第82話 陰キャの天敵
新しいクラスになって早々に席替えするぐらいなら、最初からランダムにすればいいのに。というかテストの度に席を替えるの面倒だし、席替えなんて必要ないんじゃないかな? まぁ、隣の安藤君はちょっと不気味だったし、ありがたいと言えばありがたいんだけど(向こうからすれば私のほうが不気味なんだろうけど)。
くじの結果、鳩山君の隣になった。男女別け隔てなく絡むタイプの典型的な陽キャで、一般的には私みたいな陰キャの天敵なんだろうな。でも私は逆に安心するよ、今までの経験から言うとこういうタイプの人って、喋っててもつまらない人とは自然に距離をおくはずだから。実際二年生に上がってからの一週間、一度も話しかけてこなかったし(そもそも話しかけてきたのは安藤君だけで、その安藤君も何々線の電車がどうとか独り言に近いことしか言ってなかったし)。
「おはよう! 雨宮さん!」
「……っ!? お、お、おは……よう……ございます……」
びっ、びっくりしたぁ! 鳩山君、遠近感狂ってるの? この距離でその声量はおかしいよ?
……私、ちゃんと声出てた? とりあえず挨拶返したつもりなんだけど、なんか気持ち悪くなかった? 変な声になってなかった? どもってたよね? 絶対ドン引きされたよ……陽キャグループで物笑いの種にされるよ……。ダメだ、体が熱くなってきた。やり直したい……。できればくじ引きからやり直したい……。
「雨宮さん、もう一度やろうか」
「え、え、え?」
えっ、心読まれた? 本当にやり直しチャンスがきたんだけど? 陽キャって読心術使えるからコミュ力高いの? どこに行けば読心術覚えられるの? ユーキャンで受講できる?
「おはよう! いい朝だね!」
あっ、鳩山君もやり直してくれるんだ。私がやり直しやすいように前フリからやり直してくれるんだ。陰キャにとってはありがた迷惑でしかないよ……。
「……おはようございます」
さっきよりは断然良いよね? でも違うよ、私はゼロの状態からやり直したかったの。これただの恥の上塗りでしかないよ……。ダメだ、鳩山君には悪いけど、この席はハズレだよ。そりゃ勿論、早口で電車の話をする安藤君よりはいいけど……。
「いきなり大きな声を出すのは、ハードルが高いかな? まずは、笑顔から練習してみようか」
「…………? えっと……?」
あれ? 今の挨拶ダメだったの? ハードルで躓いたの? 完璧に飛び越えたつもりだったんだけど。っていうか、今なんて? え、笑顔? 何言ってるの? え、これもしかしてイジメ? 陽キャって陰キャが笑うと『ニヤニヤしてる』って冷笑してくるよね? 冷笑しようとしてる?
「雨宮さん、まずは目を出してみようか」
「あの……? これは……その……」
確定だよ! イジメ確定だよ! コンプレックスなの分かってて言ってるよ! 穏やかそうに見えて酷いことするねぇ!
「わかっている。流行りの髪型、最先端のオシャレというヤツだろう?」
「いや、えっと……」
やっぱイジメだよ! 絶対バカにしてるもん! このクラスで私以外この髪型じゃないんだから、流行ってないのは明白でしょ! 最先端じゃなくて、誰も後ろに続かないだけだよ!
「よく似合っているよ。まさにキュートと言える」
「キュッ……!? あ、あの……」
面と向かって何を言ってるの!? 鳩山君もしかして、キュートとナードを間違えて覚えてない!? 絶対にダメだよ? 可愛い子をナンパする時に『キミは実にナードだね』とか言っちゃ。それパーフェクトに喧嘩売ってるから。
「その髪型もいいが、キミの目を見てみたい」
「目……目を……?」
うー……こんな本格的なイジメはさすがに初めてだよ……。何が怖いって、悪意を全く感じないんだよね。私をバカにしているのは確定だけど、でも表情とか声色にそういうのが全く出てないんだよね。もしかして本気で? いやいやいや、そんな物好きいるはずがないって。
「無理にとは言わない。でもいずれは、雨宮さんの素顔を見てみたい」
「あの、そんな面白いものじゃ……」
「面白さなんて求めていない。せっかく隣の席になったのだから、毎日キミの顔を見たいんだ」
本当に何を言ってるの? 口説いてるようにしか見えないんだけど、バツゲームでもやらされてるの?
「多分……一回だけで……飽きると思うよ?」
「飽きる? いや、それは考えにくいが」
娯楽がない世界の人? 今って一年前に流行ったネタでも『うわっ、オジさんそれ古いよ?』ってバカにされる時代だよ? 常に最新の物に飛びつかないと仲間外れにされる時代だよ?
……これってアレだよね、ロールプレイングゲームでよくある無限ループっていうヤツだよね。〝はい〟って答えるまでループするヤツだよね。うー……。
「……はい」
恥ずかしすぎて目を背けたくなるけど、どうせ『ちゃんと目を見せてよ』とか言われるから頑張ろう。一発ギャグとかモノマネと同じで、勢いに任せて早く済ませた方が傷が浅くなるはずだから。
「中々どうして、可愛らしい顔をしているじゃないか」
「……え?」
「オシャレというのは難しいな。わざわざそんなキレイな顔を隠すなんて」
「かわ……え? キレイ……? え、え、え……」
まっ、待って? 聞き間違い? 待って、理解が追いつかないんだけど……。でもその……なんか本気っぽいというか、その……。
本当にちょっと待ってほしい。お世辞なのは確定的に明らかなんだけど、でも悪い気がしないというか、変な汗が出てくるというか、なんだろう、喜んじゃダメなんだろうけど嬉しすぎるというか、恥ずかしすぎるというか、絶対後で陰口言われるのが確定してるけど、鳩山君からそういう雰囲気がなくて、なんか本気で褒められてると勘違いしてしまいそうな空気感が漂っておりまして、えーっと……。
「隠すのは非常に勿体ないが、俺もオシャレに口を出すほど無粋ではない。だがせめて、俺と話す時だけでも顔を見せてくれないか?」
……!? 真剣な顔で何をおっしゃってますの!?
「は、鳩山君……? それは、ええっと……」
口説かれてる……わけじゃないのは分かってる。鳩山君の周りはキレイな子ばっかりだし、私なんて路傍の石の下にいるダンゴムシの体内にある枯れ葉か何かレベルの存在感の対義語の……。
「せっかく隣の席になったんだ。キミの声が聞きたいし、キミの顔が見たい。そしてキミのことをもっと知りたい」
「あ、あ……えっと、ゴメン……ちょっとお手洗い……」
無理! もう無理! お世辞だと分かってても無理! 嬉しすぎる! バカにされてるって分かっててもニヤけちゃうから! そんな真剣な顔でそういうこと言われたら、さすがに本気にしちゃうから!
うー……絶対今、顔真っ赤だよ……絶対ネタにされるよ……。〝アメリカザリガニ雨宮〟ってあだ名つけられるよ……三人目のメンバーになっちゃうよ……。




