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王子様のからくり  作者: ゆきうさぎ
<第1部>
40/145

39:

伊織君に言われて図書室まで来たはいいものの。


「…なんて声かけたらいいの」


今まで部活がない日は桐生が私を教室まで迎えに来てたし、部活のある日は校門で待ってたし。

…私、1回も桐生のこと待ってないし、迎えに行ってない。

当たり前、と言われれば当たり前だけど。

なんかちょっと複雑。

図書室なのにノックしようとした私。

どんだけ緊張してんの。


「あれ、先輩じゃないですか。図書室行くんですか?」

「‥千里、」


トテトテと私に走り寄ってきたのは、後輩の千里だった。

千里はノートと教科書を胸に抱えている。


「勉強?」

「期末前ですから」

「あー‥そういやもうすぐ期末だっけか」


忘れてた。

そういや昼休みも聖とそんな話したような気がする。


「数学?」

「そうなんですよ。私文系で数学全然できなくて」


テヘと笑った千里は自分の鼻をかく。

そして何かを思い出したように「あ、」という声を上げた。


「陽向先輩、理系クラスでしたよね?」

「え?あー‥まぁ、理系クラスにはいるけど、」


いるだけだよ?

いや、ほんと、マジで。


「教えてください!私、今回の期末やばいんです」

「‥安里は?あいつ理系でしょ」


なんで双子でこんなに違うんだと千里を見ながら思うけど、よくよく考えれば私のところも正反対なのでなにも言えない。


「安里は自分のことで手一杯です」

「自分のこと?」

「安里、英語が全くダメなんです」

「あれ、そうだっけ?」

「酷いですよ、安里の英語。あれでなんで赤点じゃないのか不思議で仕方ないです」


むぅっとほほを膨らませた千里はどうやら本気で疑問に思っているらしい。

意味わかんないって、目が語ってる。


「英語なら、ていうか文系教科なら瑛太に聞くといいよ。あいつ、文系教科は優秀だから」


まぁ理系教科もそつなくこなすけど。

文系教科ならどんと来い、みたいな感じだったと思う。

ほんと周りに多いよね、チートな奴。


「瑛太先輩に聞くってけっこう勇気いりません?」

「あー‥下手な点数取れないよね」


瑛太に教えてもらっといてね。

多分スパルタだろうし。


「まぁ‥頑張りなよ」

「え、教えてくれないんですか!?」

「いやー‥私理系だけど、理系じゃないし」


そうなんだって。

旭に教えてもらってるからそこそこの点数取ってるけど。

今、科学とか、黒板とノート、文字化けしてるから。


「僕でよければ教えようか?」

「…………はい?」


ガラッと、扉が開く音がして、そこから声が聞こえてきた。

その声は最近になってすごくよく聞く声。

耳に聞こえの良い、低音ボイス。

そっとそちらを見れば、見覚えのある顔。

というか、私がこの図書室に来た理由。


「えっと‥」

「数学、わかんないとこあるんでしょ?」

「ありますけど、」

「僕、理系教科は得意だよ」


にこっと笑って桐生は千里に言う。

千里はどうしたものかとちらっと私を見た。

いや、見られても困るんだけどね。


「神崎、部活は?」

「えーっと‥宮田先生が鍵壊しちゃって、弓道場入れないんだよね」

「そうなんだ?じゃあもしかして今日から部活ないの?」

「まぁ、そういうことになるかな」


えへーっと笑ってとりあえずいろいろとごまかす。

そして千里を見る。


「‥どうせなら教えてもらったら?桐生、勉強してたの?」

「そうだね。期末も近いからそれくらいしかすることないし」


……真面目か。

いや、王子様キャラでいる以上、真面目キャラなんだけどさ。


「じゃあ、私は帰ろうかなー‥」

「なんで?一緒に勉強すれば?」

「えー‥」

「神崎の後輩なんでしょ?」

「‥はいはい。鞄取ってくるから先始めてて」


だからお願いだから、千里さん、そんなジト目で私を見ないで。

ちゃんと一緒に勉強するから。


「僕取ってくるから、中入ってなよ」

「え、ちょ、桐生」


私の言葉を聞かずに、桐生は教室の方へと歩いて行ってしまった。

残された私は、ただその後ろ姿を見るしかない。

…桐生ってあんなキャラだったっけ。


「なんかさすがって感じですねー」


感心したように千里は言って、桐生が行った方向を見た。


「紳士的っていうか、人格者っていうか、なんかもうすごいです」

「‥紳士的で人格者、ねぇ」


どこが、と思わず鼻で笑いそうになる。

くくっと、のどで笑うにとどめて、「そう?」とだけ聞き返した。


「だって、まったく知らない後輩にも勉強教えてくれるし、陽向先輩の荷物も取りに行ってくれるし」

「まぁそうだねー‥惚れた?」

「ぇえ!?何言ってるんですか!?」

「なにって。いや、普通にありえるでしょ?相手があれなら」


あれ、といって、私の荷物を持ってこっちに帰ってくる桐生を見る。

ただ歩いているだけなのに、すごく爽快に見えるのはなんでだろう。


「陽向先輩、冗談やめてくださいよ。先輩の彼氏じゃないですか」


その言葉に、何も言い返さないでただ私は笑う。

私と桐生の間には、なにもない。


「陽向先輩?」

「あれ、まだいたの?神崎、荷物これだけでよかった?」

「うん、ありがとう」

「どういたしまして。さ、入ろうか」


桐生は先導して、図書室の扉を開けてくれる。

紳士的で優しい王子様。


ね?

惚れるところがいっぱいあるでしょう?






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