第79話 さらなる深みへ
後輩こと黒ちゃんとの過去を説明し終えたが、包囲網は解かれない。むしろ、当初より円が小さくなってる気がする。ついでに言うと、黒ちゃんによる枷もキツくなった。話す前は片手でベルトを掴まれていただけだが、今は両手で掴まれてるし、足も絡められてる。
ちなみに処刑会議は、まだ続いてる。人が増えすぎてて会話内容が混線しているけど、なんとなく危機は去った気がする。なんていうかその、田舎の診療所の待合室的な感じ? アイス食べながら駄弁る空間になってる気がする。うん、要するに、俺を取り囲むこの小さな円が、この場で最も危険だね。
「へー、つまり黒ちゃんは妹的な存在だったんだぁ?」
雨宮さんが納得して無さそうな顔で、問い詰めてきた。これ多分、どう答えても追撃くるよ。
「うん。弟とか妹が欲しくてねー」
「妹を風呂に連れ込んだの?」
いちいち悪意があるんだよねぇ! 〝連れ込んだ〟って、アンタ。
「先輩、なんで妹扱いなんですか?」
黒ちゃん、ベルト掴んだまま下方向に力を込めるのやめてくれる? 勿論、上方向もダメだよ?
「なんでって、当時は今より身長差あったし……」
「私は先輩を兄扱いしたことないんですけど、なんで妹扱いなんです? 妹だからいつも膝の上に乗せてくれてたんですか?」
黒ちゃん必死すぎない? 俺を好いてくれるのは嬉しいんだけど、一年半会ってないんだし、新たな恋をだね……。
「まあまあ、どうせ同じ高校なんだし、別の機会に話そうよ」
「……逃げる気ですよね?」
「いや、ちがくて……せっかくの文化祭だし……」
「だからなんですか?」
さすがに、この子しつこくない? こころなしか目に光がないし。
「善吉君、妹相手にチンコ勃てたん?」
「それはまあ、いいじゃないですか」
妹扱いしてようと、実際は血が繋がってないんだから、そりゃ勃つでしょ。公衆の面前だし、そろそろやめない?
「女扱いですよね? 好きだからですよね? あれってプロポーズですよね?」
「古今東西、そんなプロポーズは存在しないと思うよ?」
仮にプロポーズだとして、それでときめく?
「というかお風呂に誘った時点で、もうプロポーズですよね?」
「……いや?」
どういう育ち方したの? そりゃ後輩を家に上げたその日に、お風呂に誘う俺も大概だけどね? だからって早とちりしすぎじゃない?
「鳩山君って昔から最低だったんだね……」
「昔からって何? 雨宮さん、俺のことを最低だと思ってたの?」
「うん! 信じられないよ!」
え、俺って夢か幻かと見紛うほどのクズなの? 雨宮さんにはとことん優しくしてきたし、気遣ってきたつもりだよ? 一度でもキミを傷つけたことあるかい? これ以上の高待遇を求めるの、さすがにおこがましくない?
「先輩、貴方から見た私って……もしかしてビッチでしたか?」
キミはキミで、急に何を言い出すの? 目を潤ませながら聞くようなこと? どう答えるのが正解なんだ? とりあえずいつも通り、素直に答えるか。
「いや……むしろ男を知らなそうだったよ」
「ですよね? 私、男友達すらいなかったんですよ?」
「ああ、やっぱり?」
敵対とまではいかずとも、男子相手だと必要以上に距離を取っているように見えたよ。俺に対しても、出会った当初は若干キツかったかも。気付いたら、挨拶感覚でキスをする間柄になってたけど。
「常に密着してくる後輩を、妹扱いで済ませてたんですか?」
「そりゃまあ、甘えてるのかなって……。ほら、兄とか姉がいないって言ってたし」
「妹が『今日、紐パンなんですよ』とか、言うと思いますか?」
そりゃ妹はそんなこと言わないだろうけど、普通の後輩もそんなこと言わないと思うよ。だから単純に、ちょっと変な子なのかなって……。
「あっ! もしかして妹だから、結局一度もしなかったんですか?」
「そりゃまあ、うん。妹とか抜きにしても、後輩を傷つけたくないし」
「……私が望んでいることに気づかなかったんですか?」
……うん。今にして思えばなんで気付かなかったんだろうね? 風呂場で股をこすりつけてくるって、明らかにそういうことじゃん。なんでただの甘えん坊として処理してたんだろう。
どうすればいい? 俺のまいた種……ではないけど、俺にも若干非があるし、上手く丸めないと本当に処刑されかねないね。あそこで目的を忘れて駄弁ってる連中の気が、急に変わる可能性だってあるし。
「じゃあ、当時の懺悔ってことで……」
「ことで?」
「今度エッチしようか」
あの時のように優しく頭を撫で、言い聞かせる。だってこれしかないでしょ? ヤれなかったことに怒ってるんだから、ヤれば解決じゃん。それ以外に解決策があるなら教えてほしいね。
「……でも恋人がいるんでしょう?」
「キミのほうが先に出会ってたわけだし、問題ないよ。そうだよね? 雲……」
「……………………」
氷のように冷たい目をしてらっしゃる。いや、言いたいことはわかるし、怒る気持ちもわかるんだよ。でも仕方がなくない? 俺だって他に方法があるなら、そっちを取るよ? くそっ、せっかく黒ちゃんを落ち着けられそうなのに、このままじゃ振り出しに戻ってしまう。
「キミは今以上に深く、泥沼にハマるつもりなのか?」
「なんで晴家さんも冷めた目してるの? 俺もう雲倉さんの物なんだけど」
「……だからどうしたと言うんだい? キミが誰と結婚しようと、もう私との縁は切れないのだよ?」
そりゃ友達の縁は切れないだろうけど、体の関係は切れるでしょ。というかキミはキミで彼氏作りなよ。なんでいつまでも俺で性欲処理するのさ。
「後輩ちゃんにごめんなさいしたら? いい加減、私もキレるよ?」
「なんで雨宮さんが……」
「あぁ?」
雨宮さんがグレちゃったんだけど、これは誰に文句を言えばいいの? 山中さん達とツルんだせいだよ、絶対。っていうかあの人達、いつまで駄弁ってるの? 新規のお客さん、気まずくてアイス買えないよ?
「先輩」
「何かな?」
「ダメな先輩ですけど……頑張って受け入れますね?」
「は、ははっ……ありがとう……」
受け入れ……えっ? 一回だけヤって過去を清算しようと思ってたんだけど、もしかして関係が継続する感じ? 昔より大人っぽくなったし、こんな綺麗な子に執着されたら遊びじゃすまなくなるよ? 浮気なんてする気ないけど、流れで落とされかねないよ。どうすんべ……。




