第66話 最悪のプレゼン
相変わらず教室に居場所がない。この状況って今年中に解決するのかな? さすがになんとかなるよね?
幸いと言っていいのかわからないけど、ウチの高校の修学旅行って二年生じゃなくて三年生のイベントだから、それまでに解決してくれれば……。
待って、急に怖くなってきたよ。今年の文化祭と体育祭がボッチ確定ってのは仕方ないにしても、三年の行事全部ボッチになったらどうする? ただのボッチならいいけど、嫌われてるのはまずくない? そう考えると、来年は晴家さんと同じクラスになりたいな。雨宮さんとか雲倉さんと違って、堂々と俺と行動できるタイプだし。
「アメちゃん、もう体へーきなん?」
「俺、お見舞い行ったほうがよかった?」
「うん、平気だよ。お見舞いは来なくて大丈夫だったし、今後も来ないでね」
雨宮さんはこれからの行事、全部最高の思い出になるんだろうなぁ。いやぁ、お節介オジサンになった甲斐があるってもんだよ。本来だったら、すがる思い出がないまま社会人になってただろうし。
出会った当初じゃ想像もできなかったよ。男子を適当にあしらうイイ女になるなんてさ。っていうか、いい加減に下心を捨てなよ。どいつもこいつも、俺以外相手にされないって学習しなよ。いや、学習してるからこそ、俺を迫害するんだろうけども。
まっ、しばらく様子見かな。居心地こそ悪いものの、雨宮さんがいる間は連中も下手なことできんだろうし。
例のごとく雨宮さんと下校しているわけだが、なんで一緒に下校できてるんだろうね? 雨宮さんと同じ方角に住んでるクラスメイトはいるはずだし、なんなら今も視線を感じている。なんで雨宮さんは学校の外だと、俺を優先するんだろう? そりゃ勿論、休日は平気だろうよ。でも下校って、学校生活の延長じゃない?
「深雪ちゃんがさー、無理矢理ネイルしてこようとするんだよねー」
マニキュアを眺めながら、ため息混じりに呟く。いつ見てもキラキラしてて美しいな。指が綺麗だから、より映えるんだろうか?
「嫌なの?」
『雨宮さんならネイルも似合うと思うんだけど』と言いかけたが、すんでのところで踏みとどまった。
雨宮さんと関わりだした頃の話だけど、たしかその辺のくだりがあったんだよ。さすがに一言一句覚えてはいないが、『深雪ちゃんにネイルチップ付けてもらったんだ』的なことを言ってたはずだ。で、たしかその時……『俺は前のマニキュアのほうが好きだったかな』みたいな返しをして……翌日から一切ネイルしてこなくなったんだよね。その記憶がたしかなら、余計なことは言わないほうがいいだろう。
「そんなものないほうが、鳩山君と手を繋ぎやすいもん」
ニカッと笑い、俺の手を取ってきた。
い、いつの間にこんなテクを身につけたんだ? 今の笑顔は何? 俺の知ってる雨宮さんなら、ニコッて感じの笑い方をするはずだ。あんな活発な悪友特有の笑い方をするような子じゃ、なかったはずだ。
「い、今の笑顔めちゃくちゃ素敵だったよ」
「ふぇ?」
魅力的な笑顔から一転、間の抜けた表情になった。言うまでもないが、これはこれで可愛い。というか単純な可愛さで言えばこっちかも。
「なんだろ、ガラにもない表現をするなら〝胸がときめいた〟って感じ?」
「そ、そうかなぁ? もー、変なこと言わないでよぉ」
あっ、照れてる。顔を背けているので表情はわからないが、耳の赤さで照れ具合がわかる。もしかしてこの赤面もテク? 落ちそうっていうか、雲倉さんに一途じゃなきゃ落ちてたよ。
顔を背けながらも手を離さないってのも、ポイントが高いね。
「可愛いなぁ、雨宮さんは」
「お、屋外だから! ニヤニヤしちゃうから!」
おいおいおい、そそるなぁ。そういう反応されると、もう褒め殺すしかなくなっちゃったよ。
「ああ、屋外で残念な気もするし、安心した気もする」
「安心? どういうこと?」
ニヤニヤを堪えながら、こちらを向いてきた。おっ、やっぱり顔真っ赤じゃん。
「ここが俺の部屋だったら、愛おしすぎて我慢できなかったかもね」
「それって、ええっと、その……。前に言ってた、タガが外れるってヤツ?」
「率直に言うとそうなるかな」
理性で堪えるのも限界ってものがあるんだよね。魔性の女ですよ、この人。そりゃ最低な男が寄ってくるよ。
この子だけは俺が守らねばなるまい。目を離したら、変な男に騙されたりしそうで怖いし。ああ、実に心配だ。メッシュはやりすぎだったかもしれんな、ホイホイ着いてきそうな女だと誤解されかねないし。
とりあえず脅しはこれぐらいでじゅうぶんだろう。自分が男を狂わせるほどの魅力を持っていると知れば、更にガードが固くなるはずだ。
「その、鳩山君。私は、覚悟が……」
「まっ! 俺は雲倉さんに一途だから大丈夫だよ! 安心してよ、ははは」
下手に踏み込みすぎたら嫌われるかもしれんし、早めに切り上げないとね。お節介のせいで疎遠になっても困るし。
「……はい?」
「ホント、気をつけたほうがいいよ? 俺からすれば雲倉さんが一番だけど、雲倉さんと縁がない人にとっては雨宮さんが一番だろうしさ」
「………………」
「雨宮さん小さいし、華奢だし、天然だからなー。変な男子と二人っきりにならないように気をつけなよ?」
基本的に山中さんがついてるから、そこまで心配はしてないんだけど、いつでも一緒ってわけじゃないじゃん? それに山中さんは山中さんで、イジメをするような人だしね。そう考えると女子会を開かせたのは英断だったね。この学年で最もまともな女性三人を出会わせたわけだし、我ながら神采配だよ。
あっ、良い機会だし、あの件についても聞いてみるか。
「そういえば女子会どうだった? 雲倉さん可愛かったでしょ? ああ見えて結構乱暴者なんだけど、悪い子じゃないんだよ」
「……」
「(男子を突っぱねる精神については)雲倉さんに見習うところがあるんじゃないかな、雨宮さんも」
「……は?」
その後、別れるまでずっと雲倉さんについてプレゼンした。雨宮さんは生真面目なので、余計な口を挟まずに最後まで聞いてくれた。
いやー、これからは四人で遊ぶ機会も増えてくるだろうし、楽しみだなー。




