第91話 独特な寄り添い方
今日だけで三回も(顔が)可愛いと言われ、追撃するかのように手まで褒められた上に、マジマジと手を見つめられている(しかもガッシリと掴んで)。こんなことをされたら床を見つめながらプルプルすることしかできないよ。大丈夫かな? 今体温凄いんだけど、体から湯気とか出てない? 少なくとも耳は真っ赤だと思う。
「これ……マニキュア……かい?」
私の様子がおかしいことに気付いたのか、おずおずと尋ねてきた。もしかしてなんだけど、ブチギレてると勘違いされてる? たしかに顔真っ赤で震えてるけど、全然怒ってないからね? むしろ嬉しいし……。いや、ちょっと待って。
「え、あ、うん……? そうだけど……? え……?」
鳩山君、もしかしてなんだけど良く分かってない? 私の記憶が間違いじゃなければ、鳩山君は私にマニキュアを勧めてきたはず。なのになんでこれがマニキュアだということが分からないの? もしかして良く分かってない状態で適当なことを……。
「は、鳩山君が勧めてくれたんだよ? マニキュアが似合うって……」
まさか私、弄ばれてる? 似合うとか似合わない以前にマニキュアそのものが何か分かってないけど、とりあえず『キミに似合うと思うよ』って言っておけば機嫌が取れると思ってる? いや、私のご機嫌取りに勤しむ理由も良く分からないんだけど、どういう理由があったにしろ酷くない? 私、バカみたいじゃん。
「とても似合ってるよ。おしとやかな大和撫子だからこそ似合うというか……」
……適当なこと言ってない? だってさっきの鳩山君の表情は『あれ? マニキュアってこんな感じなん? なんかイメージと違うな』って顔だったもん。でも……なんだかんだで褒められるのは嬉しい。大和撫子っていうかただの根暗なんだけど、物は言いようと言いますか。
「ちょ……調子に乗ってる感じしない……? キモくない?」
鳩山君が絶対に否定してくれることを信じた上での質問。お世辞だろうとなんだろうと鳩山君の言葉は心地良くて、私もついつい求めてしまう。私が鳩山君の立場だったら『しつこいな。俺が一回でもそういう酷いこと言った? キミちょっといくらなんでも面倒なんだけど』って突き放しちゃうよ。
「なんで? より一層、美少女になったというのに……何がキモいの?」
きたっ! 『調子に乗ってる感じなんて全然しないし、全然キモくないよ』と言ってくれるだけで充分なのに、美少女とまで言ってくれた! しかも〝より一層〟とつけることで、元から美少女だということをさり気なく強調してくれてる!
「……美少女じゃないけど、ありがとう……」
お世辞なんて露骨すぎたら逆に不快になるものだと思ってたけど、実際に言われてみると悪い気がしないね。サンプルがなさすぎてなんとも言えないけど、これは鳩山君だからこそじゃないかな。実際に他の女子達から可愛いって言われても、バカにされてるとしか思えなかったし。
っていうかまだ手を触ってるんだけど! めちゃくちゃさすってくる! ハンドクリームのおすそわけでもしてるの? 私の手をビリケンさんの足か何かだと思ってるの? 違うよ? ご利益なんてないよ? 本家も別にご利益ないだろうけど。あっ、こういうところがダメなのかな? 他の女子達が占いとかおまじないでキャッキャしてるのを冷笑してるから、私はこんなふうに……。
「マニキュアなんて初めてだし、相談できる人もいなかったから……変じゃないかって不安だったよ」
「変じゃないよ。キレイだし、なんていうかカッコイイよ」
え、そっち方面でも攻めてくるの? 可愛いとかキレイとかそっち方面だけじゃなくて、カッコ良さも褒めてくれるの? こんなのがカッコイイかどうかはさておき、何がなんでも褒めようという姿勢には感服するよ。というか何故か嬉しい。そっか、この言葉って女の子に対しても効果あるんだ。鳩山君がいなきゃ、知ることがなかった事実だよ。
「カッコイイ……? そう……?」
「うん。カッコイイし可愛い。カッコ可愛いよ」
「あはは、何それっ」
鳩山君、やっぱり適当言ってない? でもちょっと面白かったから、細かいことは気にしないでおこうかな。
「俺にも塗ってくれない? マニキュア」
「え……? は、鳩山君に……?」
えっ、そこまでするの? 歩み寄り方凄くない? 現場仕事を体験しようとするタイプの上司じゃん。現場の人からすると正直迷惑なタイプじゃん。
「うん。男がマニキュアしたっていいでしょ? 一緒に校則違反しようよ」
……分からない。この人が分からない。もしかしてなんだけど……私のこと好きなんじゃ……。いや、普通に考えたらありえないけど、でもこの歩み寄り方は人が良いとか変わってるとかそういうレベルじゃない気がする。少なくとも特別扱いされてるのは間違いないよね。……特別かぁ。




