063 富士山バッジ
仁「こんにちは、魔法工学師の二堂仁です」
礼子「お父さまに作っていただいた自動人形でアシスタントの礼子です」
仁「作者が実際に作ったあれやこれやを、俺の解説で紹介するっていう企画の第63弾です」
礼子「今回はバッジづくりですか?」
仁「うん。観光地や山小屋で、オリジナルのバッジを売っているが、それを真似て一品物を作ろうというわけだ」
礼子「ああ、ハッカーが帽子やリュックサックに付けているあれですね」
仁「ハイカー、な」何だよハッカーって
* * *
仁「まずはデザインを決める」今回は富士山がモチーフです
礼子「作者さんが河口湖で写した写真です」
仁「著作権の問題が出るので自分の写真を使うのがいいかも」
礼子「これは、河口湖畔、大石公園付近から写した写真です」
仁「作者は河口湖側からの富士山が一番形が整っていて好きだと言ってたな」三ツ峠山からがベストアングルだとか
仁「写真を下絵にして、形をなぞる」使ったのはフォトショ◯プ(旧版)です
礼子「今はネットでダウンロードして年間いくら、での使用権を得るようですが、こちらは10万近くしたパッケージ版ですよね」
仁「その昔、作者はイラストを描いていたからな」だからスキャナーもタブレットも持ってます
礼子「小説を投稿するようになって、絵はほとんど描いてませんね」
仁「ああ。だから今のOSでは動かないんだ」なので2009年もののマシン上で、しかもオフラインで使ってます
礼子「よく動いてますね……」物持ちいいです
仁「まあともかく、太い線で形状を抽出するわけだ」この辺はお好みで
仁「ということで、最終的にこうなった」
礼子「シンプルになりましたね」
仁「残雪の逆さ富士と『山紫水明』という四字熟語入りだな」
礼子「あ、解像度は600dpiです」
仁「エッチングする時に転写するので、左右を反転する」
礼子「白黒も反転しましたね」
仁「うん。黒い部分はマスクされて地が残り、白い部分がエッチングされるわけだ」よく考えて決めてください
礼子「例によって8つもありますね」
仁「転写はよく失敗するからな」これで大きさはA6、A4の用紙を4つに切って使います
仁「モノクロレーザープリンタで出力だ」インクジェットではだめです
礼子「コンビニでもいいですか?」
仁「その場合、専用の用紙が使えないからな……」
礼子「黄色の紙ですね」
仁「うん。これは、もともとはエッチングでの回路作成用に販売されているトナー転写用紙だ」
礼子「秋葉原のaitend◯さんで買ったんでしたっけ」
仁「そう。今もあるのかな?」
礼子「『トナー転写用紙』として、ネットでも別メーカーさんのものが買えます」そこそこ高いです
仁「だけら4つに切って使ったりするんだよな……」
礼子「コンビニの普通紙でも可能です」『F式』+『エッチング』で検索すれば出てくるかと
仁「では、転写の準備だ」
礼子「バーナーと……何です?」
仁「自作のアイロンだ」焼きごてと言ったほうがいいかも
礼子「アルミのブロックにステンレスのネジを立てて取っ手をつけたものです」
仁「それから、バッジ本体だ」
礼子「1ミリ厚の真鍮板です」
仁「表面にはサビが付いていたり指紋がついていたりするので研磨する」
礼子「これをしないとトナーがよくくっつきません」
仁「鏡面にまでする必要はない」細かなヘアラインが残るくらいでいいでしょう
仁「手の脂が付いているので脱脂する」ブレーキクリーナーやパーツクリーナー、アセトンなどが使えます
礼子「有機溶剤を使う際は換気にご注意くださいね」
仁「脱脂した面はもう触らないように」
仁「転写準備だな」
礼子「平らな台としてMDFの端材を使っています」
仁「かまぼこ板でもいいと思う」
仁「転写時にずれないよう、マスキングテープで固定する」
礼子「抑える時に結構ずれるんですよね」
仁「そうなんだよ。0.5ミリでもズレたら失敗だからな」
礼子「作者さん、1回失敗しましたものね」
仁「やっぱり慣れもあるよな」
仁「焼きごてをバーナーで加熱する」
礼子「加熱の加減が難しいですよね」
仁「そうなんだよな」温度調整のできるアイロンでもあればいいんだが
礼子「作者さん、アイロンを持っていませんでしたっけ?」(060 巾着袋 で使っている描写が)
仁「うん……小さいアイロンなので、ちょっと熱が足りないらしい」
礼子「残念ですね」
仁「で、ぐっと押さえる」
礼子「まっすぐ力を加えないと失敗します」
仁「熱で軟らかくなったトナーがぐにゅ、って滑るんだよな……」それで1回失敗しました
仁「で、アイロンの熱が冷めたら転写紙を剥がすとこうなる」
礼子「ちょっとまだらですね」
仁「どうしてもな。だから修正が必要なんだ」
仁「修正の準備だ」
礼子「細筆と……?」
仁「グランド液だな」薄めたコールタールみたいなもの?
礼子「他に使えるものはありますか?」
仁「プラモデル用の塗料でも大丈夫だ」ごしごしこすらなければ溶剤系でも大丈夫
仁「で、細筆でちまちまと、切れた線やトナーが載っていない部分を修正する」
礼子「地味に面倒ですね……」
仁「こればかりは仕方ない」
仁「で、エッチングの準備だ」作者は昔買った処理剤付きのエッチング液を使っています
礼子「エッチング液とは?」
仁「これは『塩化第2鉄』の水溶液だな。硝酸より安全性は高い」
礼子「塩酸や希硫酸では銅や銅合金は溶けませんからね」加熱した硫酸は別ですが
仁「硝酸は手に付くとえらいことになるしな」人体のタンパク質が黄色く変色します
礼子「塩化第2鉄水溶液はそこまで危険ではないですが、目に入れたり素手で触ったりしないようにお気をつけください」
仁「で、エッチングする」
礼子「エッチングしたくない部分はできるだけマスキングしましょう」PPテープがいいと思います
仁「マスキングテープは紙だから溶液が染み込むんだよな」だからマスキングしたつもりでも溶けます
礼子「エッチング面は下へ向けるのがいいです」
仁「溶けた銅を含んだ液は重いので沈殿するんだが、それがエッチング面にたまらないようにする工夫だな」
礼子「時間はどのくらいですか?」
仁「30分から1時間くらいだな。今回は1時間やった」気温(液温)が低いときは時間が掛かります
礼子「あと、できるなら時々液を撹拌してやると好結果が」
仁「熱帯魚用のポンプで空気をぷくぷくと送り込んでやるとか、振動モーターで容器ごと振動させるとかな」作者は後者を自作してます
礼子「あ、それから1つ、『クエン酸』を一匙混ぜてましたね?」
仁「ああ、それがあったな。これは『エジンバラエッチング液』といって、美術系(銅版画)で使う技術なんだ」『エジンバラエッチング液』で検索すると出てきます
礼子「銅の沈殿物が少なくなるんですね」
仁「そうそう。……ついでにもう1つ、塩化第2鉄を使わないエッチングの仕方を紹介しよう」
礼子「はい」
仁「クエン酸水溶液にオキシドールを混ぜると、銅をエッチングすることができるんだ」これもネットで紹介されています
礼子「クエン酸だけではだめなんですね?」
仁「だめだな。……オキシドールから生じる『発生期の酸素』(061 チタンの陽極酸化(プラス緋銅)参照)が銅表面を酸化させるんだが、クエン酸は酸化した銅なら溶かすことができるんだな」
礼子「なるほど」クエン酸で酸化した銅がきれいになりますものね
仁「とはいえ、この溶液も下水に流したりそこらに捨てたりしちゃだめだけどな」銅が溶け込んでるから
礼子「だから作者さんは処理剤付きのエッチング液を使っているんですね」
仁「そういうことだな」廃液処理業者に頼めれば一番いいんですが
仁「一応、ポリエチレン製の使い捨て手袋を使って取り扱う」
礼子「取り出すと黄色いエッチング液まみれですものね」
仁「それをウエスで拭き取り、きれいにしてからマスクを剥がす」
礼子「作者さんは重曹水(アルカリ性でエッチング液を中和する)を含ませたウエスも使ってますね」
仁「それらは全部燃えるごみとして処分だな」環境破壊はしないように
仁「出来栄えだが」
礼子「ちょっと平面があばたになってますね」
仁「エッチング時間が長すぎたようだ」30分でよかったかも
仁「磨いてみる」
礼子「スポンジヤスリですね」
仁「力を入れすぎるとエッチングした凹面まで削ってしまい、エッジがダレるので要注意だな」
礼子「ガラスのような平板に耐水ペーパーを載せて研磨するのがいいです」400番から始めて、800番から1000番くらいまで
仁「研磨後の表と裏」出来栄えがよく分かります
礼子「やっぱりあばたになりましたね」
仁「うん……」平面までエッチングされないよう、要注意です、反省
仁「ブローチピンをはんだ付けする」
礼子「アクセサリー用に売ってますね」
仁「これはハ◯ズで買ったが、ネットでも扱ってるな」ただし10個とか20個とかまとまってますが
礼子「ワット数の高いこてを使わないとなかなかはんだが溶けません」
仁「めっきの準備をする」
礼子「今回はニッケルメッキですか」
仁「うん。銅への密着性が良好だし、錆びにくいしな」
礼子「銀ほど光らない(反射率が低い)のが難点ですね」
仁「その場合、パラジウムメッキやロジウムメッキを上にすればいいんだが」高いです
仁「まずは電解脱脂」
礼子「メタケイ酸ナトリウムの水溶液(適当な濃度です、薄くて十分)に電極を付けて浸漬します」重曹水でも大丈夫でしょう
仁「陽極(+)はステンレスの針金で、負極(−)側にバッジをぶら下げます」電圧は5Vくらい
礼子「泡が出ますね」
仁「多分水素の泡だ。この泡のおかげで、こびりついた汚れも一緒に落としてくれる」
仁「電解脱脂液を水(水道水でOK)で洗い(バケツに入れた水の中でばちゃばちゃやれば十分)、手で触れないようにしてニッケルメッキ液につける」
礼子「陽極は金属ニッケル(ネットで買えます)、陰極にバッジですね」
仁「陽極には炭素棒を使ってもいいけど、その場合ニッケルメッキ液の濃度がだんだん薄くなるんだよな」
礼子「ニッケルメッキ液はどうやって手に入れるんですか?」
仁「『め◯き工房』の補充用として販売されているな。50ミリリットルくらいを買えれば十分だ」
礼子「だんだん規制が厳しくなってますね?」
仁「うん……ちょっと前までは『マ◯ハ模型』製のニッケルメッキセット(ニッケルメッキ液+ニッケル電極)が販売されていたのに」
礼子「自分で作れないんですか?」
仁「塩化ニッケルその他の薬品が必要だし、めっき液メーカー独自の添加物なんかがあるらしいから、性能は落ちるだろうな」主に密着性と光沢なんかが
仁「電源の設定だ」
礼子「5Vの直流ですね」
仁「これだと1Aも流れないな」
仁「めっき完了だ」
礼子「真鍮色からニッケル色になりましたね」
仁「このままでもいいが、やはり色を入れたいと思う」
礼子「プラモデル用の塗料でいいんですね」
仁「小瓶だし、カラーバリエーションが豊富だからな」
礼子「『CC DB』というのは?」
仁「粉末の顔料だな。『雲母◯本舗』が販売しているCCパール顔料のダークブルーという意味だ」最近は販売終了みたいだが
礼子「マイカパウダー」でネット検索すると、たくさんヒットしますのでそちらを使うことも可能です
仁「あと、漆芸用のメタリックパウダー(こちらは多分アルミの粉に着色)も買えるな」
仁「今回は、空の部分に『CC B』(ブルー)(クリアー塗料に混ぜて)、左の森にはダークグリーン」
礼子「残雪は白、文字は黒ですね」
仁「湖の方は『CC DB』(クリアー塗料に混ぜて)だな」
礼子「あ、映った残雪は白ではなく少しだけ青を混ぜました」細かいです
仁「で、耐水ペーパーを平面の上に置いてさっと磨くことではみ出した塗料がきれいになる」
礼子「磨きすぎるとめっきも落ちますので要注意です」その場合もう一度めっきをする必要があります
仁「下地が真鍮の色だと発色が悪い(黄色みがかかる)のでめっきは必要です」白サフを吹けばいいかもですがやったことはありません
仁「表面保護のため、透明なエポキシでコーティング、その準備です」
礼子「2液型のエポキシ樹脂ですね」
仁「アクセサリーコーティング用なので硬度がやや高めにできている」
礼子「傷付きにくいんですね」
仁「難点は硬化に半日掛かること(その間ホコリが付かないようカバーをする)と少量なので計量が面倒なこと(なので精密ばかりが必要)だな」
仁「きっちり計量して混ぜ、コーティングする」バッジは専用の台(ピン部分が邪魔にならないよう)に載せておきます
礼子「……信◯餅に付いてきた木のようじですね」
仁「こういう時に便利なんだ」家で食べるときは金属製のフォークを使うので余るのです
仁「紫外線で硬化するUVレジンは使えないのか、と思うかもしれないが」
礼子「硬化が早いですものね」
仁「試してみると縮むんだよ……」収縮率が高い(3〜6パーセント)のです
礼子「2液型エポキシですと1〜3パーセントくらいですね」
仁「ダ◯ソーと、メーカー品のコーティング用レジンを1ミリ厚のABSに塗布して硬化させてみたらやっぱり反った」
礼子「多少メーカー品(星◯雫)の方が反ってますね」意外です
仁「ベースが金属だから反らないとは思うが、常にストレスが掛かり続けるというのもな……」
礼子「わかりました」
仁「あ、あと、他にも積層用のエポキシなども使えると思います」
仁「完成した」
礼子「あばたが残念ですね」
仁「それは反省点だな」
仁「帽子につけてみた」
礼子「遠目なら全然気になりませんね」
仁「これを被って山中湖とか河口湖へ行ったりな」
礼子「五合目は?」
仁「夏の間は、富士スバルラインはマイカー規制中なんだ」
礼子「そうでしたか」
* * *
仁「ということで今回は『富士山バッジ』でした」
礼子「お疲れ様でした」
仁「作業時の怪我にはご注意ください」
礼子「薬品の扱いには要注意です」
仁「溶液を無闇矢鱈と廃棄しないでください」
礼子「溶剤を吸い込まないようにご注意くださいね」
仁「趣味は楽しく、安全に」
仁・礼子「「それでは皆様、ごきげんよう」」
ごらんいただきありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
20260831 修正
(誤)「作者は河口湖川からの富士山が一番形が整っていて好きだと言ってたな」
(正)「作者は河口湖側からの富士山が一番形が整っていて好きだと言ってたな」




