第65話 命拾い
しっかし不思議なもんだよなぁ。雨宮さんが登校しはじめた途端、イジメがピタリとやんだもの。いや勿論、無視やら白い目やら、そういう軽度のイジメは継続してるけども、直接的なものは完全に消えた。
勘違いしないでほしいけど、別に雨宮さんが首謀者だとかそんな妄言を吐き捨てるつもりはないよ。単純にイジメっ子共が、雨宮さんから嫌われるのを恐れてるってだけの話だよ。……はは、こういう言い方をすると、ますます主犯格っぽくなるね。そんなことは、天地がひっくり返ってもありえないんだけど。
「やぁ、私が休みの期間はどうだった? 雨宮さんや雲倉さんとイチャつけて、楽しかったかい?」
病み上がりなせいか、晴家さんがヤサぐれてるよ。一見、普段のクールな晴家さんだけど、俺にはわかるよ。嫉妬心丸出しだよ。
「それがさ、あの二人も体調不良で欠席だったんだ」
「ほう、珍しいこともあるものだね」
「ホントにね」
俺の言葉を聞いた晴家さんは、露骨に安堵した。自称ロンリーウルフのくせに、可愛いところあるよね。いや、頭のてっぺんから足のつま先まで全部可愛いんだけど。
「とすると、キミは何に安らぎを求めたんだい? 私が言うのもなんだが、私達以外に寄りどころはないだろう?」
「……辛かったよ」
あまり深堀りされたくないので、わざとらしく遠い目をしておいた。我ながら姑息且つ気持ち悪い。
「慰めてあげようか? 買い込んだ分をまだまだ消費しきれていないしね」
買い込んだ……ああ、ゴムね。結構使ったはずなんだけど、一体何ケース買ったんだろうね。っていうか俺もお金出したほうがいいんじゃ……。
まあ、その辺……お金関係の話はデリケートな問題だから、後々二人で話し合うとしてさ……。
「気持ちは嬉しいけど、病み上がりでしょ? 無理しないでほしいな」
本音を言うと、ちょうど溜まってるからお願いしたい。でも晴家さんを傷つけるぐらいなら自己処理するよ。俺はその辺のクズ男と違うからね。
「ふふっ、私をセフレみたいな扱いしておいて、今更紳士ぶらないでくれたまえ」
なっ……教室でなんてことを言うんだ。今更だけども! っていうか……。
「セフレ扱いなんてしてないよ。キミは大事な友達だよ」
「……うん?」
あれ? 何その反応? 俺なんかおかしいこと言った?
「キミは私の好意に気付いている。で、キミは雲倉女史を好いている」
「きょ、教室で言わないでよ」
別に隠すようなことじゃないっていうか、誰も俺の恋路なんて興味ないだろうけども、雲倉さんに迷惑かかっちゃうかもしれないじゃん。嫌がらせの矛先が雲倉さんに向かう可能性だってあるしさ。
「んで、そのくせ私と性交をする」
「え、うん」
そりゃ友達とはいえ、異性だもの。俺は晴家さんを異性として魅力的な人だと思ってるし、逆もしかりだ。何か問題でもあるのか?
「私への同情……とかではなく、本気でヤりたいからヤってるのだろう?」
あの、本当にやめません? 放課後にしましょうよ、こういう話は。
この辺だよな、この人がクラスで浮いてるのって。我が道を行くってスタイルを貫いてるから、大衆社会からは爪弾きにされる。まぁ、永遠の課題よね。大抵の偉人は周りから理解されてないらしいし。
「比較対象がいないのでなんとも言えないが、私の裸体を見た時、キミのそれは凄まじい勢いでカチカチになる。よほど興奮していると見える」
指を差さないでください。あと、ここ教室だから。
「そりゃまあ……キミ、余裕でテレビ出れるレベルの美形だし」
いや、まあ、人間性というかキャラ的に扱いづらそうな気がするけど。カンペとか台本をガン無視しそうだし。
「長身だし、不健康な痩せ方をしているが?」
不健康……。うーん、筋肉をつければ……いや、それにしたって脂肪がなさすぎるよなぁ。ダラダラと読書やゲームをしながら、お菓子をボリボリ食べているのに、なんで太らないんだろうね。
「身長高いのって、カッコいいじゃん。そりゃ二メートル超えてたら威圧感あるかもしれないけど、百七十ちょいって、まあまあいるよ?」
バレーとかバスケなら、むしろ小さい方だろうし。
「肌、いくらなんでも白すぎないかい? 気持ち悪くないかい?」
「意味がわからない。初めて見た時、キミに芸術的な価値を見出したよ」
風俗を巡っても、ここまでキレイな肌の子には会えないだろうなぁ。いや、別に巡らないけどさ。
「………………ふぅ」
さすがに羞恥心が芽生えたのか、無言になった後にため息をつく。うん、恥ずかしいなら最初からこういう話は……。
「キミは実にクズ野郎だな」
「うん?」
え、今罵倒された? なんで? 照れ隠しにしたって酷くない? これって、あれだよね? お腹いっぱいなのに『腹減ったなぁ』みたいな、心にも無い独り言を言っちゃうことあるじゃん? そういうことだよね、うん。
「えっと、俺の発言気持ち悪かった? 俺は本気で、社交辞令とかお世辞抜きで、心の底からキミを美しいと思ってるんだけど」
「ああ、善吉君が正直者だと言うのは知ってる。そして嬉しい。月並みな表現かもしれないが、自己顕示欲やら承認欲求やら自尊心やら、あらゆる物が満たされたよ」
だいぶ満たされてるじゃないですか。何が不満なんです? 俺の一言で、多幸感を得てるじゃないか。
「そう、キミの言葉は私の心を打つ」
「じゃ、じゃあ……」
「だからクズ野郎なのだよ。キミの死体はきっと、局部が損傷しているよ」
……? 心を打ってるのに、恨みを買うの?
「キミは何度私と唇を重ねた? いくつゴムを消費した? 時には口を使わせてくるじゃないか、私がそのプレイを好まないと知りながらも」
ちょいちょいちょい! いきすぎ! いや、イクってのはそういう意味じゃなくてだね、教室内で話す内容じゃないって! 場所をわきまえようよ!
「私は何があってもキミを傷つけたくない。だが、いくら奉仕に奉仕を重ねても私に見向きもしてくれないということを考えると、残酷な衝動に駆られることがある」
「は、晴家さん? どしたの? 怖いよ?」
普段より饒舌な気がする。何より、言葉の圧? いや、どっちかと言えば感情の振れ幅? 上手く言えないけど、タガが外れかけている気がする。理性とせめぎ合っているように見えるんだよ。何があった? 俺が地雷を踏んだなんてことはないと思うし、やっぱり体調不良の後遺症?
「とりあえず落ち着こう? 保健室行く?」
「………………ふふっ」
な、何? 無言からの短い笑いは怖いよ? 意味深すぎるよ?
「キミはきっと、私の身を案じて提案したのだろう? 『保健室に行こう』と」
「え? それ以外にある?」
「ふふふ……。キミのそういう無垢なところが、ギリギリのところで命を繋ぎ止めているのかもしれないね」
え、俺って性格によっては既に死んでるの? っていうか今もギリギリなの? 後六十年以上は生きる予定なんだけど。
「まあ皮肉にも、その無垢さによって追い詰められているわけだけどね」
「は、はぁ。肝に銘じます」
よくわからないけど、機嫌が戻ってよかった。
体調不良ってもしかして女の子の日だった? そういや、ここまで体を重ねているのに、周期を把握してないんだよね。まあ、ちゃんと避妊してるから、危険日とかそういうのはあんまり意識しなくていいんだろうけど……。
まあ、何はともあれ解決……かな? 色々と不気味っていうか、きな臭いことを言われた気がするけど、忘れよう。女の子の日で精神が不安定になってたがゆえのことだろうし、忘れてあげるのが優しさだよね。




