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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第一章 一年で一番幸せな日とか

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#12 運命的な出会い

前回のあらすじ

 旧世界探索から六ヶ月が経ち、僕たちはトレジャーハンターとして目的を話し合い、仲間として結束を強めるのであった。

 僕たちの目的は全て旧世界に集約されている。だから、旧世界のあるダンジョンを見つけなくては話にならない。


「このダンジョンは随分と古いですねぇ。カビ臭くってたまんないですよ。鎧が錆びちゃいそうです」


 ナドがそんな文句を垂れる。僕たちは現在南西の街から少し離れた山中の寂れたダンジョンへやってきていた。


 ダンジョンといっても、とっくに漁られ尽くされており宝箱は軒並み空で、罠も落とし穴や矢が飛んで来るものなど勢揃いだが、どれも錆びついて動かない。


 至極安全で面白みのない廃墟である。


「こっちだ」


 ソシテがT字路の分かれ道を誘導する。いつも通りならこの選択は彼の勘によるものだ。


 不思議とソシテの勘はよく当たる。


「……行き止まりだ」


 おや、珍しい。ソシテの勘が外れた。


「まぁこういうこともありますよ。だってあなた、適当に選んでるんでしょ?」ナドがそんな風に茶化す。


「そうだな。引き返そう」


 それ以外の手段もないので、僕たちは道を引き返す。


 そうして選ばなかった方の道を行くのだが……すぐにまた分かれ道に当たってしまう。


「また分かれ道だね。どっちにするの?」


 ソシテは右を選ぶ。僕たちもそれに追従するのだが……


「行き止まり……」


 そこにあったのは壁だった。


「またハズレですか……どうしたんですか? 風邪でもひいたんですか?」


「ふむ……そうだな。戻ろう」


 また外した。たしかにここ最近どれだけダンジョンに潜っても成果を挙げられていなかったし、もしやソシテは疲弊してしまっているのかもしれない。


 引き返して、再度進むと、また分かれ道。


「分かれ道が多いな。まるで、迷路みたいだ」そもそもダンジョンは地下にある迷路みたいなものだろう、と自分で自分に指摘をしながらも、僕はそういった。


 迷路みたい……普段のダンジョンは特に苦労することなく踏破できてしまうので、この久しぶりの難関に僕も辟易しているのだろう。


 松明の炎が揺らめいて、僕たちの影も同時に震える。


「ナド、お前が選んでみろ」


「え、私ですか?」


 ソシテが選ぶのをやめて、ついにナドに任せるようになってしまった。


 まぁ、だからと言って特段何かが変わるわけではないのだが。


「じゃあ、左で」


 ナドの選択通り左に進む。


「おやおや、今日は徹底的に運がないですねぇ」


 ナドの選択もまた間違いだった。行き止まりが鎮座している。


「ふむ……」


 しかし、二択をこうも連続して外すというのはなかなか面白い確率なんじゃないか? 少しだけ楽しみになってきた。


 とにかく例のごとく引き返し、僕たちは選ばなかった方の道を進む……のだが。


「みんな! ここも行き止まりだよ!」


「見たら分かる」


 そこも行き止まりだった。それが指し示す事実はただ一つ。


「もしや、僕たちは盛大に道を間違えたんじゃないか?」


 思えば、この分かれ道の多い通りに進んだのもまた、分かれ道だった。二択をことごとく外す今日なら、根本の選択が最初から間違っていてもなんらおかしくはない。


 なかなかの無駄足を踏んでしまった。


 とまぁ、そこで絶望してへこたれる精神力を持つ人間はパーティーにはいないので、やや早歩き気味に元きた道を戻ることになる。


 だから、僕たちが進んだ道は、また別の道がある。


 はずなのだ。


 だから、おかしい。


「行き止ま……り」


 引き返したその道さえ、行き止まりだというのはおかしいのだ。


「俺たちは……この道から来たよな」ソシテが全員に向かって、あるいは自分に向かって、そう確認を取るようなことを言った。


 ここから来た、というのは僕の少ない記憶の中ではなんら間違いではない。大して変わり映えのある景色ではないが、そこは断言できる。


 つまりは、なかったはずの壁がいきなり現れたということになる。


「古ぼけても根気よく残っていたなにかしらの罠に掛かってしまった、といったところか」


「そうなんですかねぇ……だとしたら、もっとこう、うるさく揺れたりなんかしそうなものですが」


 ナドのいう通り、この規模の罠にしては掛かったことに気づかなすぎるというか、罠としての完成度が高いと僕も思う。


「とりあえずまた来た道を戻ってみるぞ。もしかすると、ここが閉まって別の場所が開いている、なんてことがあるかも知れない」


 それも望み薄だが、といった心境が垣間見える物言いで、ソシテは再度道を引き返した。行ったり来たりの往復が、やはりどうも徒労というか無駄足を踏まされている感が強かったが、しかし迷うという現象そのものが無駄の塊みたいなものだと思って、陰鬱な気分にさせられた。


 迷う。思えば僕は人生自体に迷っている。


 自分が誰かもわからず、自分が何をしたいのかもわからず、現状の、いわば仮であり偽りの自分であり続ける。


 もし僕が記憶を取り戻した時、この六ヶ月間の僕は一体どうなってしまうのだろう。


「あれ」


 最初の十字路まで戻ってきたとき、トコロデがふと呟いた。


「どうした」


「あのさ、この、これ、こんな道あったっけ?」


 トコロデが指を指す方には道がある。しかしここは僕たちが一度やってきた分かれ道なのだからもちろん――――


 あれ、そうだ。ここはたしかT字路だったはずだ。ここの選択をソシテが外してから、僕たちは囚われて始めたのだ。


「ここT字路でしたよねぇ? ということは、新しい道が出てきたってことですか? なんの音も出さずに?」


「ふむ……もしかすると、俺たちはただ二択を外し続けていた、というわけではないかも知れないぞ」


 新しい道の先は他の分かれ道と何一つ見た目は変わらないが、どこか闇が満ちているように思えた。


 もっというなら陰気くさい。どこか沈んでいるような印象がある。


「何があるかわからんが……とにかく行ってみよう」


「え、行く気なのか?」


 僕はつい引き止めてしまう。罠に掛かった状態で、こんな見え見えの罠にさらに掛かりにいくというのが、危険でありとても看過できなかったからだ。


 それとも、単に怖かったから、というだけかもしれないが。


「ふむ……お前のそのもっともな警戒心は立派だが、しかし、八方塞がりで特に何かできるというわけでもないしな……」


「もしかして、怖いんですか?」


 ナドは僕にそう言った。それは図星の一つだ。


 うーむ……まぁ、たしかに、他に何をするというわけでもないし……


「……わかった。進もう」


 僕は安易に承諾した。あっけなく自分の意見をひん曲げた。


「くしゅん! ホコリっぽいね、ここ」


 トコロデが鼻を鳴らす。たしかにどうも空気が澱んでいる。


 松明の光がほんの少し、弱くなっていた。


「おや、どうやら少し広い部屋があるみたいですよ」


 しばらく一本道を進んでいると、ある一つの部屋に繋がっていた。


「少し休憩しますか」ナドがそう言って松明を手に取り、中央に焚き火を焚いた。


「ふむ……どうやらこの部屋もまた、分かれ道の始点みたいだな」


 部屋の壁には四つの道があり、それがどれも別々の方向へ伸びているのがわかる。


 今度は四択か。なおさら当てさせる気がないのだろう。


 いや、そもそもこのダンジョンに対して真っ向から挑むのは間違いなんじゃないだろうか? 実際、先ほどまでも二択はどちらも間違いだったことだし。


 とすると、この四択ももっと他に攻略方法があって、バカ真面目に挑むべきではない、ということになる。


 やけに頭を使わせるダンジョンだ。これで地下に旧世界がなかった暁には、しばらく立ち直れそうにないぞ……


「あの……すいません!」


 知らない人間の声。男だ。


「あれ、驚かせちゃったかな……? そんなつもりじゃなかったんだけど……」


 四つの分かれ道のうちの一つ、そこから長身の男が姿を現した。まだらに濃い桃色の髪が混ざった黒髪の男である。


「なんか迷っちゃったみたいで。誰か親切で心優しい人でもいないかなーって思ったんだけど……」


 君たちはその心優しい人? と、男は言った。


 男はにこやかに笑顔を絶やさず笑っていた。がしかし、地下深くのダンジョンでいきなり出会った人間をそう簡単には信用できない。


 僕たちは様子を伺うように、あるいは単に驚き硬直しているだけかもしれないが、一言も発することなく男に全員が注意を向けていた。


「誰だ、お前」沈黙を破ったのはソシテだった。


「ボク? ボクはモシ。汚らしい血の生まれで、稚拙で不吉で聞くに堪えない不穏当な響きの名前だけど、覚えてくれたら嬉しいな」


 モシと名乗ったその男は薄っぺらくにこやかに笑ってそう言った。


「……変な人だね!」


 トコロデがおそらくは潜み声のつもりなのであろうその大声で僕に伝えてきた。……まぁその点については概ね同意だが、変である以上に怪しいとさえ僕は思う。


 だってこのトコロデの暴言を聞いてもなおモシは表情を変えない。少しくらい眉を顰めてもいいものなのに。


「ところで君たちはそっちからきたよね。もしかして出口に行くにはあの方向へ行けばいいのかな」


「なんだ、お前。外に出たいのか」


「そうだね、出口。ボクたちが目指しているのは出口だね」


 たち? モシは一人でそこに立っている。あぁ、仲間とはぐれたとか?


「だったら残念ですねぇ。私たちが来た方を戻っても、そこにあるのは壁ですよ」


「えっ、そうなの?」


 そんな驚嘆の声をあげて、モシは考え込んでしまった。


「ねぇ、もしよければボクも連れてってくれないかな? もしここから出してくれたら、盛大なお礼を用意できるよ!」


 モシはやはり笑顔でそう言った。


「ふむ……まぁ、いいだろう」


「えぇっ! いいんですか? だって、あの人、ほら、ねぇ?」


 目の前にその当該人物がいるせいで、あんなに怪しいのに! と言えなくて随分もどかしそうなナドがそこには居た。


「本当にいい人たちで助かったよ。ボクみたいな愚か者を連れて歩くことを許してくれるなんてね! 世界はまだまだ捨てたものじゃないね!」


 そう言ってにこやかに、悪く言えばヘラヘラと、モシはそう言った。


「なら、こっちに行かない?」


 モシは四つある分かれ道のうちの一つを指差す。その道は他の道同様暗く澱んでおり、先が全くわからない。


「いや、こっちだ」


 しかしソシテは別の道を示した。モシ現れた道でもなければ、モシが選んだ道ではない別の道。そして、その口調には断固とした意思が含まれており、突き放すようでさえあった。


「わかった。そっちの道だね」


 しかしモシはなんの反論もなければなんの不満も示さずに従うのだった。


 ただ嫌味のわからない優しい人間、というだけかもしれないが……


「おい、周囲には警戒しておけ。あいつは賊かもしれん。どこから襲撃されるかもわからん」


 ソシテが僕のそばにやってきて、僕にそう耳打ちした。


 なんだ、ソシテも案外警戒しているのか。てっきり何も考えず同行を許したのかとも思ったが、しかし聡明なソシテをして、そんな愚行はしないようだ。


 探索をするにあたって一列を作って臨むことになった。先頭からソシテ、僕、モシ、ナド、トコロデと並び、十分に周囲を警戒する。


「ねぇ、そういえば君はなんという名前なのかな?」


「……僕?」


 モシが僕に向かってそう聞いてきた。


 名前……つい先日も聞かれたけれど、名前というのはそれほど重要なのだろうか。


 かの中央王国騎士団の人たちも、戦う前にな名前を名乗っていた。それも意気衝天といった具合に。


 名乗ることにそこまでの意味があるとは到底思えない僕だったが、しかし自分の思ったことにそこまで頑固に従えるわけでもなかったので、僕は口を開いた。


「ハウエヴァー、とかです」


 僕は振り返らずにそう言った。


「へぇ、ハウエヴァーって言うんだね。よろしく」


 硬い靴底が地面を叩く音が通路中に響く。


「しかし名前っていうのはひどくくだらないものだよね……例えば、意地でも他者と異なろうとする傲慢さとかが特に癪だよ」


「そうは思わないけど……」


 名乗ることが無意味だと言っていた僕ではあったが、しかし名前を軽視しているわけではないのだった。


「あれ? もしかして気に触っちゃったかな……?」


 一列に歩いているので、顔を見合わせているわけではない。だが、モシがいつも通りの笑顔でそう言っているのが僕にはわかる。


「それにしても、君の仲間たちはいい人たちだね。ボクたちなんかとは大違いだよ」


「……というと?」


 返事をする気が特段あったわけでもなかったが、無視するのも違うと思って、僕は話を広げることにした。


「それがひどい人たちでね……例えばリーダーなんかは、金遣いも荒いし偉そうにふんぞりかえっているし、良いところを探すほうが難しいよ」


「……大変なんだね」


「うん、大変だよ。本当の仲間にいつかなれるとは思っているけれどね」


 本当の仲間? その随分と詩的な言葉を堂々と語るモシにやや驚きはしたが、しかし愚痴を垂れるほどの人間たちに対して希望の言葉を使えるという点に僕は感心した。


「ところで、本当の仲間というのはどんな人間でもなれるものなのかな?」


「……それは」と言って、次の言葉が出なかった。


 何を言おうとしたのだろう。僕は。


「そう、例えば酷く恐ろしい化け物とかね。他の人間とははっきり異なる異形で異質な存在でも、絆や時間さえあれば本当の仲間になれる。酷く美しい綺麗事だけど、それは本当に真実なのかな?」


 返答は思いつかない。なんと言っても嘘をついたような気分になりそうだ。


「まぁ怪物はやや言い過ぎかもしれないから、もっと現実的にいえば……そうだね、素性のはっきりしない人間、自分を記憶喪失だとか語る人、とかね」


 記憶喪失、という言葉がやけに強調した風に聞こえる。いや、それは勘違いなのだろうけれど……


 だが、それでも、無視のできない話が始まってる。


 まるで僕の話みたいだ。


「何が言いたいんですか」


 僕は足を止めて、そして振り返ってそう言った。


「単純な話だよ。得体の知れない、期待の見えない、正体不明の人間でも、人は仲間として受け入れてくれるのか、っていう疑問だよ」


 先程まで、ずっとモシの笑顔は貼り付けたようだった。偽物で、外面よく振る舞うだけの笑顔。しかし今の彼は笑ってこそいるが、心の底から湧き出た感情が、今こそ表情に現れているような、そんな笑顔を浮かべている。


「だけど、君の仲間たちなら可能なのかもね……君の仲間たちは危ういほどに優しいから」


 ま、それでも、秘密を隠し続けたままじゃ、本当の仲間にはなれないか。とモシは言った。


「あなたは、何を知っているんですか」


「……あれ、怒っちゃったのかな?」


 モシは、笑っていた。


 それは嘲笑のようにも見えた。


「ところで、君の優しい仲間たちはどこにいっちゃったんだろうね?」


 ……ん? どういう意味だ?


 そう思って僕はナドやトコロデ、ソシテを探して辺りを見回した。


 しかし、彼らはどこにもいなかった。いや、そんなことはどうでも良くてそれ以上に――――


「そして、ここは一体何処なんだろうね?」


 先程まで暗く風化したダンジョンの通路が、いつの間にか変貌していた。


 足首まで透明な液体が浸り冷たい感触で満たされ、壁面や床は不自然なほど白い傷ひとつない石とも布とも言えない素材で構成され――――


「どうやらボクたちは、面白い運命の中にいるみたいだね」


 左右の壁には正方形の窓のようなものが等間隔に奥まで並んでおり、そこから差し込む光が不気味なほど通路を照らして――――


「ここは……もしかして……」


 そして何より、この通路は無限に続いているように、僕は見えた。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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