第63話 陰湿
確率的にどんなもんなんだろうね。数少ない友達が全員同時に欠席するって、かなり低確率じゃない? いやー、こういう悪い時に限って低確率引くんだよねー。確率的には宝くじレベルなんだから、宝くじ当ててくれよ。雷が人に当たる確率より万馬券のほうが確率高いけど、実際に当たるのは雷じゃん? おかしいよ、この世界。
なんで友達が欠席したぐらいで、ここまで取り乱してるのかって? その理由は二つあって、まず一つ目は心の安らぎがないことだ。教室で雨宮さんを眺めることができないし、晴家さんや雲倉さんのクラスに遊びに行くこともできない。下校だって一人ぼっち確定だ。
そして二つ目、これだけはどうあがいても看過できない。
「見ろよアイツ、スリッパだぞ」
「来客? 来客者? 良いご身分だなぁ」
わざと聞こえる声量で煽ってくるけど、これは睨み返したりぶん殴ったりするのが正解なのかな? 面倒事はごめんだから、無視するけどさ。
っていうかコイツらか? コイツらが犯人か? マジでふざけないでくれよ? 上靴を隠すとかだったらよくあるイジメだけど、パンパンに泥を詰めるって陰湿すぎるんじゃないか? っていうか誰か目撃者いないの? 下駄箱周辺に人がいないのは、授業中ぐらいだろ? 絶対に目撃者がいるはずなんだけど、きっと俺が対象だから全員見て見ぬふりしてるんだろうね。
あっ、言うまでもないけど机も落書きされまくってるよ。ご丁寧に油性ペンでね。
しかも字がやたらとフニャフニャしてるんだよね。きっと筆跡でバレないように、利き手じゃないほうで書いたんだろうね。小賢しいな、ハハハ。
「アイツ体育休んでるぞ」
「ズル休みだ、ズル休み」
準備体操をしながら、陰口を叩くクラスメイト。コイツらか? コイツらが俺の体操服をビシャビシャに濡らしたのか? 本当に陰湿だな!
臭い的に汚水ではないと思うけど、念の為水道水で洗っておいた。あー、マジで惨めだなぁ。洗ってる最中『うわっ、学校で洗濯してる』とか、言わなくてもいいことを言ってくるし。
「うわっ……」
思わず声が漏れてしまった。でもそれも無理からぬことだ。
いや、アンタ……体育の授業に出てる間に教科書ビチャビチャにするって、悪質すぎん? 誰か知らんが、別クラスの人達か? 同じクラスの人達は体育に……いや、着替えの時間なら同じクラスの人でも可能か?
まだ昼前だけど、早退するべきか? 幸い俺の両親は理解があるほうだから、ああだこうだ言わないだろうし。
でもなー、そういうのって負けた気分っていうか、釈然としないというか。どう考えても帰るべきは、この陰湿なイジメをしてる人達だろ? 不幸になれとまでは言わんけど、反省ぐらいしてほしい。
一応教師に報告しておいたけど、多分無駄なんだろうなー。証拠とか一切ないし。
ようやく一日が終わった……。上靴だけじゃなく、まさかスニーカーまでやられるとはなー……。いやー、体育館シューズが無事でよかった。おかげで裸足で帰宅という事態だけは避けることができたよ。いや、その場合はズブ濡れのスニーカーを履くから、裸足はないか。ははは……。はぁ……。
「どうする? 別に学校休んでも大丈夫だけど」
俺の親って本当に理解あるよね。学校側と最低限の話し合いだけして、後は俺に選択権を委ねてくれたんだから。
酷い親だったらモンペ扱いされるぐらいブチギレたり、逆に無関心だったり、何故か子供に説教かまして無理矢理登校させたりと、散々な目に遭うだろうし。
「ちゃんと行くよ。さすがにこの状況……教師陣に知れ渡ってる状況で同じことをするほど、バカな子はいないと思うし」
「そう? なんかあったらすぐ報告しなさいよ?」
「わかってる、わかってるよ」
「彼女達が巻き添えになることだってあるんだから、即座に報告しなさいよ」
「わかっ……え? うん……」
彼女達……? 今、彼女達って言った?
ああ、いや、わかる。雨宮さんと晴家さんのことだろ? あっ、雲倉さんも一応面識あるのか。彼女って、そういう彼女ね。三人称的なね。
「それにしてもイジメなんてねぇ。善吉は人望あるほうだと思ってたんだけど」
「まぁ、うん。わりと誰とでも仲良くできるほうだね」
なんでこうなったんだろ。野球とかサッカーができるくらいの人数を集められるほどの人望だったんだけど、今じゃ三人しか呼べないよ。しかも全員異性という。いやまあ、異性のほうが一般的には凄いんだろうけど、やっぱり男友達も欲しいっていうかさ。あんまり言うと、彼女達に失礼だからもう言わんけど。
「イジメられてる子にあれこれ言う気はないけど、そんなんじゃ先が思いやられるわよ? 善吉は茨の道を歩もうとしてるんだから」
「うん? あー、そうだね?」
茨の道? 大学のこと? 俺の学力なら問題ないと思うし、そこまで難関大学というわけでもないんだが、何が茨の道なんだ? 別にスポーツをやってるわけでもなければ、家業を継ぐわけでもない。うーん……まあいっか。
「無茶苦茶と言えば無茶苦茶だけど、ハルちゃんの女社会理論を聞かされたら反対できないわ」
ハルちゃん? 晴家さんのことだよな? 女社会理論って何? 確かにそういうよくわからん持論を複数持ってそうだけど、人の母親と何を語り合ってるんだ? この人、その手の難しい話は興味ないタイプだろうに。
「私もねぇ、もう少しママ友と協力して子育てするべきだったわ」
「……?」
「お父さんが家事とか育児を手伝ってくれないことを皆で愚痴りあってたけど、ハルちゃんの言うとおりおかしいわよね」
「え? うん? そうかな?」
子育て経験のない晴家さんが、一児の母を論破したの? ママ友とその手の愚痴を言い合うのはわりと普通のことだと思うんだけど、おかしいのか?
「旦那に尽くすことで夫婦円満の状態で尻に敷けるなんて、逆転の発想というかなんというか、考えさせられたわ」
……? さっきからなんの話をしてるんだろう? 陰湿なイジメを受けて帰ってきた息子に、なんの話をしてんの?
「まっ、アンタ達は上手くいくと思うわ」
「えっ、うん。ありがとう……?」
なんやこの人、会話できへんタイプか? 酔ってんのかな? よくわからんけど、面倒だからさっさと飯食って部屋に引きこもるか。
あーあ、明日は三人共来てくれるかなー。




