらそれこそ終わりです。私は我慢します。


 しかし何ですか、あの寄生者、そんな能力があったんですか。


 そうして話も一区切りついたようなので、私はイーさんの横を通り過ぎようとしました。図書館に用事があることを忘れてはいません。


「あ、そうそう。これはあまり関係のない、ただの雑談と思って聞いて欲しいのですが」


 しかし、潔く別れさせてはもらえませんでした。


「不老不死というのは、そこまで魅力があるものなのでしょうかね?」


 不老不死とはなかなか、突飛なことを言いますね。


「はて、不老不死なんて考えたこともありませんが……しかし良いものとは思いませんね」


「えぇ、同感です。実現不可能なものを望んで、何が良いんでしょう」


 私が言ったのはそういうことではないんですが……しかしそれは、ない物ねだりは愚かだという考えなのでしょう。


 不老不死、老いず死なずの人生に、スリルや楽しみはあるのでしょうか? そこに興味がないと言ったら嘘ですが、しかしなりたいとは思いませんねぇ。


 人とは、誰かを見送ったり、見送られたりが常でしょう。それを無くしたいとは思いませんし、邪魔だなんて思えません。


「不老不死は一種の呪いみたいなものですよねぇ。もし自分がそうなったらと考えたら、震えが止まりませんよ」


 私は体を抱き抱えるように、震えるジェスチャーをしてそう言いました。イーさんとの会話で嘘ばかりついている私ではありますが、しかしこれは心からの真言でした。


「呪いみたいなもの、ですか。的を射ているようですが、少し違います」


「ほう。そうですか?」


「老いることも死ぬことも、どちらも人間に生まれた時から備わっている義務です。権利ではありません。やらなければいけないこと、何が何でも遂行しなくてはならないことです。人としてありたいのなら、その強制力に身を委ねなければなりません」


 言うなれば、人間の証明、あるいは、生物の証左ですか。と言って続ける。


「それを無視しようと試みる行為は見逃せません。正しくない。不老不死であることは、愚か者の起こす最大級の愚行と言って間違いないでしょうね」


「……でも、不老不死になる方法はないのでは?」


 この人は何を当たり前のことを格好つけて言っているのでしょう? 死ぬことが生物である条件って、なんだか矛盾を孕んだ言い方だなと思いますが、それ以前にこの方が不老不死の非現実さについて語ったのではありませんでしたか?


「ありますよ。まぁ、その方法が真実なのか、という点については明らかではないんですが。というか、それを明らかにするため、私がわざわざこんな都市まで足を運んできたわけなのですが」


「……というと? その方法とは?」


 私は唾を飲んでそう聞きました。


「あ、少々喋りすぎました。喋っちゃいけないことまで言いそうになりました。危ない危ない。あなたの身が危ないところでしたよ」


 それは危ない。というか恐ろしい!


「引き留めて申し訳ありませんでした。何か用事があったのではないですか? そうでしたらお急ぎになった方がいいですよ」


「……それは、どうも」


 おかしな人だ、と素直に思いました。人の都合をあまり考えないタイプなのかもしれません。もしくは、人の気持ちを考えられない、そんなタイプか。


「では、また会いましょう」


 と言って、私は彼女に背を向けて歩き始めました。


「あ、ハンカチ落としましたよ」


 しかしまたまた引き留められてしまいました。


 振り返ると、確かにそこには私のハンカチが落ちています。イーさんから見て右側に、筋のない布切れらしくへたり込んでいます。


「よ……いしょっと」


 そしてイーさんはそのハンカチをわざわざ左手で、体を捻りながら、随分取りづらそうに拾い上げてくれました。


 まるで右手を庇うかのように。


「……右手、怪我でもしているんですか?」


 私は思った通りのことをそのまま口にしました。


「いえいえ、私、左手以外で物に触れたくないんです」


 イーさんは、にこやかに笑ってそう言いました。




 **********




 図書館は閉まっていました。当たり前です。話し過ぎなんですよ全く。


 まぁ、もしかしたらそもそも私が意識を取り戻したタイミングですでに閉まっていた可能性もありますが。


 ともあれ、日もとっぷり暮れてしまいましたので、私は宿に帰ってきました。全く、大した進展もなく無駄に日を使って肉体の主導権をさらに失っただけじゃないですか。徒労にも程があります。


「そういえば、ソシテとトコロデさんは何をしているんでしょうね?」


 もちろん脱走者のハウさん、秘匿騎士団の施設からも、治療所からも脱走している極悪犯の彼も忘れてはいけません。殺人犯の捜査なんて、何がしたいのでしょう?


 気になったので、彼らの部屋のドアを一つノックしてみます。ソシテは出ませんね。トコロデさんも……出ません。夜間外出でしょうか? 行儀が悪いですが、しかしどちらも名実ともに等級の高い指名手配犯なので、行儀の悪さ以前に素性の悪さを指摘すべきでしょう。


 マナー以上にモラルが欠けています。


 仕方がないので、私は部屋に戻ります。


 狭い部屋です。安い宿なので仕方ありませんが。


 荷物を漁り、保存食を貪ります。湿気ってて粘度が出ています。そのせいでかなりまずい。


 そして私は鎧のままベッドに倒れ、すぐに眠りにつこうとします。目を瞑り、何も考えず、意識を闇に委ねます……


 次第に、思考が一本の線のように、単調になって、意識が、緩やか、に……


 ――――


「すぅ……すぅ……」


『……えば、……もし、そうなら? ……しかし』


 どこで、こえがきこえますね。


『例えば、本当に、もし、そうなら? ただ、しかし』


 だれでしょう? これは夢でしょうか? 夢でしょうね。


『ついに、僕様の計画が完成するのか? それとも、やはり僕様は何もできずまた眠り続けるのか?』


『ようやく空白のある人間に入り込めたというのに、その機会を棒に振ってしまうのか?』


『そんな失態は、犯したくはない』


 そんな声が聞こえてきました。だれでしょう? 聞いたことのある声な気がします。


 それから私の夢は変遷を遂げます。ぼやけた意識、はっきりとしませんが、そこは草原の丘の上でした。


 私はその丘の上に据えられたテーブルと椅子に座り、お茶を飲んでいます。味ははっきりしません。


 私は何かを見ていました。おそらくは対面に座っている男の方を見ていたのでしょう。


 その方は、一本の剣を眺めながら、何かを熱心に語っています。とても楽しそうです。これ以上楽しいことなんかない、といった勢いです。


 私はお茶を注ぎます。私の分より先に、彼の分を。


 ……これは私ではありませんね。ナドという名のついた男、つまりは私ですが、私はこんなことしません。


 それにこの男の方も知りません。失われた記憶にいるのかもしれませんが、そこは考慮しません。


 どうやら、私の視点で動く、私ではないこの誰かは、女性のようです。


『叶うなら、一生死ぬことなく、お前に剣を作ってやりたいんだけどね』


 目の前の男が、そう言いました。


 女性はそれを聞いて笑っています。さらに恥ずかしい気持ちもそこに含まれていますね。それと、嬉しい気持ちも。


 ……そこで、世界は崩れました。私の睡眠がより深いところまで行ってしまったのでしょう。


 では、……おや、すみ……なさい。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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