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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第二章 雨が降りそうな日に

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#15 1日目ー空想上(ナド視点)

前回のあらすじ

 白い通路の旧世界から脱出できた一行。ハウは右腕を怪我してしまい、南方都市『ポイントドット』に足止めされてしまうことになった。

 記憶喪失記憶喪失とさんざ言ってはおりますが、実は私はそこまで重篤な記憶喪失ではないのです。それこそ、ハウさんの方が何倍も重い。だから私は同情に値する人間ではなく、いわば一種の個性として、こういう人間もいるんだなぁ〜くらいの気持ちで臨んでいただければ幸いですね。


 そういえば私の名前ってご存知でしたっけ? なにぶん記憶力がないもので。ですので今一度自己紹介といきましょう。


 私はナドです。全身鎧がトレードマークです。鎧を着ているのに何か理由があるのかと、ときたま非常識な人間から聞かれますので、あらかじめ先制して言わせていただきますと、単純に肌荒れを見られるのが嫌だからです。それだけです。何の面白みもありません。秘しておいた方が良かった秘密というやつです。


 まぁなんでもいいんですが。ともあれ、南方都市『ポイントドット』。我々トレジャーハンター一行はそこに行き着いたわけですが、わたくし、実は退院早々ハプニングに遭ってしまったのです。


 あぁ、ひったくりに遭った、とか、物を失くした、とか、憲兵に見つかった、とかじゃないですよ。そんなの比になりません。比べて吟味なんかしたら怒られてしまいます。


 ……誰に怒られるんだ? って思いました? そうです。今回のハプニングはまさにそこが主題です。


 私、ナドは乗っ取られてしまいました。


 体と精神を。


『ねぇ、さっきっからさぁ! うるさいんだけど!』


「……いい加減出て行ってくれませんかねぇ?」


『なんで僕様が、一度住み着いた場所から腰をあげて動かないといけないの? それがどれだけの暴論かわかってる? わかってないよねぇ?』


 はぁ、と私はため息をつきます。ため息なんて滅多につかないんですけどね。この何者ともしれない方に体を取られて以降ため息が絶えません。息も絶え絶えです。


 こんな良い天気の朝なのに。


「貴方は誰なんですか一体。どうして私の体なんか乗っ取ったんですか?」


 と聞くと、いつも黙ってしまいます。困ったものです。ちなみに、仲間に相談もできません。実は体の制動権が一部奪われてしまっているらしくて、この事を話そうとすると、勝手に自害しようとしてしまうんです。


 何度も言いますが、困ったものです。泣きそうです。まぁ泣いたら鎧の内側が錆びてしまうので泣いたりはしませんけど。


 どうしてこうなったんでしたっけねぇ。どこかに原因があるはずです。最近の行動を思い返してみましょう。


 まず三日前、私はようやくのこと診療所から外に出ることが叶いました。これは嬉しい限りです。それから仲間の皆さんと、いやハウさんはまだ長い療養が必要だったので省きましたが、ソシテさんとトコロデさんと一緒に食事に行きましたね。いくつか差し歯にしたので食べ物が噛みづらかったことを覚えています。


 その日は終わりです。次の日、私は魔道具店に行きました。別に魔法なんかろくに使えないんですけどね。トコロデさんが一応魔法使いのなりきりみたいなものなので、初級魔法でも覚えさせようかと思って寄ったまでです。その時、色々摩訶不思議な物に触れました。もしかすると原因の発端はここかもしれません。


 次の日は、鍛冶屋に行きました。鎧がいい加減古くなってしまったので新調しに行ったんです。他にも剣とか盾とか、あとは珍しい金型とかも見せてもらいました。それだけです。


 そして、その日、つまりは昨日、私の頭の中から声が聞こえ始めて、今の様相に至ると言ったところです。


「あの、別に私の頭に居座るのは構わないんですけど、お家賃を徴収しますよ?」


『何っ回っ言わせればわかるわけ? 僕様の使う言語が間違っているのかなぁ? どれだけ僕様をコケにすれば気が済むんだよお前!』


 なんで終始不機嫌なのでしょう? 感情の制御ができないんですかね? とか、そんな表面的な疑問を抱いてしまうのは人間の性でしょうか。


 もっと抱くべき疑問や明かすべき疑惑があるというのに。


「とりあえず、貴方を退かす方法を今考えてますから。自己紹介でもしておいてください」


 と言うと、黙るのだった。


 しかし方法といっても全くもって思いつきません。精神に関する医者なんていましたっけねぇ?


 そうだ。困ったら人に聞きましょう。ちょうどいいことに私は指名手配犯でありながら顔が割れていません。出会い頭に通報されることもないわけです。素晴らしい。


「あのちょっといいですか?」




 **********




 私は幸運と言いますか都合いいと言いますか、どうやらあの医師会の十人のうちの一人がこの都市に駐在しているらしいではありませんか。しかもおあつらえ向きに精神に関する専門家なのだとか。


 もちろん私は抜かりなく場所を聞き出し、その医師がいる場所までやってきました。


 ふむ。しかし建物はありませんね。更地です。


 いや、更地ですが上側に開く戸のようなものがありますね。これを開けるんでしょうか? ということは地下に住むお医者さんということなのでしょうか。医者というのは随分地下を好むものですね。到底理解できる価値観じゃありません。


 何にせよ私は急患です。事を急いている患者です。特に抵抗もなく、私は戸を開けて地下へと下っていきます。梯子でした。よくあることですが。鎧で梯子を下るというのは実は結構難しいです。とはいえ、落ちたところで大したダメージもありませんが。


「ここですか……」


 下に降りて少し廊下を進んだところで、重厚な金属製の扉が立ち塞がります。鍵は……開いてますね。一応紳士として、常識を働かせて、ノックをして入りました。


「こんにちは……大変急で申し訳ない限りなんですが、一つ病気を見て欲しくて……」


 部屋は散らかっていた。書類が散らばり、床に液体のシミがあり、薬品と焦げるようなニオイが充満している部屋でした。


 そしてそんな部屋の中央に、白衣を着た女性が座っていました。随分偉そうに座っていますね。


「なるほど、予想だにしなかった周期だ」


「良いんですか? 駄目なんですか? それともお忙しかったですか?」


「いや? 構わない。そういう周期も悪くない」


 どうやら中々におかしな人らしい。しかしまぁ、医者というのは一様に変人というものです。受け入れるほかありませんね。


「では座りたまえ。話を聞かせてもらおう」


 そう促されて私も座ります。固い丸椅子でした。鎧に優しくない、座りづらい椅子ですね。


 そして私は語り始めました。おっとおっと、危ない危ない。この事を喋ると私の体が自害を始めるんでした。危機一髪ですね。


 ……だとして、どうやって伝えましょう? このまま何も語らなければ、勝手に察してはくれないでしょうか? くれないでしょうね。


「……ふむ。喋らないということは、つまり、言葉に出して話せないということなのかな」


 察してくれましたね。しかし肯定も否定も危うくてできたものじゃありません。どう反応しましょう。


「あの……その……」


「喋らなくていい。一ついい方法がある」


 そう言ったかと思うと、お医者さんは私を突き飛ばしました。随分重い鎧を着飾った私を、しかも片手で、軽ーく触れる程度で椅子の上から突き飛ばされたのです。


「うわっ――――」


 びっくりして目を瞑りました。そして金属がぶつかるやかましい音と共に、私は地面に転がることとなる――――と思ったのですが。


 気づいた時、私は扉の方を向いて直立していました。転ぶことなく、部屋の中央に立っていたのです。不思議です。一体全体どういうことでしょう? 催眠術とかそういう類の治療でも受けたんでしょうか?


「これは……」と言って私は振り返りました。そこにはあのお医者さんがいるはずなので。


 ……いないですね。とても狭い一室なので、隠れる場所もありません。どこへ行ってしまったのでしょう?


 部屋は静かでした。何の物音もありません。入ったときも思いましたが、随分散らかった部屋ですねぇ……こんな散らかってましたっけ?


 ともかく、部屋の主人もいなくなってしまいましたし、このまま残っていたら不法侵入者としてしょっ引かれかねません。お暇させていただきましょう。迅速に。


 外に出ると、もう夕暮れでした。お医者さんの場所を探すのに時間をくったせいですかね? 時間が経つのは随分早いです。


『ところでなんだけどさぁ、お前、生きてて恥ずかしくないの? 随分醜く惨めに這いつくばって生きてるみたいだけど、どうしてまだ死なないの?』


「なんですか。貴方に私の何がわかるんですか?」


『何がって? そりゃ全てだよ。だって僕様お前の記憶ぐらいなら簡単に見れるんだからさぁ』


 それは……まぁ確かに気恥ずかしいですね。


『恥ずかしいなら何で人生をさっさと諦めないの?』


「考えていることまで読めるんですか……」


『ちょっとずつお前の体を支配している証拠だよ。次は肉体の完全な主導権だね。待ってなよ。すぐその時は来る』


 はぁ、本当困った人です。いや、人かどうかも怪しいですね。どこでこんな寄生虫に当たったのでしょう。


『はぁ!? 今なんて言った!? 僕様のこと寄生虫って言ったか!? 良いか! 僕様に言わせれば、この世界にしぶとくへばりついてるお前らの方が――――』


 このとき、あんまりにも頭の中で騒がれて良い加減不愉快だったので、私は自分の顔面を思い切り殴りました。これは私の特技の一つなのですが、私は自分の事を全力で、抵抗なく殴ることができます。これは中々できる人間いないそうですよ。


『やめっ……やめろ! 殴るな! 自分の体だろ!』


 どうやら痛みは通じるようでした。それはなんだか嬉しいようで、完全にこの人と体が融合しているみたいで気持ち悪くもありますね。


『話を……話を聞けぇ!』


 とりあえず、治ったばかりの傷を悪化させるほど、私は自分の顔面を殴り続け、ハウさんやソシテさん、トコロデさんの待つ場所へと帰るのでした。


 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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