第78話 大繁盛
ウチの高校は生徒の数がそれなりに多いので、必然的に出し物もバラエティに富んでいる。アイスはウチのクラスだけだが、甘味という括りで見れば対抗馬はそれなりにいる。何よりも、アイスの自動販売機が校内にあるんだよなぁ……。
だからウチが大繁盛することはないはずなんだが……。
「ショーが見れるなんて、サービスいいねー」
「マジで蹴るのかな? 先生来ちゃうんじゃない?」
「先生も関わりたくないっしょ。実際大人の人ほとんど近寄ってこないし」
「こっそり動画撮らん? SNSに上げなきゃ大丈夫っしょ」
今この時に限っては、どこの出し物よりも人が集まってるよ。客寄せパンダは美少女の雨宮さんかな? それともピチピチギャルの山中さんかな? いいえ、冤罪で吊し上げられている私です。
処刑は庶民の娯楽とはよく言ったもので、アイスを食べながら処刑会議を眺めているよ。こんな物を見学する時間があるなら、展示とか劇を見に行きなよ。
「先輩、私も参加していいですか?」
「ん? アンタも被害者?」
「いえっ、単純に金的してみたくて……ダメですか?」
「全然、いいよいいよ」
よくないよ! キミにそんな権限ないから! あと後輩ちゃん、そういう危険な欲求は彼氏で満たしてね。面識のない相手にそういうことしちゃダメだよ。
「アイスもう一つ買うんで、アタシもいいですか?」
「……この人、女を弄んだんですよね? 私もいいですか?」
この学校、民度終わってない? 俺って比較的まともな人間だったんだなぁって、しみじみ思うよ。反面教師いっぱいだね。日本の未来は暗いよ。
「あの……鳩山先輩……」
「ん? あっ……もしかして黒ちゃん?」
「はいっ! ご無沙汰してます!」
おお、まさか中学の後輩が同じ学校に入学してたなんて、知らなかったよ。懐かしいなぁ。
「一瞬わからなかったよ。一年半で綺麗になりすぎでしょ」
「先輩……またそうやって私を喜ばせるんですから」
相変わらず照れ屋さんだなぁ。甘え上手というか、可愛がられ体質? 俺も昔からついつい妹扱いしちゃうんだよね。
「そんなつもりはないさ。俺は、ただ正直な気持ちを……あだだだだ!?」
いけねっ、彼女の隣で別の女の子を褒めるなんて迂闊だった。でもだからって、耳を引っ張るのはよくないよ?
「……その人が彼女ですか?」
「ん? うん、今日から交際することになったよ」
正直あんまり実感がわかないんだけどね。前々から実質恋人だと思ってたから特別嬉しいと思わないし、告白も雑だったし、なんだったら告白かどうかも怪しいし。
「…………私も処刑に参加しますね」
満面の笑みでとんでもないことを言い出した。処刑の意味を知らないのかな? 一種の祝福だと思ってるのかな?
「善吉君どうすんの? 自業自得とはいえ、彼女的には困るんですけど? 今のうちに赤ちゃん作る?」
「暴走してる女子達を止める方向で励まない? なんで子作りに励むの?」
他人事だと思って楽しんじゃって、もう。こっちは冷や汗が止まらないってのに。
……さすがに高校生だし、やっちゃいけないことぐらいわかってるよね? こういうノリだよね? ギャラリーの熱に当てられて、実際に処刑するとかないよね?
「先輩と同じ高校に通うために頑張って勉強したのに、なんで待っててくれなかったんですか? 私もう、後先考えずに全力で処刑しますよ? 退学とか少年院とか、一切恐れずにやりますよ?」
……女子って怖いなぁ。だってこの子、本気だもん。本当にやる人の目だもん。
大体待つって何? キミが俺と同じ高校目指してるなんて話、聞いたことないよ?
「キミは暴力が嫌いだろう? トラウマになるよ」
「先輩が悪い女に騙されて、子供作るほうがトラウマになりますよ」
なんの話? いや、わかるよ? 俺のこと好きなんでしょ? 当時そんなそぶりなかったけど、さすがに流れでわかるよ。
「私わかるんですよ。あの人達、誤解してますよね」
延々と処刑会議をしている連中を顎で差す。さすが黒ちゃん、聡明ですわ。
「先輩はあの人達に一切興味がないけど、一方的に勘違いされたと」
「そうそうそう! まあ、可愛いとは思うけど、下心は……」
「……は?」
「……微塵も興味ないです。キミのほうが可愛いです」
「ん、よろしい」
黒ちゃん、しばらく見ない間にたくましくなったなぁ。あの頃は、ただただ俺の後ろを着いてきてたのに。
それにスタイルのほうも……うん、素晴らしい。
「彼女の御前だぞー? これ以上ハーレム増やすなよー?」
ふてくされた雲倉さんが、脇腹を突いてくる。可愛いけど、今は取り込み中だから静かにしてほしい。暇なら、あの連中を止めてくれない? 会議の参加者どんどん増えてきてるし、このままじゃ教師来るよ? いや、なんでまだ来ないんだよ。人だかりが不自然だろ。お祭りとはいえ、仕事しろよ。
「で、その悪女のことは本気で好きなんですよね?」
「悪女ぉ? それって褒め言葉?」
千パーセント侮蔑だと思いますよ。嫌悪感が表情に出てるもん。
「洗脳されてます。早く私に一途だった頃に戻ってください」
戻るも何も、そんな時代はござらん。
「黒ちゃん……だっけ? 過去に何があったか知らないけど、忘れたほうがいいと思うよ? アンタも勘違いさせられた被害者だから」
人の後輩を被害者にしないでくれ。ただの先輩と後輩だよ。同じ部活に入ってるわけでもない、ただの先輩と後輩だよ。
「先輩は今も昔も私のこと好きですけど?」
「昔は知らないけど、今は私だよ。ごめんね?」
彼女マウントを取りつつ、頭を優しく撫でる。どういう心境で、後輩を撫でているんだろうか。少なくとも、撫でられてる方の心境は穏やかじゃないみたいだけど。
「先輩は私と結婚するつもりでしたよ?」
……いや? 恋人になるつもりさえなかったよ。
「あはは、ないない。もう忘れなって」
「あります。そうでなきゃ、女の子にチンチン握らせないでしょう」
……あー、なんか色々と思い出してきたぞー。当時は遊び気分だったけど、今にして思えばとんでもないことをしていた気がする。
「詳しく聞こうか? ね? ダーリン」
「私も聞きたいなー。鳩山君の中学生時代気になるなー?」
「私も後学のために聞きたいな。私が初めてだと思っていたのだが……」
雲倉さんに加え雨宮さん、そしていつの間にか紛れ込んでいた晴家さんまで俺を包囲してきた。ついでに言うと後輩も俺のベルトをガッチリ掴んで、逃走を阻止している。どうしてこうなった……?




