表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/11

第十章 大地が揺れた日

横須賀での技術解析が始まってから、ひと月が経っていた。

大橋徳治のチームと、レイとの間には、当初の緊張に代わって、ある種の作業上の信頼関係が築かれ始めていた。

それでも、政府上層部の中には、ゼロとレイを完全な味方として扱うべきかどうか、慎重な姿勢を崩さない者も多かった。


1923年、夏の終わり。

ある日の調査の合間に、レイは大橋に、ある日付について確認を取った。


「今日って、何月何日。」

大橋が答えると、レイは少しの間、何も言わなかった。

それから、これまでとは違う、はっきりとした声で言った。

「大橋さん。少し、深刻な話があります。」


「私が元いた世界の記録では、今からおよそ数日後、この関東一帯で、非常に大きな地震が起きています。」

レイは、その日付と、おおよその発生時刻を、大橋に伝えた。


「これは、私が計算で予測したものじゃない。すでに起きたことが、記録として残っているの。」

大橋は、その言葉をすぐには信じられなかった。

地震を事前に知ることなど、誰にもできるはずがない。

それは、技術者としての常識だった。


「信じてもらえないのは分かる。でも、信じるかどうかは別にして、できる対策だけは、取ってもらえないかな。」

レイの言葉に、大橋は長い間、何も答えなかった。


やがて、重い息を吐いてから言った。

「分かりました。上に伝えます。ただ、どこまで動いてもらえるかは、私にも約束できません。」


報告を受けた政府と海軍は、半信半疑のまま、限られた範囲での対応を取ることを決めた。

危険性が指摘されていた老朽施設のいくつかから、人員を一時的に退避させる措置が取られた。

それでも、首都圏全体に警告を発することは、根拠の説明ができないという理由で、見送られていた。



1923年9月1日、午前11時58分。

大地が、それまで誰も経験したことのない規模で揺れ始めた。

横須賀の海軍施設でも、棟という棟が軋み、崩れていく音が響いた。

東京、横浜を中心に、火災と倒壊による被害が、瞬く間に広がっていった。


退避が済んでいた施設の人員は、無事だった。

しかし、それはあまりにも小さな救いに過ぎなかった。

レイが知っていた被害の規模を、現実が、そのまま追い越していった。


艦内で、レイは、自分が持っていた知識の限界を、初めて実感した。

分かっていたことと、防げたことの間には、大きな隔たりがあった。


数日後、瓦礫の中から救助活動を続けていた大橋が、ようやくレイのもとへ戻ってきた。

疲れ切った表情で、大橋はレイに言った。

「あなたの言っていたことは、本当でした。」

レイは、何かを誇るような気持ちにはなれなかった。


「証明されたのは嬉しくない。本当は、間違っていてほしかった。」


大橋は、その言葉を聞いて、少しだけ表情を緩めた。

「それでも、あなたが伝えてくれたおかげで、助かった人間がいます。それは、紛れもない事実です。」

その日を境に、大橋とレイの間にあった距離は、技術者と研究対象という関係を超えて、確かな信頼関係に変わっていった。

政府上層部の中でも、レイの知識を軽視する声は、急速に少なくなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ