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暗澹たる旧世界と煌々たる異世界で伝説の秘宝を探したい!  作者: 青ニシン
第一章 一年で一番幸せな日とか

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12/29

#11 今日は天気が良くて最高で素晴らしくて笑えない日

前回のあらすじ

 完璧な魔獣との激戦をなんとかやり過ごし、満身創痍の中旧世界を脱出しようと歩みを続ける。放心状態で進んだ先で、僕は階段に気づかず転げ落ちてしまったのだった。

 ―――― 六ヶ月後。


「しかしなあお前、世界ってのはどうだ? 面白いか?」


 あの旧世界から、世にも恐ろしいはっきり異なる異世界からの脱出を遂げてから、僕たち一行はいちパーティとしての時間を過ごしていた。


 どうやって脱出したかは、覚えていない。いつの間にか、穴蔵の中に僕たちはいた。


 そうして、逃げるように旅を続け、今ははるか南西のとある栄えた街に滞在している。


「面白いかどうかはともかくとして、恐ろしいものではあると思いますね」


「恐ろしいとはお前、なかなか言うじゃねーか」


 誰が作った世界だと思ってやがる。ニヤリと笑いながら、そんな傲岸不遜な物言いを、目の前の白い髪の女はした。


 どういう意味? 世界を作ったのは神様とかだろう。


 とはいえ、天気の良い今日この頃。僕はこの街の喫茶店にお茶を飲みに来ていた。許可を出した記憶もないのに――――他の席も十分に空いているというに、目の前に同席しているのは、まったくもって知らない女性――――名前も教えてくれない、失礼で傲慢で正体不明の白い髪の女だ。


「ところでお前、何やってるヤツなんだ? あぁつまりこれは単純明快、シンプルな問いとしての、お前が一体どんな職業で、何を生きがいにして生きているかっていう、ありふれた雑談のタネとしての質問なんだが」


 だから、嘘をついてもらって構わない。なんて続けるのだった。


「僕は、いわゆるトレジャーハンターというやつですよ」


 そんな問いに対して僕は嘘偽りなく答えた。そう、僕はトレジャーハンターになったのだ。何者でもなければ、なんの記憶もない僕が、どうしてそんな肩書きを得るに至ったのかといえば、それは旧世界を脱出してようやく落ち着いて話ができるくらいまで時間が経ったころまで遡る。


 ――――――――


「一つ、俺たちの目標というか……目指すところ、みたいなものを決めておこう」


 四人で火を囲んでいる中で、ソシテはそう切り出した。


「まず、俺の持っているこのナイフ」と言って、ソシテは錆びたナイフを懐から取り出した。


「これは、俺が初めて旧世界に行った際、拾ったものだ。これは古代大魔術師が作った伝説の七つ道具というものの一つらしい」


 そう言ってナイフをしまう。


「俺はこういったものを集めたい。旧世界に取り残された伝説の秘宝というやつをだ」


 次に自ずと、ナドが語るような雰囲気になった。


「そうですね……みなさんに話したかどうかは覚えていないんですが、私記憶喪失なんですよ。それも一気にドカンとなくなるタイプじゃなくて、徐々に失っていくっていう感じの。大体今は十二歳くらいまでの記憶はありませんね」


 ナドが姿勢を正す。その際に鎧が揺れて金属が小気味よくぶつかる音がした。


「だから、私はその記憶を取り戻す……か、この奇病を治す方法を見つけたいんです。まぁ、地上にある方法は全て試してダメだったので、やはりソシテさんと同じく旧世界の秘宝だよりということになるんでしょうが……」


 次に、ナドの隣に座っていたトコロデの番。


「わたしはね、杖を集めてるんだよね」


「何、そうなのか」


 ソシテが初めて聞いたような反応をした。


 そうだ、僕以外はすでに何ヶ月か行動を共にしている仲間たちである。こういった会議も初めてではないはずだ。


「俺はお前から、強くなりたいとかなんとか聞いていたが、違うのか」


「あぁ、それもあるんだけど〜、最近思い出したんだよね」


 最近、思い出した……


「杖が欲しいの。なんだっけな、ごせいじょう……? だっけかな。なんか杖を集めるっていう目的があったの。気がするの」


「随分あやふやですね。大丈夫なんですか?」


「なんかね、すっごい大事だった気がするんだよね。忘れちゃいけないような、忘れたらダメって感じの、ざわざわがするの」


「ごせいじょう、五つの聖なる杖といったところか。もしかすると、それも旧世界にあるのかもしれないな」


 だといいね〜なんて呑気な言葉でトコロデは締めくくる。


 そうして。


 そうして僕、名前と記憶のない僕の番だ。


「僕は、自分が誰なのか、何者なのか、どんな道を辿ってきたのか、何を知っているのか、何をしたのか、何ができるのか」


 知りたいんです。と言った。


 これは僕の、心底から湧き出る本当の願いだった。


 生きる原動力、進む道筋みたいなものだと思ってくれて構わない。


「なるほど、ま、そりゃそうですよね。ここで悪を全て倒す! とか言われても困りますし」


 ナドが茶化しに入る。相変わらず空気を読まない男だ。


「ふむ……だがしかし、なんの手がかりもないんじゃ、どうにもできないな。何か思い出したことでもないのか?」


 思い出したこと……と言われて、そういえば一つ夢について思い出したことがあるのを失念していた。


 黒い女だ。肌が黒いというわけではなく、髪と服装が黒い女。ニヤリと笑って世界のつまらなさを嘆いていた。


 そのことを皆に話した。


「顔とかは思い出したんですか?」


「いや、それが全く。モヤがかかったみたいに思い出せないんです」


「……もしかすると、旧世界が関係しているのかもな。あんな常識はずれで理外の空間なんだ。お前の記憶に何かしらの干渉があったとしても不思議ではないだろう」


 それは、まぁ一概に否定できない理屈だった。


「それに、もしかすると記憶を軒並み思い出す道具、なんてのがあるかしれませんしね」


 うん……その期待は皮算用と言えなくもなかったが、しかし可能性は無視できない。


「となると……だ。俺たちは皆、宝と旧世界に用がある、命知らずのトレジャーハンターというわけだな」


「パーティー結成だね! 祝杯祝杯!」


「あんた酔ったら無茶苦茶するでしょ!」


 みんな、楽しそうだった。あんな地獄を体験した後だというのに。


「そういえば、お前、名前……というか、呼び名がなかったな」


「ええ、はい」


「あぁ、それならみんなで考えましょうよ。それで、気に入ったやつを選んでもらうんです」


 そうして、みな一斉に考えだした。


 ――――――――


「そういや、お前の名前はなんて言うんだ?」


「名前?」


「あぁ、名前。名前っていいよな。違いのない人間共を簡単に区別できるってところが特に」


 名前、そうそう、確か名前を決めてもらったんだっけ。


 なんて名前だったかな。やけに長ったらしい名前だった、そんな気がするのだけれど……


「あ! 思い出した!」


「忘れてたのかよ」


「えっと、ハウエヴァー、ビィユゥティ、オルソォ、のどれかです」


「どれかってなんだよ。大事な名前を粗末に扱ってんじゃねえよてめぇ」


 と言っても、名乗る機会も全くないし、僕指名手配犯だし、みんなも、お前、とか君、とかでしか呼ばないし……


「ま、しかしいい名前だ。どれにしたってな。最高の名前だと思うぜ。全部な。これ以上ないってくらいだ」


 ベタ褒めだった。


 確か由来があったはずである。この名前を考えたのはソシテなのだが、記憶の限りだと、そう、世界で一番最初に解読された古代語が、ハウエヴァーとビィユゥティとオルソォの三つで、響きがかっこいいのと言葉の意味が判明していないから思い入れを抱かなくていい、みたいな理由でこの名前になったのだ。


 一番最初が三つというのはおかしい気もするが、まぁタイとか同率とか、そんな便利な言葉がこの世界には転がっているので、よしとしよう。


「しかし名前が三つというのはいただけねぇな。そんな狼藉は許されねぇ。名乗るんだったらどれか一つにしなきゃな」


 名前が三つあることに、そこまでの傲慢さを見出そうとする白い髪の彼女は、ニヤリと、そしてニヒルに笑ってそう言った。


 楽しそうだった。嬉しそうだった。上機嫌だった。


「だったら、そうですね。ハウエヴァーにします。なんなら、もっと縮めてハウとかでも」


「そうかよ。じゃあ今後ともよろしくどうぞ。ハウくん」


 白い髪の彼女はそう言って席を立った。そうして街の喧騒へ溶け込んでいくのだった。


 あ、というか、あの人、人の名前を聞いておいて自分は名乗らず帰って行ったな。


 誰だったのだろう。誰だろうと別にいいか。


 今後ともよろしくどうぞ、とか言ってたし。またひょろっとどこかの喫茶店で現れるかもしれないじゃないか。たとえ一生会わなかったとしても、それはそれで構わないわけだし。


 テーブルに置いてあったお茶は、すっかり冷めてしまったけれど、なんにせよ美味しかった。


 代金を支払って店を出て、僕は街を歩く。他の仲間たちはどうしているのだろうと思ったが、しかし行動の読めない人たちばかりだと気づいて、考えるのをやめる。


 今日は晴れだが、僕はローブを着ていてしかもフードをかぶっていた。その理由はもちろん、美意識過剰による熱心な日焼け対策である――――もちろんそんなことはなく、ただ単に僕たちが指名手配犯で、しかも結構重罪人として据えられているからなのであった。


「暑い……」天気のいい日に、厚手のローブはなかなか体に堪えるが、しかし憲兵に捕まって尋問に答える方が嫌なので、我慢できる。


「どろっ……ぼうー!」


 出店が連なる通りに出たところで、そんな悲鳴が聞こえてきた。


「そいつ! そのフード!  泥棒です! 誰かぁー!」


 その叫びの対象に僕が含まれていることに一瞬ドキッとしたが、しかし僕は今の所この街では何も罪を犯していない清廉潔白のみであったことを思い出し、我に返る。


 どれ、泥棒がいるならこの手で捕まえて見せようか、と思い至ってそのフードとやらを捕捉する。それは僕と同じようなローブを見に纏い、金髪碧眼で端正で整った顔立ちの、細い目が顔全体の均衡を保っている――――


「エルフだ……」


 というか、トコロデだった。右手に齧り後のついた果物を持っている。


 犯人発見。


「あ! えっと……なんだっけ。超メガー、みたいな、いや、違うっけ……吐くげゔぉー!」


「語呂感が合っていてどこか惜しいように聞こえるけど、僕の名前はそんなテンポのいい嘔吐みたいな感じじゃない」


「とりあえず、緊急事態! 逃げよ逃げよ!」


 この人出店の食い物を盗んだのか? だとすれば自業自得だろ。


 そうして僕はトコロデと流れるように出店の通りを逃げていく運びとなったのだった。


 逃げる、というか走る跳ぶという行為において、トコロデは抜きん出ている。なのでもちろん、少し栄えた程度の街に駐在している憲兵を撒くことなど容易だった。


 たどり着いたのは少し広い人気のない裏路地だった。


「おぇぇぇぇ」


 びちゃびちゃと道端に嘔吐する僕。吐くげゔぉーの蔑称を体現してしまっている。


 先述したトコロデの身体能力に、肉体はごく一般的である僕がついていけるわけがなく、僕は首根っこを掴まれて振り回されていたのだった。


 ソシテと初めて会った時も、彼はこうして吐いていたっけか……。


 そういえば、ソシテはどうしてあの時病院に突撃してきたんだ? しかも窓を破るなんてやけにスタイリッシュな真似をして。


 後で聞いてみよう。そうしよう。


「ふむ……まずいことになったな……」


「なに、その喋り方……」


「ソシテの真似〜」


 似てない。


「で、まずいことって?」


 口元についた吐瀉物を左の袖で拭う。


「んーとね。囲まれちゃった」


「えぇ?」


 トコロデがそう言うと、繋がった路地から、道の先から背後から、ゾロゾロと憲兵が出てきた。


 なんでここがわかったんだ? トコロデの八面六臂の大立ち回りが、まるで無為だったみたいではないか。


「指名手配犯の二名で間違いない。捕えろ!」


 一人だけ少し格好の異なる、おそらくは階級が上であろう人物の号令で、無数の憲兵が僕たちを捕らえんと飛びかかってきた。


 多勢に無勢とはこの事である。僕とトコロデはなんの抵抗も叶わず捕まった……なんてことはなく、僕はすぐさまトコロデに掴まってこう言った。


「じゃあ、お願いします」


「吐く君、わたしを飛竜かなんかだと思ってない? 便利な脱出道具みたいな扱いにしてない? そういう掴まれ方されたら動きづらいから!」


 と、なぜかトコロデが横着していると、僕とトコロデの体が宙に浮いた。というよりかはトコロデの体が何かに吊り上げられたと行った方が正鵠を得ている。


「貴方たち何してるんですか。全くアホらしいですねぇ。逃げますよ」


 先ほどまではタイル張りの路地だったが、今度は斜面のあるレンガ瓦の屋根を奔走する。


「ふむ……不味いことになったようだぞ」


 僕たちを窮地から救ったのは、ソシテとナドだった。より正確さを交えて言うなら、ソシテの錆びたナイフがこちらに伸びてきて、トコロデを絡め取ったのだ。


「助かった……で、不味い事っていうのは?」


「どうも、この街に駐在している憲兵、中央王国騎士団の分隊、賞金首ハンターの連中に俺たちの存在がリークされたらしい」


「私が嗅ぎつけました。決してソシテさんの手柄ではありません!」胸を張ってナドがそう言った。


「じゃあこの街にはもういられないんじゃないか?」


「まぁ、そうなるな。とりあえず、すぐに街を抜け出す必要があるな……大して準備もままならなかったのが悔やまれる所だが……」


 ソシテの表情はいつも通りの冷静さを保っていた。


「いいじゃないですか、別に。野に生きるための手段なら、何でも食べれる人に聞けばいいですし」


 ナドもいつも通り軽口を叩く。


「なんでも食べるって、わたしのこと? 失礼ね。これでもわたしは美食家なのっ!」


 トコロデは普段通り抜けた事を言っている。


「そもそも逃げ切れるかどうかすら怪しいんじゃないだろうか……」


 そして、僕。名前もなければ記憶もない。空っぽですっからかんでお先真っ暗な正体不明。


 それが僕。


 そして、これが僕の仲間。


 これからも続いていく、宝探しの一歩目が、今日刻まれたのだった。

 最後まで読んでいただきありがとうございます!

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