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初恋  作者: 史音
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ゴルフスクール講師 大川

宮野さんに会った時に、私は宮野さんにお願いをした。優さんがよく会っていた人や行っていた場所を教えて欲しいと言うものだ。戸惑いながらも宮野さんは引き受けてくれた。

大きな手がかりを掴んだ気がして、私は喜んだ。


だけど、資料の受け渡しのために宮野さんと約束した場に現れたのは明だった。


むすりと嫌そうな顔をして、私を咎めるように見た。

「宮野さんにお願いするなんて、どう言うことだ」

そう言って私のやり方を責めた。


だけどずるい手を使わなければ手がかりなんてないのだ。

浜田エミリが空振りだったから、あてが無くなっていた。田辺さんに関してはもうだめだ。誰か何か知らないかと思っていた中で、偶然、本当に運よく宮野さんに会ったから頼んだのだ。


黙っている私に明が声をかけた。

「はい、これ」

明は茶色い封筒を差し出した。

「春奈の欲しいもの」

「ありがとう」

お礼を言って受け取る。封筒を見て

「え?封が開いてる」

責めるように呟くと明は嫌な顔をした。面白くなさそうな顔をして続ける。

「仕事関係は流石にやめてほしい。だから宮野さんのデータを俺が見て、女性が相手のところをピックアップした……女性関係を知りたいんだろ?」

見抜かれている。

私は目を逸らせた。紙を開くと綺麗な字で料理教室、ヨガ教室などが書いてある。意味がないかも知れないけど、やれる事はやりたい。

「ありがとう」

「俺が見る限り、おかしな人はいない」

お礼を言う私に、明は素っ気なく返した。そのきっぱりした言い方に私は苦笑いする。

「一つ条件がある」

「何?」

明は私の顔を見つめた。

「一人で行くな。絶対に俺と一緒に行くようにしろ」

思わず私は苦い顔をしてしまった。




エレベーターを降りると目の前に大きな花瓶に飾られた豪華な花が見えた。

「いらっしゃいませ」

私は受付の女性の職員に軽く頭を下げて一歩足を踏み出した。


ここは優さんが通っていたゴルフスクールで、セレブを対象にした高級スクールだ。

ゴルフは好きではないけれど、付き合いで行くことが多い。あまりにも下手だと困るし、定期的に行かないと上手くなれない、と毎週土曜の夜に通っていた。


もしかして、そこに何かあるかもしれない、と思ったのだ。

そこで知り合った人、そこのインストラクター、それから……。

出会いの可能性なんて、考えればキリがない。

優さんの母親に聞いたら、退会手続はしていないという。だからこれ幸いと、退会手続きをやるからと言ってここに来た。


明に渡されたリストの中に、このゴルフスクールはなかった。


明に言ったら一人では行かせられない、と言うだろうから、こっそりやってきた。多分すぐにバレるから、きっと今日の夜にはお叱りの電話が来るだろう。

気は重いけど仕方ない。



「あの、川村優の代理の者ですが」

「はい」

受付嬢は笑顔で返事をする。

「実は最近仕事が忙しくなったので、休会したいのですが」

「会員番号はわかりますか?」

「このカードを」

私はバッグから母親の明子さんから預かった会員証を出して渡した。

「大丈夫です。お待ちください」

受付嬢はそのままパソコンを作業していたけれど、途中から訝しげな顔をした。そのうちに隣に声をかけ、二人でひそひそと話し出した。

「え、えっと、あの」

私は慌てて声をかけると、一人がフロアの奥の待合スペースを手で示した。

「あちらでお待ちください。すぐ参ります」

その笑顔が不自然で、私はまずいことになったと心の中で反省した。


仕方なく椅子に座って待つこと5分。

「お待たせしました」

そう言って現れたのは、体格の良い男の人だった。白髪まじりの50代くらいの男性で私の前の椅子に座って名刺を出した。講師、大川と書いてある。

「川村様のご家族ですか?」

「はい。正確にはまだ、なんですが。もうすぐ」

語尾をぼかすと、なんとなくわかったのか、笑顔になった。

「そうですか。わかりました」

「あの、川村の退会をお願いしたいのですが」

だけど、コーチは困ったように笑った。

「申し訳ないですが、川村様はもう退会されていますよ」



「え?」

私が驚くと、コーチは苦笑いした。

「半年まではいかないくらいですかね。一旦辞めますと言ってきました」

そのことに私は驚いて、咄嗟に言葉が出なかった。



だって、優さんは私には変わらずゴルフスクールに行っていると言っていた。会う約束をするときも、ゴルフスクールを理由にされた事が何回かあった。



私は動揺を悟られないように笑った。

「あ。そうですか。勘違いですみません」

私は急いでその場を誤魔化そうと笑った。大川さんは苦笑いした。

「もしかしてスクールを変えたのかもしれないですよ」

「そんなことはないと思うのですが」

これ以上ここにいるのは危険と思って、帰ろうと決める。


私はため息をついた。

「川村は仕事で長期出張に出まして、突然で準備もできなかったので、私が動いたのですが、すみません」

気遣うようにコーチは笑顔になった。


「でも川村さんが辞めたときは残念でした。とても朗らかで、いい方でしたね。偉ぶることもないので、教え初めてから会社の重役さんだと知って驚きました。素直な方なのでこちらも教えやすかったですし、他のスタッフからの評判も良かったですよ」

「そうですか」

「ゴルフ、嫌になってしまったんですかね」

驚いてコーチを見ると視線があったコーチは苦笑いした。

「辞める前にもうゴルフに行く必要がなくなったって言っていたので、気になったんです」

「え?」

「あんなに熱心に練習していたんですけどね」

私は驚いた。そんなはずない。

ゴルフは接待や付き合いも兼ねる。主に休日に行くことが多かった。



現に私といるときも、休日のゴルフは月に数回入っていた。

ゴルフって大変ね、と言ったら、まあ付き合いだよ、と苦笑いしていたのを覚えている。


じゃあ、あれは、どこに行っていたの?

そして、行く必要がなくなったって、何?

仕事の付き合いはどうなったの?


頭がぐんと混乱する。



ゴルフと嘘をついて、どこかに行っていた?



言葉を失っている私に、コーチが笑いかけた。

「ゴルフはやめないでくださいねってお伝えください」



私は笑顔を返した。


伝えられることができれば、良いのだけれど。


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