第88話 積極性微増
「雨宮さんって兄妹とかいるの?」
「えっと、いないよ」
「そうなんだ。しっかりしてるから、弟とか妹でもいるのかと思ったよ」
それはどっちかと言えば鳩山君じゃない? やけに女の子慣れしてるし、お姉さんとか妹さんいそうなもんだけど。
「えっと……鳩山君は……」
「俺? 俺も一人っ子だよ」
「あっ……うん。そうなんだ」
鳩山君も一人っ子かぁ。たしかにそう言われてみると、一人っ子っぽい性格かもしれないね。ほら、一人っ子って変な子多いでしょ? 現に私がそうだし。
「兄でもいればなぁ、ただでゲームとか貰えそうなのに」
「あはは、なんかそういう家庭多そうだよね」
「世代によってやるゲームとか全然違うだろうし、五つぐらい上の兄がいればなぁ」
意外と現金なのかな? 一般的には一人っ子の方がお小遣い貰えるし、それとは別にゲームを買ってもらえるイメージがあるから、結局一人っ子の方が色んなゲームできるんじゃないの? あんまりゲームしない私でも、勝手にお父さんが買ってくるのに(自分がやりたいだけかもしれないけど)。
「まぁ、コアなゲームは晴家さんに頼めば貸してくれるだろうけど」
……? ハルイエ? 徳川十五代将軍の話? あれ、イエハルだっけ。別になんでもいいんだけど。
「鳩山君もゲームとかするんだね」
てっきり陽キャってのは、インドアが嫌いなもんかと。
「まー、そりゃね。多分、あんまりしない方だと思うけど」
あっ、やっぱりあんまりしないんだ。そうだよね、陽キャってゲームばっかりやってると仲間外れにされるもんね。ヤクザゲーム? だかなんだかはOKで、戦争ゲームとかはチー牛なんだよね? チー牛の意味あんまり分かってないけど、多分ナード的な意味なんだろうね。
「お、おはよう。今日も……早いね」
で、できた! 今日は私の方から挨拶できた! ふぅ……ちょっとどもっちゃったけど、朝からシミュレーションしといてよかったぁ。
なんだろ、挨拶なんて無駄だと思ってたんだけど、なんか気持ちが良いね。陽キャに近づいたってのは大げさだし、別に近づきたくなんかないんだけど、なんかこう人として大きく成長した気がする。
「雨宮さんも早いね。女子は支度に時間がかかるだろうに」
鳩山君って絶対モテるだろうなぁ、やっぱり。男子って『女子ってトイレ無駄に長いよなぁ』とか『身支度に時間かけすぎ。自意識過剰なんじゃね? どうせ誰も見ないのに、そんなことに時間使ってどうすんの?』って感じで、女子に対する配慮が基本的に欠けてるもん。
でもなぁ、その発言は私的には辛いかな。だって……。
「ちょっと寝癖直すくらいだよ? 他の子達は、お化粧とか頑張ってるけど」
私は特に何もしてないもん。さすがに顔ぐらいは洗うけど、スキンケアとか良く分からないし。化粧水とか、お母さんが勝手に買ってくるから仕方無く使ってるけど、効果あるのかな? ……もしかして、化粧水のおかげで鳩山君から、かわっ……可愛いって言ってもらえてるのかな? いやいや、私ってばお世辞を真に受けちゃってもう……。
「校則違反だけどね」
「そう……だよね。あはは」
あっ、意外とそういうの気にするんだ。てっきり鳩山君のことだから『可愛ければなんでもよくない? というか今の時代、オシャレに口を出すのはナンセンスじゃない?』とか言うと思ったんだけど。
「まあ、教師がスルーしてる以上、気にしなくていいと思うけどねぇ」
あっ、やっぱりそっち派だったんだ。あれ、意外と私って鳩山君に対する解像度高くない? 人の気持ちなんて分からない方だと思ってたんだけど、意外と……思い上がるのはやめとこう。鳩山君だっていずれは私に興味なくすだろうし、あんまり自信を持つと一人になった時に死んじゃうよ。
「私は……化粧がしたいなら、放課後とか休日にすればいいと思う……」
ちょ、私ったら何を言ってるの? あーもう、こういう時、変に自我を出すから私は一人ぼっちなんだよ。ここで相槌を打てないから、共感性が乏しい女として距離を置かれるんだろうね。いや、置いてるのは私か。
「キミに同意するよ。キミは正しい」
「そ、そうかな? あはは」
は、鳩山君に女子力で負けた……。鳩山君って女の子の友達多いっぽいけど、きっとこの相槌力だよね。女の子が無茶苦茶なこと言ってる時でも、とりあえず同意しとけば仲良くできるもん。下手に正論をぶつけるとハミられるのが女子の世界だし。
「雨宮さんはメイクとかするの?」
「え? ええっと……」
してるように見えるの? あっ、いや、違うか。私はさっき、メイクは学校外でするものって話をしたもんね。……どっちにしろ同じだよ。するタイプに見えるの?
「ああ、ゴメンゴメン。聞くまでもないよね」
見えてないんだ。そりゃそうだろうけど、さすがにちょっと酷くない? 悪気はないんだろうけど、失礼すぎるよ。どうせ私なんて……。
「……どうせ根暗ブスだよ」
「どしたん? 急に」
やっぱり悪気なかったみたい。でも尚更タチが悪いよ。
「だって……化粧なんてするわけない……みたいな言い方したよね?」
「……してないけど?」
「……したよ? 鳩山君、酷いこと言ったよ?」
別に謝罪の必要はないけど、これぐらいは詰めてもいいよね? うー、もしかすると私、距離感間違えちゃってるかも……。鳩山君優しいし喋りやすいから、ついついキツくなっちゃう……。
「化粧してるに決まってる……って言っただけだよ?」
それはそれでおかしくない? 何を見てそう判断したの? 内弁慶的な感じで、自宅でだけ着飾ってるってこと? さすがにそんな子いな……ああ、でも女装男子って自宅だけってパターンあるんだよね。いや、さすがに一緒にしないでほしい。
「本当に? 私の耳には……『お前なんかが化粧するわけないよな』って言い方をしてるように……聞こえました。はい……」
「違う違う。でもそう聞こえたなら謝るよ」
イケメンすぎる……。こんなメンヘラみたいな女子相手に頭下げるなんて、理想の彼氏みたいなことしてくれるじゃん。か……彼氏かぁ。私なんかじゃ絶対に釣り合わないよね。
「あっ、いいのいいの。頭上げてくれるかな?」
「女子は皆メイクしてるって前提で話してたんだ。偏見だった、ゴメン」
「いや、いいよ、別に。間違ってないし……」
なるほどね。今のは私の読解力が低かったみたい。うー、なんかクレーマーみたいで嫌だなぁ。恥ずかしさと申し訳無さが……。
大丈夫かな? 嫌われてないよね? 面倒な女子ってことで距離を置かれたりしないよね? ……あれ? なんか私、鳩山君と離れるのを恐れてる? 人と仲良くなるのなんて面倒でしかないと思ってたけど、鳩山君は特別というか……。なんでこんな気持ちになるんだろう? もしかして私って鳩山君のこと……いやいやいや、おこがましいって! 私なんか……私なんか……。




