第87話 自己肯定感微上昇
あっ、戻ってきた。どこ行ってたんだろう。
「あの、鳩山君」
「む? どうしたんだい?」
どうしたじゃないよ! 鳩山君がいないからコギャルに絡まれたよ! いても絡まれる可能性はあるけど、鳩山君なら引き受けることできたでしょ? 私よりギャルの方が相手してて楽しいだろうし。
「いつもはお弁当だよね?」
「ああ、今日もそうだよ。食堂で食べてきた」
えっ、なんの意味があるの? 軽減税率の兼ね合い?
「なんでわざわざ……?」
実は私のこと嫌いなのかな? 先週の金曜日は食事中ずっと話しかけてきたけど、あの時に見限られた感じかな? 私、全然面白い返答できなかったし。
「雨宮さんが、他の生徒と食べそうな雰囲気があったからね。俺の席を空けてあげようと思ったんだよ」
……どこにそんな雰囲気あったの? あっ……私が絡まれてるのを知った上で食堂に行ったってこと? 女子同士なら初対面でも仲良くお弁当タイムに入れると思ってるの? それって陽キャ限定の話だからね? 男子は知らないけど、女子は好き嫌い激しいよ? ほら、あそこで喋ってる二人組だって、きっとお互いに陰口言い合ってるよ。基本的にそういう生き物だから。
「え? いつも通り一人で食べたけど……」
「そうか、それはしくじったな。先週みたいに、雨宮さんと食べれば良かった」
「え……? ……うん」
あっ、一応一緒に食べてるっていう判定にはなってたんだ。
「もしかして、食べるところを見られたくないタイプかい?」
なんの話? そういうタイプがいるの? ……あー、でも言われてみたらなんか分かる気がしてきた。たしかにあんまり見られたくないかもしれない。
「どっちかといえば……そうかな……?」
あんまり意識したことなかったけど、なんか自分の中でどんどんと納得度が高まっていってる気がする。
「真正面から向かい合うのは恥ずかしいけど……隣の席なら別に……」
「向かい合うのが恥ずかしい……? なるほど……?」
……? 何が引っかかってるんだろう。今、自分で言ったんじゃないの? 食べられるところを見られるのが嫌なタイプもいるって。だったら向かい合うのが恥ずかしいってのは、普通のことじゃない?
「ひょっとして俺って、うるさすぎるかな?」
「え? あー……いやー……」
急になんの話? あと、うるさいです。申し訳ないけど喋りすぎです。
「食事中にしては……ちょっと口数が……」
「そうか、それはすまなかった。教えてくれてありがとう!」
それ! そういうところ! いちいち声大きいよ! なんか謝罪させちゃった上にお礼まで言われちゃったし、なんかフォローしないとまずいかな?
「で、でも……。その……」
「でも? その? なんだい?」
「私は喋るより聞くほうが好きだから……あんまり気にしないでね?」
我ながら上手くない? こういうことを言っておけば、多少口下手でも見逃してもらえるよね? 勿論、計算したわけじゃなくて、ただ事実を述べただけなんだけど。
「ありがとう。雨宮さんはとても優しいね」
えっ? どこに優しさ要素が……。どっちかと言えば、悪意なしに気にかけてくれる鳩山君の方がよっぽど……。
「そ、そんな……」
「ああ、それと……。さっきの笑顔、とても素敵だったよ」
「……!?」
えっ、私笑顔だった? え、全然自覚が……いや、その前に……素敵ってその……ええっ? 陰キャの笑顔って『なんでニヤニヤしてんの?』って言われるもんじゃないの? こんな素直に受け取ってくれる人いるの?
「うー……」
「ど、どうした!?」
ダメ、顔が上げられない。昼休み終わるまでずっと顔を伏せておこう。後でなんか聞かれても、眠かったとか体調が悪かったとか言い訳すればいいや。ああでも、保健室とかに連れて行かれそうでまずいな。うー……鳩山君と一緒にいるとメンタルがもたないよ。私が何をしても褒めてくれるもん。この人、生きてるだけで優勝させてくれるもん。私なんて予選敗退だから死んだほうがいいのに。
……? なんか今……自虐した時に胸が痛くなった気がする。なんでだろ? いつもやってることなのに……。




