第69話 浮気しない(と豪語する)男
疲れた……。出発前から満身創痍だから当然っちゃ当然なんだけど、雲倉さんももう少し俺を気遣ってほしいね。疲労困憊だと知った上で、体動かす遊びさせられたもん。バスケやらサッカーやら、二人でやるのはキツいよ?
「善吉君、汗だくじゃん」
「お互い様だよ」
まだ体を動かすには早い季節だと思うのよ。運動部ならしょうがないけど、我々一般人は涼しい季節を狙って運動するべきよ。
あー、風が気持ちいいや。スポーツドリンクもいつもの百倍くらい美味しい。
「二階行かない?」
「卓球? ボーリング?」
「いや……普通にゲームを……」
この施設初めて来たけど、アーケードゲームが無料らしいんだよね。まあ、それも込みで高い入場料を取られてるんだろうけど。
「えー? 体動かそうよー」
「今日はもう無理かなー……寝不足だし」
二人だったら普通、アーチェリーとか、バッティングとか、パターゴルフとか、そういう静かなスポーツやらない?
「もう一回バスケやろうよー」
「いや、マジでバスケだけは無理……」
「ヒップアタックしたのは謝るから、もう一回やろうよー」
結構痛かったけど、別に怒ってないよ。単純に1on1はしんどいんだよ。
「雲倉さんと密着できるのは嬉しいんだけど、怪我させたくないし」
単純な運動神経で言えば雲倉さんのほうが上かもしれんけど、思い切りぶつかり合えばさすがに向こうが吹っ飛ぶだろう。
「はいはい、そういうことにしといてあげるよ」
「あっ、俺のスポドリ……」
雲倉さん、飲み物を奪うのはいいんだけど、運動後に飲んだペットボトルって気持ち悪くない? 俺だけかな? 普段より汚い唾液がついてそうな気がするんだよね。
「こんなことならドリンクバーつけときゃ良かったね。善吉君がケチるから、逆にお金がかかっちゃうよー」
「だってここまで本気でスポーツすると思わなかったもん」
デートだし、ボーリングとかカラオケ、ゲーセン辺りで時間を潰すと思ってたんだよ。まさか本気でバスケをするなんて思ってなかったよ。
あと、自販機が思ったより高かった。長時間居座るわけじゃないのに、結果的にドリンクバーのほうが安くつくとは……。
「ねぇ、善吉君?」
「んー……? もう休憩終わりー?」
まだベンチに座っていたいんだけど、この子元気だよなー。あの幻の陰キャ時代は一体なんだったんだろう。本当に『ふひひっ』って笑い方してた女の子と同一人物なのか? 知らない間に殺されてて、入れ替わってる的なホラー展開ないよね?
「なんていうかさ、これぞ学生のデートって感じしない?」
「あー……社会人になったら、こういう店に来てもすぐカラオケに行きそうだね」
「今年の夏休みは残念だったけどさ、来年は海とか山に行こうよ。大人になったら、落ち着いたデートになるだろうし」
「そうだねー……。ん?」
つい流しそうになったけど、それって……。
「大人になってもデートしてくれるってこと?」
「え? 当たり前じゃん。一生逃さないぞー?」
「あはは……まだ正式に付き合ってもないのに」
一生かぁ……そういうこと気軽に言っちゃうのも学生っぽいよね。
実際高校生カップルが結婚まで行く確率ってどんなもんだろう。同じ大学に行けたら、確率ハネ上がるんだろうけどねぇ。
「変なサークル入らないでよ? 善吉君って、流れで浮気するタイプだしさ」
「ははは、俺への解像度低いなー」
大学のサークルだとお酒の勢いで浮気とかあるかもしれんけど、俺がそんなことするわけないじゃん。お酒なんて飲んだことないけど、酔ったところで人の道を踏み外すわけがないよ。両親共に酒癖悪くないし、遺伝的に平気だって。
「じゃあさ? 大学とかバイト先で内気な女の子に懐かれたらどうする?」
「どうもしないでしょー。その頃には雲倉さんと正式に付き合ってるんだから」
そもそも懐かれないよ。だって内気なんでしょ? 小学生とかならまだしも、良い年こいて内気な女性は、男相手に心開かないって。
「女の子の家に行く展開……呼ぶ展開でもいいんだけど、そういう素振りなかった子が急に脱ぎだしたらどうする?」
「どうもしないって。そもそも雲倉さんと付き合ってたら、そういう展開になるはずがないよ。俺、女の子の企みを見抜くの上手いよ?」
酔ったフリして男をゲットとか、あんなの間抜けしか釣れないって。そういう画策は絶対態度に出るもん。俺はあっさり看破して、二人っきりにならないように立ち回るよ。家に上がったり、連れ込んだりなんて、絶対にしないよ。
「本当かなー? 正直、大学に行かせるの怖いんだよねー」
俺をなんだと思ってるんだろう。というか大学をなんだと思ってるんだろう。婚活会場か何かだと思ってる? 違うよ? 箔をつけたり、学んだりするところだよ?
「サークルなんて遊びメインのところしか行かないって。ゲームとか、読書とか」
「そういうところのほうが怖いなー」
え、どこが? スポーツ系のサークルよりはるかに良くない? ああいうのって大体、飲んだり性交したりがメインのイメージじゃん。
「ゲーム系のサークルってオタク女子ばっかりでしょ? リアルの男より、ゲームとかアニメのイケメンキャラしか興味ない感じの」
「善吉君は甘いなぁ」
盛大なため息をついた後に、スポドリを飲み干す。あの、それ俺の……。
「じゃあ聞くけどさ、『貧乳最高ブヒー』みたいなこと言ってるオタク男子がさ、巨乳のお姉さんとエッチな展開になったらどうなる?」
「普通に興奮しまくりじゃないの? アニメキャラを崇拝してようが、二次元にしか興味ないと豪語してようが、リアル美女に誘惑されたら耐えられないよ」
まあ、オタク男子の心境なんて知らんけど、多分合ってるでしょ。っていうか今、浮気するクズ男の心理わかった気がするわ。彼女が世界一だと豪語してても、いざキレイな人に誘惑されたら揺らぐんだろうね。芸能人とかも手に入らないからこそ彼女に勝てないのであって、いざお近づきになれたら彼女より上になるのかも。
ははは、どっちにしろ俺には関係ないけどね。浮気とか絶対しないし。
「つまりオタク女子もリアルの男に興味あるよ? あとさ、『男なんかよりも、可愛い女の子が好きなんです』とか、女子校の王子様をあがめてる女子とか、その辺も実は男が好きなんだよ?」
そうなんだ……そうかも……。まあ、偏見混じりな気もするけど、言わんとしてることはわかるよ。
「さらに言うと、オタクが全員ブサイクってのは思い込みよ? 酷いのが目立つだけで、今の時代イケメンのオタクや、可愛いオタクもいるわよ」
「いや、別にそんな思い込みはないけど……」
地雷系だっけ? 写真加工してるんだろうけど、それを考慮しても普通に可愛いと思うよ。っていうか生で見たことあるけど、普通に可愛いし。
「ボディタッチしてきたり、さりげなくブラを見せてきたりするけど、騙されちゃダメだよー? ガード緩いんじゃなくて、計画的犯行だからねー?」
「ははは、何を心配してるのさ」
『心配性だなぁ……』という言葉を飲み込み、雲倉さんの両肩を優しく掴む。理由はわからないけど不安になってるみたいだし、男らしく安心させてあげよう。
あはは、ちょっと赤くなってる。キスされるとでも思ってるのかな? そこまで強引な男じゃないよ。
「えっ、何……急に……」
「俺がさ、そんなハニートラップにかかるわけないじゃないか」
「えっ……それってつまり……それほどまでに私のことを本気……」
「晴家さんみたいな絶世の美女と何十回もエッチしてるんだし、ポッと出の女の子に引っかからないって」
「…………………………」
まったく、雲倉さんは本当に可愛いな。変なドラマの見過ぎだよ、もう。身近に美少女が三人もいるんだよ? 耐性あるに決まってるじゃん。
さてと、さっきまで饒舌だった雲倉さんも大人しくなったし、そろそろ移動するかな。次は何をしようかなー。確かビリヤードとかダーツあったよね。一昔前のレースゲームもあるみたいだし、楽しみだなー。




