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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第二章 雨が降りそうな日に

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#16 2日目ー症状空想上

前回のあらすじ

 ナドの精神が正体不明の寄生者に侵されてしまった。仲間に相談もできずに、ナドは自身で解決しようと色々な策を講じる事になる。

 目が覚めました。おや、随分遅く起床したみたいですね。太陽の傾き具合から見て、もう正午といったところでしょうか?


 私は以前治療所に寝泊まりしていましたが、現在は古ぼけた宿屋で寝泊まりしています。一応私たちはお尋ね者なので、なるべく口が固くて無愛想な主人が経営している宿屋を選んでいます。


 さてと、遅く起きたのならその分早く活動しなければ。起き上がってすぐに鎧を着ます。兜は寝る時でさえもつけているのでつける必要はありません。もはや肉体の一部です。


「そういえば、いなくなってくれましたか?」


『その言葉はそっくりそのままお返しするよ』


 まだいた。飽きないですねぇ、ほんと。


 鎧を全て着終わると、いつも通りになって体の調子が良いです。ピースがハマったみたいな気持ちよさがありますね。


 さて、今日はどこに行きましょうか? ハウさんが動けるようになるまで暇なんですよねぇ。


『お前の人生なんて全てが退屈なのにか? 死んだ方がいいって分かってるのか?』


 どんだけ死んで欲しいんですか。葬式屋だったんですか、あなた。


 そろそろ正体を教えて欲しいところではあるんですがねぇ。頑なに喋りません。相当恥ずかしい過去をお持ちのようです。


 そうですねぇ。だったら図書館にでも行きますか。もしかすると蔵書の中にこの正体不明の寄生者について書かれた本があるかもしれません。案外、症例のうちの一つという可能性すらあります。


 善は急げ、とも言いますし、なるべく早急に図書館へ向かいましょう。シンプルに宿から遠いという事もありますし。


 それにしても、図書館を人々に開放しているとは珍しい都市ですね。多くの都市や街、王国では知識は占有されているものなのですが。教育に力を入れているいい証拠です。


 しかしこの場合、都市の民の賢さは、我々にとって悪く働くのでしょうね。何度も言うようですが指名手配犯の我々、手配書の識字や似顔絵の記憶は我々にとって不利にしかなりません。


『お前は馬鹿なのに?』


 悪口のレパートリーが子供みたいですね。ちょっと笑いそうです。


 と、ちょっと待ってください? 見たことある顔が、今視界の端っこに映ったような……


「ハウさん? 何やってるんですか?」


「あ、ナド」


 そこにいたのはハウさんでした。おかしいですね。絶対安静のはずなんですが、どうして治療所を抜け出しているのでしょう。


「どうして外に出ているんですか? まさか、抜け出してきたとか?」


「いや、まぁ……そうだね。うん、ちょっと退屈すぎて」


 ふむふむ、まぁ退屈は龍をも殺すと言いますしね。死んでないだけマシでしょう。


 それに、こうして外に出られて治療所から結構離れた場所にいるのですから、体は元気なのでしょう。


「でしたら私から何も構うところはありませんね。そういえば、もう一人誰かいたような気がしたんですけど、新しいお友達でもできましたか?」


「あぁ、そうそう。えっと、あれ、どこ行ったんだ?」


「見失ったんですか?」


「情報屋のナラって子なんだけど、なんか殺人鬼を追っているらしいんだ。僕は、まぁ、それに付き合っているというか、なんというか」


「殺人鬼を追っている? それはのっぴきならない文言ですねぇ。大丈夫なんですか?」


 私は心から心配して、というよりはもし遭遇した時にちゃんと抵抗できるのか? という疑問を元にそう言いました。そのナラという方がどれぐらい筋骨隆々なのかは知りませんが、ハウさんに関しては戦闘能力は皆無です。その辺の少女にすら打ち負かされること間違いありません。


 そんな人間が、果たして殺人鬼なんて追っていいものなのでしょうか。分不相応といった感じがとてもしますが……


「じゃ、僕彼女に付き合わないと。あ、治療所の人には黙っててね。あの人怖いから」


「もちろん。私が固いのは体だけではありませんので」


 そう言うと、ハウさんは颯爽とさっていきました。楽しそうでよかったです。楽そうな遊びではなさそうですが。


『おい、あの男は何者だ?』


 一息ついて図書館へ向かおうとしたその時、頭の中の寄生者がそう言いました。


「あの人は――――なんて、質問したいならまずは自己を証明してくださいよ」


 私はきっぱりとそう言いました。


『あっそ。なら別に良い。記憶を読むだけだから』


 そうでした。この寄生者にはそれができるんでした。不公平ですねぇ全く。私からは寄生者のことは何もわかりません。言葉選びが少し幼稚で情緒不安定という程度です。なのにあちらは私の全てを知っていると来ました。


 これはつまるところ、私は相当なところまで体を侵されてしまっている、ということなのでしょうか?


 それはひどく恐ろしい事実でしたが、しかしそれ以上に疑問が勝ちます。


 こいつは誰なんでしょう? そして、どうして私なんでしょう?


「いい加減教えてはくれませんか? お家賃、というわけではありませんが、これから乗っ取る人間に対する冥土の土産としてでもいいですから」


 と、私はぬけぬけとそう言いました。もちろん体を開け渡す気などありません。


『はっ、面白いこと言うね。面白すぎて死にそう。僕様がお前なんかに語ることは一つもないね!』


「……そうですか」


 絶対痛い目に遭わせてやりましょう。


『やれるものならやってみな』


 思考を読むのやめてください。


 ともあれ、ようやく図書館へつきました。いやー疲れた疲れた。意外と遠いですね。


 重厚感のある木製で両開きの扉を押し開けます。木の動く音が怪音ながらに心地いいです。


 そうして図書館へ無事侵入できました。それから真っ先に司書さんのところへ行き、私はこう聞きます。


「あの、人間の精神に寄生する怪物についての書物はありますか?」


 ――――と言ったはずなんですが、だから私は図書館にいるはずで、これから司書さんに案内してもらうはずなんですが、しかしなぜか、どうしてでしょう?


 私はこの都市の城壁の上にいました。夕焼けが綺麗です。いやいや、そんなじっくり感想を述べている場合じゃありません。


 時間が飛んでいます! 意識も飛んでいます! どういうことですか?!


「は! ま、まさか……」


 昨日聞いた言葉を思い返します。


 確か……『ちょっとずつお前の体を支配している証拠だよ。次は肉体の完全な主導権だね。待ってなよ。すぐその時は来る』とか言ってました。


 まさか、いや、そんな、まさか。


「体を奪ったんですか? どうなんです? 答えてください! おーい! おい!」


 側から見たら不満を夕焼けにぶちまけてる図ですが、私は必死に頭の中の寄生者に話しかけました。しかし答えてくれません。


「どういうことですか……? 何がしたいんですかあなたは! 何者なんですか!」


 答えません。無視は今に始まったことじゃありませんが、しかしおそらく今回はどれだけ聞いても話してはくれないでしょう。手品の種を聞かれても誤魔化すように、ようやく掴んだ奥義を心の内に秘すように、自分以外が知らないことを一々明かす者もそういません。それがわかるくらいには私は冷静でした。


 しかし、怒り心頭といった具合なのは間違いありません。シンプルに超むかついてます。体を好き勝手に使われるというのがこうも腹が立つものとは知りませんでした。


 とにかく、思っていたよりこの寄生者は私の体を蝕んでいるのでしょうね。今実感しました。


 はぁ……どうしましょう。相談もできない上に、目的も正体も不明。八方塞がりです。


 ……そういえば、どうして今なんでしょう? いや、今ではないか、どうして図書館で蔵書の有無を訊いたあの瞬間に私の体の主導権を奪ったのでしょう?


 狙ったかのようなタイミングでしたし、もしかするとかの寄生者は存外有名なもので、蔵書に記されている可能性があるからこそ、正体がバレるのを忌避して私の体を乗っ取ったのかもしれません。


 さらにいえば、どうして私は意識が戻ったのでしょう? 体を奪えるのであれば、私に戻す必要は一つもないじゃないですか。なぜ私はこうして自分の意識を持って動けているのですかね?


 ここで一つの仮説を思いつきました。かの寄生者はまだ私の体を完全に乗っ取っていないのではないか? という仮説です。


 私の体を動かすのに時間制限とかがあるんじゃないでしょうか? ほら、今尚呼びかけに反応しないのも、体を乗っ取った弊害というか、代償というか、つまりは休憩時間なのではないでしょうか?


 だとしたら、今は唯一の自由時間ということになりませんか?!


 だとすればこんなところで油を売っている場合ではありません! あの寄生者が起きる前に動かなければ!


 とはいっても何をしましょう? 一体どんな行動を取ればあの生意気な寄生者を懲らしめることができるんでしょう?


 しかし時間も……多分ありません。でしたら、真っ先に思いついた策を実行しましょう。


「あ、そうだ! もう一度図書館に行きましょう!」


 もう司書さんは帰ってしまったかもしれませんが、少しの可能性に賭けてみることにします。


 そうして私は壁の上から降り、図書館がある方向へ向かって走り出します。鎧が金属とぶつかるあの独特な音をリズミカルに刻みながら、私は疾走しました。


 正直、蔵書に対するアプローチには望めないでしょうね。人間の精神にいつの間にか寄生し、大した労力も割かず少しずつ侵していく、そんな存在を対処した上で書に書き起こせる人間がどれだけいるでしょう? どんな強靭さを持った狂人でも無理でしょう。無理難題です。


 つまり、出会ったら死ぬ怪物というのは、書に残らないという話です。


「って、あれ、行き止まりですか。この辺厄介な道が多いですねぇ」


「そうでもないですよ」


 後ろから話しかけられました。誰でしょう? 急いでいるので、世間話は避けたいところです。


「案外、この都市は規則正しく整頓されている街づくりを行っています。住民なら迷うことはないと思いますが……外から来たんですか?」


 と、女の声で、私にそう話しかけてきました。


 私はもちろん振り返ります。声がけを無視するほど私の肝は座っていませんし、そこまでの無礼を働くつもりもありません。


「えぇ、はい、そうですよ。私は外から来ました」


 私に話しかけてきた酔狂な女性の格好を見ます。するとどうでしょう。それはまさしく中央王国騎士団の制服ではないですか! しかも結構地位が高い方の着用する礼服です!


「ところで、中央のお偉いさん……でいらっしゃいますよね? そんなお方が夕暮れに道を間違えた愚かな旅人へ、何か御用ですか?」


 おや? この人、どこかで見たことがあります。どこで見たんでしたっけ?


「用がなくては私は人に話しかけてはいけないのでしょうか? たしかにしがらみや制限の多い身分ではありますが、しかしそこまで私は縛りを設けたつもりはありませんよ」


 と、彼女はにこやかに笑って言いました。


「はぁ……」


「しかし今回は用があって話しかけたのですが。ところで、私のこと、知ってますか?」


 その問いは少し奇妙でした。初対面の人間に、いくら自分の地位や身分が高かろうとも、その点を誇示する人間はそういません。ですので、そんな自慢のような含みのある問いに、私は大いに疑問を抱きました。


 そして思い出しもしました。この方が一体何者であるか、をです。


 この方は――――


「いえ、全く知りませんね。すみません、少し記憶力に問題がありまして」


「大丈夫ですよ。むしろ知っていたら私の仕事が一つ余計に増える所でした」


 王国特選秘匿騎士団、名誉団長のイーという方でした。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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