第64話 お転婆
今日もあの三人は休みかー。もちろんメッセージを送ったけど、ただのちょっとした体調不良らしい。三人同時に体調不良なんて変な話だと思ったけど、よくよく考えたらそこまで不自然じゃないかもしれない。
だってあの三人、女子会してたじゃん。それで風邪がうつったんじゃないか?
お見舞いには来なくていいって言われたし、彼女達が学校に復帰するまで俺も辛抱するか。うん、辛いけどそれは彼女達も一緒だもんな。うん……。
『死ね』
机の中に、直球な暴言が書かれた紙が入ってたけど、辛抱すべきだよな。机に油性ペンで落書きされるよりは、ダメージ少ないわけだし。
しっかし、誰の仕業だろうなぁ? 例のごとくふにゃふにゃの文字だし、筆跡から導くのは無理だな。
「ちっ……」
は? え? 何今の?
たまたま目があった女子が、舌打ちをしながら胸元を隠しだしたんだけど、一体どういうこと? 別にキミのことなんか見てないんだけど?
うわぁ……こっちをチラチラ見ながらヒソヒソ話をしてるよぉ。内容は聞こえないけど、どうせ『アイツ、キモくない?』みたいなこと言ってんでしょ? 別にいいんだけどね? 俺には雲倉さん達がいるし。
「マジ汚らわしくない?」
「女の敵だよねー」
「なんで生きてんのかなー」
ああ、絶対俺の悪口だ。決して自意識過剰ではないよ。明らかに俺に向けて言ってるよ。わざわざ俺の後ろに来て話してるもん。陰湿だなぁ……。一体なんなのさ、女の敵って。どっちかと言えば味方でしょ。女の敵ってのは、女心を弄ぶ最低な女たらしのことを言うんだよ? 俺と真逆じゃん。
ああ、そうだよ、真逆だよ。うん、俺の話じゃないな。たまたま俺の近くで話してるだけだよ。盗み聞きはよくないし、無視無視。
「雨宮さん可哀想だよねー」
「反撃すればいいのに」
「あんなのでも男だし、怖いんじゃない?」
「かわいそー……」
雨宮さん? いや、無視だ、無視。まったく、雨宮さんがいないからって、叩き棒みたいな扱いしやがって。
どうせアレでしょ? 俺と雨宮さんを引き離そうとしてるんでしょ? 姑息にもほどがあるよ。とことん陰湿だね。
陰湿な嫌がらせは一日中続いた。いやぁ、イジメ問題が明るみになると、手口が陰湿になって表面化しづらくなるだけってのは、事実なんだねぇ。
個人的には露骨なヒソヒソ話がメンタルにくるね。物証がないから教師に報告しづらいし、被害妄想だと言われればそれまでだもん。
もうね、本当に無関係な人達の会話でさえ悪口に思えてくるよ。このままいくと、その辺の通行人でさえ敵に見えるようになるんじゃないか? なんて考えてるうちはまだ平気かな、ははっ。
「いやー、心配かけたねー」
「ははっ、元気そうで何よりだよ」
落ち着く……雲倉さんと話してるとマジで落ち着く……。本当に体調が戻ってよかった。しかし三人同時に復調するとは、どこまで仲が良いんだ。
「相変わらず仲良いわねー、アンタ達」
「さっさと付き合いなさいよ」
雲倉さんの友人が、肘をグリグリと押し付けてくる。これは俺のクラスのクソ共がしているようなイジメではなく、愛のあるイジりだ。ああ、この三人以外の生徒が普通に接してくれるなんて……このクラスあったけぇ……。
「……ところで善吉君、なんでスリッパなの?」
あっ、まずい……。
「え、あー……まあ、色々と」
どうするべきだろう。隠し事をするのはよくないし、かといって正直に言っても心配をかけちゃうよな。くそっ、事前にどうするか決めておけばよかった。
「あー、鳩山君イジメられてるんだっけ?」
「えー? 酷くない? 鳩山君悪い人じゃないのにー」
すげぇ、女子が心配してくれてる。不覚にも泣きそう。この子、先日ケツで突き飛ばしてきた子だけど、男らしく水に流そう。根は悪い子じゃないみたいだし。
「へー? それは許せないなー」
穏やかな笑顔でポキポキと関節を鳴らす雲倉さんは、どことなく大物感がある。ほら、怒らせたら怖いタイプの紳士キャラ的な?
「あの、俺は平気だから……」
とりあえず落ち着けよう。陰キャモードを長く見すぎたせいで忘れそうになってたけど、この人って結構……。
「皆、犯人とっ捕まえてタマ潰そうよ」
ヤンチャなんだよねぇ……。別に不良ってわけでもなければ、暴力的ってわけでもないんだけど、度を過ぎたお転婆なんだよ。そこが可愛いところでもあるんだけど、感情的すぎるというか。
「そ、そこまでしなくても……」
「イジメとか女々しいでしょ? じゃあ問題なくない?」
どういう論法なの?
「雲倉センセー! 女のイジメっ子はどうすればいいですかー?」
キミ達も乗らなくていいんだよ。こういうのって、集団心理的なものが働いて大事になったりするからさ。
「口に石とか釘を詰めて殴ろう」
そんな爽やかな雰囲気でするような回答? 語尾に〝☆〟が見えた気がするよ。イジメっ子をお星様にするってこと?
「まーまー、さすがに冗談だけどね」
「冗談かー。雲っさんならやりかねないと思ったんだけど」
「さすがに停学くらうもんねー」
停学で済んだら御の字だよ。退学どころか少年院コースだよ。
「いい? 蹴りは潰れる可能性があるから、掴むこと。手のひら全体で掴むより、指先で掴むほうが効果的に痛めつけられるからね」
人差し指を立て、制裁をする上での注意点を説明する雲倉さんだが、これも冗談ということでいいんだよね? 取り巻きの女子達がうんうんと頷きながら、ペンを走らせてるんだけど、冗談でいいんだよね?
「こらこら、証拠になるからメモは残しちゃダメだよ」
「あっ、ごめん! メモはフェイク以外で残しちゃダメなんだよね」
え、何? 闇バイトの話でもしてるの? この空間、怖いんだけど。
「雲倉さん、気持ちは嬉しいけど、俺は平気だから。ね?」
「そう? こういうのって早めに対応したほうが……」
「うん、いざって時はお願いするよ! キミが真剣に考えてくれただけで、俺は嬉しいよ! 本当にありがとう!」
雲倉さんの手を取り、勢い任せに犯行を中断させる。
ちょっと恥ずかしいけど、こういうのは勢いでなんとかしないとね。
「そ、そんな……愛してるなんて……」
言ってないけど? いや、愛してるけども。
「とにかく暴力はダメだからね? 俺はそろそろ自分の教室に戻るけど、犯人探しとかしなくても大丈夫だからね? 大事なキミを、危険なことに巻き込みたくないし」
一方的に言いたいことをぶちまけ、そのまま離脱した。
よしっ、なんとか丸く収まったな。なんか黄色い声が上がってた気もするけど、まあいっか。




