第80話 被害者の会
何度食べても不味いね、このスタミナ丼。まず、これをスタミナ丼と称するのがおこがましいよ。何を思ってこんなの提供してるの?
「キツイ……」
減刑を求めて悲痛な声を上げるも、雨宮刑務官の心には響いていないらしく、無機質な目で俺を見つめている。
「食べないと、もっとキツいよ?」
それはそうなんだけど、別の物にしない? 精力をつけたいのであれば、ウナギでいいじゃないか。高いかもしれないけど、不味い物を無理矢理食べるよりはいいよ。
「文句あるなら戻る? 処刑できなくて残念がってる子もいたし」
雲倉さんは鬼なのか? 冗談でもやめてほしいよ、あそこに戻るのは。まったく無関係の後輩が好奇心だけで、処刑に参加表明してるんだよ? もしかしてあの場における暴力は、完全に無罪だと思ってる?
「キミはあの場から無事に脱出できただけで、奇跡なのだよ?」
「そうだよ。私とハルちゃんが強引に連れ出さなかったら、鳩山君は今頃……」
「わかってるよ。感謝してますとも……」
本来であれば今頃俺は、保健室送りになっていたはずだ。集団心理ってのは恐ろしいからね、簡単に一線を超えると思うよ。
雨宮さんと晴家さんが、いち早く対応してくれたおかげで助かったよ。『とりあえずそろそろボコるか』という空気になった時、『一番の被害者である自分達が責任を持って制裁する』と言い、強引に連れ出してくれたのだ。晴家さんはともかく、雨宮さんはカースト上位だから効果てきめんだったね。
それはいいんだけど……この件の元凶ってさ……。
「雲倉さんは何を思って、アイス屋に行ったの?」
「アイスが食べたかったからだけど、それ以外ある?」
「キスする必要あった? あんな衆人環視のもとで」
何がカップル割だよ。明らかに雨宮さんに対する挑発でしょ、あんなん。百歩譲って雨宮さんに挑発するのはいいよ? でも大多数の前でするのはダメでしょ。
明日からどういう顔して学校に……。
「先輩? キスってなんですか? どういうことですか?」
ああもう、話が進まねぇ! ただでさえ人間関係グチャグチャなのに、まさかもう一人増えるなんて予想外だったよ。というか未だに、雲倉さんと結ばれたという実感が湧いてないんだよ。そして雨宮さん達はどういう立ち位置なの? 俺と雲倉さんの交際を認めた上で、今の関係を……。
「なんで一年かそこらで、三人も侍らせてるんですか? 私のファーストキス奪った責任取ってくださいよ」
「その辺の話、私も是非詳しく聞きたいな。てっきり善吉君の初めては、私だとばかり思っていたのだが」
「この子、最後の被害者でいいんだよね? 次から次に女の子が増えていくの、さすがに勘弁してほしいんだけど」
「彼女は私だからね? そこだけは履き違えるなよー?」
ええい、うるさいなぁ! 思い思いに喋り過ぎだよ! 結果的に何一つ伝わってこなかったよ!
とりあえず一つ一つ問題を片付けていこう。全員の言い分の整理もしたいし。
「まず、黒ちゃん」
「はい」
「俺はこの人……雲倉さんとお付き合いしてるんだよ」
「さっき聞きました。でも汚されたのは私が先ですよね?」
フフンと鼻を鳴らし、可愛さと腹立たしさが入り混じったドヤ顔を向ける。それを受けた三人が笑顔を返しているのが、これまた逆に怖いよ。
もしかして今のってマウントだったの? 被害報告とかじゃなくて、先輩達より先に裸の付き合いをしているというマウント?
「勝ち誇っているところ申し訳ないが、初挿入は私だよ。回数も三桁に届こうとしている。もしかしたらとっくに届いているかもしれない」
「ぐぬぬ……」
あっ、効くんだ。そのしょうもないマウント効くんだ。自分が淫乱だということを自白しているようなものだけど、この場においては自慢になるんだね。
そりゃ俺だって、可能であれば生娘のほうが嬉しいよ? でもそれは強いて言うならってレベルであって、経験者が相手でもそこまで気にしないよ。さすがに二股かけているような女性だったら、トラブル怖いから御免被るけど。
あれっ、よくよく考えてみたら今の俺って、四股に近くない? 実際は違うんだけど、はたから見たら浮気者かもしれないぞ。
「で、でも私は中学の時点で一緒にお風呂入って、体をこすりつけ合いながらキスをする日々でしたよ?」
ちょっと話盛ってない? 日々って言い方されると、日常的にやってると勘違いされちゃうでしょ。一番多い時期でも週一だよ。あっ、でも長期休暇の時はもっと頻度が高かったかも。
「妹扱いしてたんじゃなかったの? ねえ?」
「雲倉さん、もうそのくだりやめません? 話が進ま……」
「逆ギレかぁ? この性的倒錯者ぁ」
「んっ……やめっ……」
この人、絶対これ気に入ってるよね? 人気のないところとはいえ、股間をタプタプするのよくないよ?
「あっ! それ私もやらされました!」
雲倉さんのタプタプ攻撃を指差し、俺にとって都合の悪い過去を思い出す後輩氏。
あーもう、話こじれるパターンだよぉ。
「どういうこと? このクソ男に何をやらされてたの?」
「えっとですね、ほらっ、熱いお風呂とかに入ると伸びるじゃないですか?」
「あー……うん……そう……だね?」
あっ、雲倉さんあんまり理解してない。そういえばこの人、処女ビッチか。男慣れしてそうな雰囲気だから忘れてたけど、確か男性経験皆無なんだっけ。結局、俺ともまだ性交してないし。
「いやー、あの時はびっくりしましたよー。こっちは初めて男性とお風呂入って、頭こんがらがってるのに、急に顔の前にチンチン押し付けてきて……」
「……鳩山君?」
黒ちゃんの偏向報道を真に受けた雨宮さんが、笑顔で圧をかけてきた。違うんだ、これは黒ちゃんの説明に悪意がある。
「違う違う! 誤解だよ! 間近で見せつけただけで、顔には当ててないよ!」
「それも大概気持ち悪いと思うよ。まあ、私もやられたが」
晴家さんは黙っててよ! この人達、話終わらせる気ある? 俺にとっては針のむしろだから、即刻解放してほしい。
「湯船だから逃げ場ないし、いつまでもいたらのぼせちゃうしで、抵抗虚しく触らされました……。さっき雲倉先輩がやってた動き……それ、お風呂に入る度に鳩山先輩から要求されてました」
……嫌な汗が出てきたね。なんだろう、この気恥ずかしさは。黒歴史が暴露された時って、きっとこんな感じなんだろうね。
「引きちぎってやればよかったのに」
嫉妬によるものなのか、それとも軽蔑によるものなのか、雨宮さんがボソッと猟奇的なことを呟いた。
「私の時は『痛いからやめろ』って感じだったよね? なんで黒ちゃんはよくて、私はダメなの?」
「痛くするからだよ! デコピンしてきたでしょ!」
「……怒鳴らなくてもいいじゃん」
拗ねてるところ申し訳ないけど、逆ギレも甚だしいよ? 話がこじれるから、ここは俺が折れてあげるけどね?
「先輩に喜んでもらうために、尽くしたつもりなんですけどねー。結局最後は胸なんですか?」
「んっ……」
なんか目の前で百合展開が始まったんだけど? おかしいな、黒ちゃんってこんな子だっけ? 普段は内向的でおしとやかだけど、俺の家にいる時だけは全てをさらけ出すってイメージだったんだけどな。
「あれだけ私のお尻を堪能しておきながら、結局はギャルの胸なんですか?」
「そうだよ。アンタは捨てられたのよ、諦めなさい」
煽る前に、乳揉みを咎めたら? 絵面がシュールだよ?
「口でするのを断ったから、捨てたんですか?」
「いや、ちがっ……」
「捨てるために本番だけは頑なに避けてたんですか?」
「落ち着いて……」
「他の女の子を紹介しろって命令を拒否したから、捨てたんですか?」
「誤解だって! そんな命令は……」
暴走する黒ちゃんの口を封じようとするも、雲倉さんに羽交い締めにされる。もしかして情報を聞き出そうとしてるの? 残念だけど、黒ちゃんの情報は偏向報道気味だから、あてにならないよ?
「この中で一番誰が家近いかな?」
「あっ、私だと思いますよ? ちなみに父は出張で、母は夜勤です」
「わーお、後輩ちゃんってば察しが良い上に、都合もいいね」
「いえいえ、雲倉先輩こそ幸せを独占せず、皆に分けようという素晴らしい度量をお持ちのようで」
「さすが善吉君の後輩。口が上手いねー」
わーい、雲倉さんと黒ちゃんが打ち解けてるよ。初対面のはずなのに、最低限の言葉で理解し合ってるよ。あら、雨宮さんと晴家さんも、話の流れを完全に理解しているみたいだね。やっぱり皆仲良しなのが一番いいね………………。
助けてっ! 搾られる! 溜まってないのに一対四で搾られる! 死んじゃう!




