第67話 居場所
さあ、やってまいりました! 今年も文化祭のシーズンが! いやぁ、中学の頃からこういうイベント好きなんだよねえ。
去年俺のクラスは、劇をするグループと漫才をするグループに分かれたんだけど、俺は両方出たよ。あー、楽しかったぁ。
……まあ、こういうイベントを楽しめるのは、カースト上位だからこそだよね。
幸いと言うべきか、今年の出し物はアイス屋に決定した。特に準備らしい準備はないし、当日ボッチでも特に問題がないだろう。
「ペンキ持ってきたよー!」
「絵の具で良くね?」
「アメちゃん、絵描ける?」
「苦手かなぁ、あはは」
「苦手でもいいじゃん。アメちゃんが作った看板なら人来るって!」
「そんな力ないよー、もー」
……数少ない準備でさえ、疎外感が凄い。
チケットとか看板のデザイン、俺もやりてえなぁ。
「カップのがよくない?」
「コーンのが売れるって!」
「多分カップのほうが盛り付け楽だよ」
「カップだとスプーンいるくない? コーンでいいって」
うわぁ、販売形式について会議してるよ。俺も混ざりてぇ。教室で皆が作業してる中、ボーッと突っ立てるの辛いんだけど。
まっ、この時間は教室の外に出ても許されるみたいだし、晴家さんのところにでも行こうかな。
「これ、晴家さんオリジナルなの?」
「探せば似たものはあるだろうが、同じ物は存在しないさ」
「すっげー! さすが本の虫だなー!」
「朗読会にする? 劇にする? ハルハル、どっちが得意?」
「書く方ならどちらでも構わないよ」
「凄いなぁ」
え、何が起きてるの? なんか紙を持った生徒達が、晴家さんを取り囲んでるんだけど、え? 夢? 現実じゃないよね? 晴家さんって、クラスメイト全員から避けられてるんじゃないの?
「それにしてもハルハルって物知りだよね」
「わかるー! ミステリアスでカッコいいよね!」
あ? 何言ってんの? 今まで変人扱いしてたじゃん。ここぞとばかりにミステリアス少女扱いするの? 変人を良いように言い換えただけじゃないか。晴家さんの魅力は、俺だけが知ってるんだよ? キミらは、偏見を持っていただろ?
「ふふっ、キミ達の話も新鮮で面白いよ」
「えー、晴家さんって女殺し?」
「ホストっぽいよねー」
「ふむ、ホストか。それも面白そうな生き方だね」
晴家さんも晴家さんで、何をノリノリになってるんだ? こういう人達はすぐに手の平を返すぞ? 文化祭が終わった途端、急に冷たくなるよ? 人に期待してもいいことなんてないし、文化祭期間終わるまでイチャイチャしない?
……一応雲倉さんのクラスに行ってみるか。自分の教室に戻っても、やることがないし、いたたまれないし。
「おっ、鳩山じゃん」
「雲っさん、彼ピッピ来たよー」
あったけぇ、このクラス。彼ピッピとかもう死語な気がするけど、そんなことどうでもいいぐらいあったけぇ。
「善吉君じゃん。どしたん? サボり?」
顔に絵の具をつけた雲倉さんが出迎えてくれた。作業中だったようだが、俺を優先してくれるのがありがたい。やっぱ雲倉さんだよなー。雲倉さんしか勝たんわ。
「あはは、クラスに居場所がなくてね」
我ながら情けないが、こればかりはどうしようもない。いわれなき迫害だし。
「鳩やんも苦労してんだね」
「あはは……それほどでも……」
雲倉さんの取り巻きが肩をポンポンと叩き、慰めてくれた。同じ学校で同じ学年なのに、民度が違いすぎるよ。
「サボり匿うと俺らも巻き添えくらうぞ」
「自分のクラスに帰れよー」
男子達はちょっと冷たいかな。まあ正論だし、ガン無視よりはいいのかな?
「うっせーぞ男子」
「ひっ!」
雲倉さんの取り巻きが蹴るフリをしたら、男子達は大げさに身を引いた。多分日常的に暴力を振るってるんだろうな。
でも不快感はないよ、だって……。
「あはは、ビビってらー」
「ビビってねえけど? 全然ビビってねえけど?」
「腰引いてたくせに」
一方的なイジメとかじゃなくて、じゃれ合いだもん。いやぁ、青春ですなぁ。今からでもこのクラスに編入できないかな? 学校ってそういう制度ないのかな?
「このクラス楽しそうだね」
「そう? 善吉君のところも、最近皆仲良さそうだけど」
「あー、そういえば夏休み前くらいから……」
不良とか陰キャとかそういう垣根を超えて、皆仲良くやってるんだよね。で、何故か俺だけがハブられてる。なんでだろうね!
「鳩山君、辛いのはわかるけど文化祭は皆で頑張らないと」
「男でしょ。当たって砕けなよ」
砕けたくないなぁ。もう何をやっても手遅れなんだよねぇ。
でもその言葉は本当にありがたい。俺のことを思ってくれてるんだってのが、感じられるからさ。うん、甘やかせばいいってもんじゃないしね。
「そういや善吉君のクラスって何やんの?」
「えっとね、アイス屋だよ」
「マジ? いいじゃん」
「チケット、タダで頂戴よ」
現金だなぁ、この人ら。俺にそんな権限ないよ。そんなことしたら、今よりも立場が悪くなるじゃん。
「キミら優しいし、俺の奢りで一枚ずつあげようか?」
「え? いいっていいって、さすがに」
「アンタ神? でもいらないよ」
しっかりしてるなぁ、雲倉さんの取り巻きは。マジで編入したくなってきたよ。
あーあ、ここにいると自分のクラスに戻るのがどんどん嫌になっていく。
「ところで雲倉さんとこは何やるの? 出し物」
っていうか人数少なくない? 皆サボりか?
「あー、自由っていうか、グループめっちゃ別れてる感じかな」
「へー?」
言われてみりゃ、絵の具で何か描いてる人もいれば、習字みたいなことをしている人もいる。何か展示すんのかな? なんか、劇の小道具みたいなの作ってる人もいるんだけど、展示と劇って普通片方じゃない?
「なんか生徒少ないように見えるけど」
「あー、ノコギリとか使う人もいるから、工作室行ってんでしょ」
「そんな大掛かりなことするんだ……」
どうしよう、俺のクラスがかなり手抜きに見えてきたぞ。まあ、手抜きどころか鳩山抜きなんだけども。
「で、雲倉さんのグループは何をするの?」
「私のグループは、子供向けのおもちゃ作りかな」
「子供? ああ、子連れのお客さんも多いもんね」
わー、楽しそう。マジで混ざりたい。皆イキイキしてるもん。
「さっ、そろそろ戻りなよ。土日遊んであげるから」
「きゃー! 雲っさんたら、大胆ー! スケベー!」
「よっ! 姉御!」
ちょっとノリはしんどいかな? まあ、嫌いじゃないノリだけど。
とりあえず土日に遊ぶ約束だけ取り付け、自分のクラスに戻った。言うまでもないけど、居場所はないよ。抜けてたことについて誰も指摘してこなかったし、とことん興味ないんだな。もはや陰口すら叩かれてないんじゃない?
はぁ……。やっぱ雲倉さんしか勝たんなー。




