第81話 チェックメイト
俺の家では大体三ヶ月から四ヶ月に一回、夕食にステーキが出る。そこまで高い肉というわけでもないと思うけど、俺にとっては生きがいの一つだ。好物だと断言できるし、なんだったら毎日でも食べたいと思う。
でもそれって結局、頻度が低いからだと思うんだよね。実際に毎日ステーキを出されたら、好物じゃなくなると思う。なんだったら嫌いになるかもしれない。
性交にも同じことが言えると思うんだ。一般的な学生がどれくらいの頻度で行っているか知らないけど、できないヤツはとことんできない。そういう人達は毎日でもヤりたいと思うのだろうか。その辺はちょっとわからないけど……。
「善吉君、今日の放課後いいかな?」
「あの、晴家さん……まだ月曜日……」
「いいかな?」
「……はい」
毎日性交すると人生の幸福度低下するよ、マジで。毎日自慰をしている人がいるとしたら、それを全部性交に置き換えてみるといい。性欲がわかないどころか、色々と嫌になってくるよ。
だってさ、出すだけじゃないんだよ? 相手を喜ばせなきゃいけないわけだから、快感よりも気苦労のほうが大きくなるってもんよ。
向こうはローテーション組んでるから負担も少ないだろうけど、こっちはたった一人だよ? え? 四人をとっかえひっかえなら飽きないって? じゃあキミ、シリーズ物のゲームを初代から最新作までローテーションで毎日やりなよ。全く違うゲーム性ならまだしも、似たようなゲーム性だったら飽きてくるよ。
「寝不足かい? 栄養を取っているからといって、睡眠を疎かにしてはいけないよ」
「はは、単純な疲労だよ……」
これは勿論『疲れているから勘弁してくれ』という意味だが、当然通じない。通じてくれないと言ったほうが正確だろうか。
「クエン酸を摂取するといいよ」
絶対、わかった上で言ってるよね。『仕事の疲れが溜まっています』という現場の声に対して、『適度な運動と充分な睡眠を心がけてください』と返すようなもんだよね。人の心はどこへやら……。
「明日は雨宮女史と性交するのだろう? 疲労が溜まっているなら、向こうに動いてもらえばいい」
教室だというのに、とんでもないことを口にする晴家さん。だが、周りの生徒は特に反応しない。文化祭の朗読会でヒエラルキーが上昇した晴家さんだが、俺との性交に関しては誰も何も言わない。おそらくこの学年全体……いや、もしかしたら学校全体かもしれないが、俺に対する認知が歪んでいるがゆえのことだ。
俺は無理矢理性交させられている被害者にすぎないのだが、どういうわけか〝複数の女子生徒をとっかえひっかえで弄ぶクズ〟と認識されているのだ。どこをどう見てその認識に至ったのか、是非お聞かせ願いたいね。
「キミは……」
「私はケダモノのように盛るキミが好みだ。私から動くつもりはないよ」
……俺の体を労ってくれよぉ。キミら四人、もうちょっと人の気持ち考えたほうがいいんじゃない?
そりゃまあ、キミらが誤解を解いてくれたおかげでイジメはなくなったけども、必要以上に他の生徒と接触させてくれないから、結局ボッチなんだよね。
当初は雨宮さんと距離を取ろうとしてたのに、今では一番距離が近いよ。まさかとは思うけど、俺この先一生この四人以外と友達になれないんじゃ……。
「俺らの仲でしょ? お願いだから今日は休ませて……」
「そう言われても困る。私は三日も我慢しているのだから」
そりゃアンタらは三日も休憩……いや、四日に一回も大概じゃない? 男子はそれなりの頻度で出さないと病気になるけど、女子は大丈夫じゃないの? 四日に一回は性欲ありすぎでは?
「休憩が欲しいのであれば明日、雨宮女史に頼めばいい」
もうとっくに頼んでるんだよなぁ……。なんだったら雲倉さんと黒ちゃんにも頼んだけど、キッパリと断られたし。
「ご存知だと思うんだけど俺、雲倉さんと交際してるんだけど……」
「その雲倉女史が容認しているのだ。何も問題はあるまい?」
容認と公認は違うと思うんですけど……。っていうか俺が拒否している時点で、キミら迫ってくるのは問題じゃない? というかなんで雲倉さんは、こんな地獄を容認してるの? 人質でも取られてるの?
あっ、人質で思い出したんだけど、俺の母親も人質取られてる気がするんだよ。何故か知らんけど、精力がつくものばっかり出してくるしさ。
「俺はその……性交とかしなくても、ただ一緒に遊ぶだけで楽しいんだけど……」
「それに関しては私も同感だが、私がヤらずとも別の子達はヤるだろう?」
「そうかもしれないけど、俺の負担はだいぶ……」
「差がつくじゃないか、彼女達と」
何その対抗心? 俺から搾り取った量を競ってるの?
「どうしてもヤりたいならまだしも、そういうわけじゃないんでしょ? じゃあ勘弁してくれない?」
「ダメな理由は二つある。まず一つ、ここを逃せば合計で一週間のお預けになる」
いや……一週間ぐらいよくないですか? 一般的な女子高生は、年に五十回もやらないと思うよ? っていうか男子高校生も普通はしないよ。でもよくよく考えたら、俺とキミは結構な頻度でヤってたねぇ。もう一つの理由を聞くまでもないじゃん。
「二つ目だが……性交をしないとキミの愛を感じられないんだ。いや、信じられないと言ったほうがいいかな?」
愛も何も、俺は雲倉さんと交際を……。いや、ダメだ。もうこの人達には何を言ってもダメだ。異性に対する価値観とか倫理観とか道徳心とか、色々な物がぶっ壊れはじめてる。
何がタチ悪いって、基本的にはまともなんだよ。俺との色恋沙汰が絡んだときだけ皆おかしくなるんだよ。まるで俺が原因かのように……。
あっ、そう言えばさ、雨宮さんと雲倉さんが猛勉強しはじめたんだよね。どこの大学に行くのか教えてくれないんだけど、まさか……。
それよりも何よりも、本当に不気味なのは、女子会に俺ら五人の母親が参加してることだよ。一気に平均年齢上がったわけだけど、それ楽しいの? 話絶対に合わないでしょ? でもね、この人達ね、話が合うらしいの。ジェネレーションギャップありまくりだと思うんだけど、お茶と話が進んでるらしいの。ははっ、一体何が起きているんだろうね。
「顔色が悪いけど、大丈夫かい?」
「いや、えっと……」
「心配せずとも、もうすぐ冬休みだ」
え? 冬休みこそヤバいのでは? あの日のように四人同時に相手させられる覚悟してたんだけど。なんだったら、キミら全員で泊まりに来るっていう地獄を想定してたんだけども。
「冬休みは我々五人、バイトで忙しいからね」
「えっ? バイト? 五人って……俺も入ってるの?」
「それはそうに決まっているだろう。来年は受験だし、今のうちにバイトをしておかないとね」
いや、余計なお世話なんだけど? キミらがなんのためにお金を貯めるのか知らないけど、俺は別に必要としてないよ?
「言っておくが大学に入ってからもバイトはあるよ? 生活費に関しては、我々の親が仕送りしてくれるようだが」
「……ははっ、まるで俺達五人が生計を共にするかのような……」
「そう言ってるのだが?」
……ひょっとしてなんだけど、俺のこの状況ってかなりヤバい? 高校の友達とか彼女って、社会人になったら徐々に疎遠になっていくと思ってたんだけど……もしかしてこの人達って、一生俺といるつもり? この国、一夫一妻制なんだけど、全員で暮らすつもり? 嫌じゃないの? 黒ちゃんなんて、キミら出会ったばっかの後輩なんだよ? 受け入れられるの? 黒ちゃんも黒ちゃんで、なんでこの状況を受け入れてるの? 当時俺のことが好きだったとしても、普通は諦めない? 責任を取らせたいという気持ちはわかるけど、この状況だったら諦めない?
……あくまで高校生の妄想だよな、うん。年を取るにつれて考え方も変わってくるだろうし、大学在学中に全員、我に返るに違いない。だから……色々と大変な状況だけど、まあいっか。




