第62話 本気度
なんていうか皆、俺と関わる上でのスタンスに差があるよね。
晴家さんは元々ボッチなこともあって、周りを一切気にせず俺とだけ接する。おそらく友達が増えても、このスタンスは変わらないだろう。
雲倉さんは以前のように女友達が大勢いるけど、俺を優先してくれる。他の女子からは『アイツと関わらないほうが……』みたいなことを言われてるらしいけど、それでも俺を優先してくれている。申し訳無さと嬉しさが同時に込み上げてくるよ。これはもう結婚待ったなしだね。
雨宮さんは、他のクラスメイトを優先。基本的に誰もいない時しか声をかけてくれない。まあ所詮俺なんて、数多いる友達の一人でしかないんだろうね。脈が無いにしても、もう少し男扱いしてほしいもんだ。
「雨宮ちゃん、なんで急にロングスカートなん? まだ暑いのに」
「あはは、セクハラやめてね」
「えー? すぐセクハラ扱いすんのパワハラじゃない?」
「……やめてね?」
「あっ、はい……」
まあ、ガードが固いのはいいことかな。うん、よく考えてみればこの子、誰とも脈がないわ。だから俺がアレコレ求めるのは間違いっていうか、傲慢なのかも。
それにしても俺って、結構アレじゃない? 本命じゃない子が男子に絡まれた件で気を揉むなんて、案外ヤキモチ焼きなのかもな。
一瞬〝クズ男〟ってワードが思い浮かんだけど、それは違うよ。〝アレ〟に代入されるワードは〝ヤキモチ焼き〟だからね。仲の良い友達に独占欲を発揮するのは自然なことだから。
「コイツのセクハラは後で処すとしてさー」
山中さんがセクハラ畜生の頭を鷲掴みにする。『後で溜まってる洗い物を片付けるかー』みたいな軽いノリで処刑宣告とは、さすが雨宮さんの一番の親友。いや、一番かどうかは知らんけど、多分上位でしょ。
「しょ……え?」
「実際アメちゃん、清楚すぎん?」
困惑する死刑囚を無視して、雨宮さんの立ちふるまいにクレームを入れる。
ふむ……清楚ねぇ。そりゃまあ、机に腰掛けて片膝立ててる痴女に比べれば誰だって清楚だろうけども……。
……いや、見ないよ? ただでさえ嫌われてるこの状況でガン見したら、イジメが直接的なものになっちまう。まぁ、そっちのほうが仕返ししやすいかもしれんけど。
「そうかな? ペディキュアとかしてるよ?」
なんだっけ、それ? 聞き覚えはあるんだけど思い出せない。
「いや、そんぐらい誰だってするし」
よくわからんけど、ペディキュアをしてようがしてまいが、清楚かどうかには影響がないらしいな。いつもヘラヘラしている山中さんが、真顔でツッコんでるもの。
「逆に聞くけど、私のどこを見て清楚だと思ったの?」
キョトンと首を傾げる。何度見ても可愛い仕草だけど、角度的に見づらいのが残念でならない。
「だって今年の夏、一度も水遊びしなかったじゃん」
水遊び? プールとか海とか川とか、その辺のこと? そういやその手の誘いは、全部断ったんだっけ。
なんでだろ? 泳げないんだっけ?
「だってー……」
「だって?」
何故かモジモジしだす雨宮さんに顔を近づける。少し前までなら微笑ましい場面だけど、山中さんもイジメに加担してるせいで、そういう目で見れないんだよね。
「男の子も来るんでしょ……?」
口元に手を当て、上目遣いで山中さんを見る。効果音をつけるなら〝きゅるん〟だろうか。ああ、真正面から見たい。俺にとって唯一の救いは、向けられる相手が男子じゃないことだろう。
「アメちゃん乙女すぎかー? マジ愛おしいんだけどー!」
「ちょっ、くるしっ……」
女子同士の過激なスキンシップ……! 俺も混ざりてぇ! とか、少し前の俺なら思ってたんだろうなぁ。あれが山中さんじゃなくて、晴家さんとか雲倉さんなら微笑ましいだろうに。
「えー、雨宮ちゃんの水着見たいんだけどー」
「ごめん、ぜっっっっったい嫌」
「小さい〝つ〟が多い! どんだけ嫌なんだよ!」
セクハラ畜生無節操坊主を笑顔で撃退する。強くなったなぁ、出会った当初じゃ想像もつかないよ。
っていうか本当にガードが固いな。プールだの海だの、青春に欠かせないイベントを自ら蹴るなんて。
「まー、コイツらが嫌ってのはわかるんだけどさー」
「いだだだ! アイアンクローやめろってー!」
手遊び感覚でアイアンクローをかます山中さんと、大げさに叫ぶ畜生。……なんか見ててイラつくな。この二人の関係は知らんけど、公衆の面前でイチャつかないでほしい。っていうかこの男子、名前なんだっけ? まずいな、夏休み空けてからクラスメイトの名前を忘れつつあるぞ。敵対したせいで興味が失せたのだろうか。おかしいな、少し前までは皆のことを最高の仲間だと思っていたはずなのに……。
「でもアメちゃん、せっかく垢抜けたんだしさー、そろそろ恋人とか作ってもいいんじゃない?」
ちょ、山中さん。余計なことを言わないでくれるか? 言ってることはわかるんだけど、余計なお世話だって。雨宮さんに彼氏ができたら、今まで通り友達じゃいられなくなるじゃん。絶対友達のことをおろそかにするって。
「別に垢抜けてなんか……」
「いやいやいや、メッシュ入れて通学は中々っしょ」
それはそう。なんで校則違反にならないんだろうな? 似合ってるから? そんなわけないよな。
「女子が綺麗になるのって大体男絡みじゃん。好きなヤツいんの?」
なんだその偏見は。でもナイス質問だ。俺としてもその辺が気になる。妙にガードが固いのは、想い人がいるからじゃないのか?
「え、えー? オシャレとか、ただの気分転換だけど……」
顔ごと視線を反らし、髪やら鼻を弄っている。素人の俺でも嘘をついているとわかるよ。ってことは……。
「いるん? 好きなヤツいんの?」
「マジ? 俺? もしかして俺?」
俺以外の人達も雨宮さんの嘘を看破できたようで、凄い勢いで詰め寄る。詰め寄るのはいいんだけど小坊主よ、キミだけは天地がひっくり返ってもないよ。雨宮さんの性格的にも、きっと大人しくて真面目な男子に決まってるよ。キミみたいに無節操なクズ寄りの男は相手にされないって。
「も、もー! 勘弁してってばー!」
両手を前に突き出し、首をブンブンと振る。ここからじゃよく見えないけど、おそらく赤面しているんだろうな。そんな絶景を砂かぶりで眺められるなんて、羨ましいことこの上ない。
……っていうか、誰? 好きな人って誰? 雨宮さんの仕草が可愛くて流してたけど、一大ニュースじゃない? 校内新聞のトップ飾るぞ。
……相手が誰か知らんけど、クズじゃないことを祈ろう。いや、わかってるよ。雨宮さんは人を見る目があると思うし、変なヤツを好きになったりしない。でも心配だなぁ。なんだろう、この気持ち。これが父性ってヤツ?
「じゃあさ、じゃあさ! 相手が誰かは聞かないからさっ! どれぐらいの本気度かだけ教えてよ!」
おっ、ナイス質問。よく考えたら雨宮さんの恋愛なんて、俺には関係ないと言えば関係ないけど、やっぱり気になるもんね。
「…………えっとね」
少し長めの沈黙の後、口を開く。恥ずかしがってるのかな? 可愛いなぁ。
「…………本音ぶっちゃけていい?」
まだ溜めるの? もしかして、引かれるほど重いの?
「いいよ? ってか溜めれば溜めるほど言いづらくなるよー?」
ああ、一発ギャグ的な感じね。
「えっとね……絶対に自分の物にしたい」
っ……! ここからじゃ表情がよく見えないし、声もギリギリ聞こえる程度だ。だがそれでも、凄まじい破壊力……凄みだ。俺でさえ背筋が凍りついたのだから、砂かぶりで拝んだヤツらは尚更だろう。
「じ、自分の物に?」
「うん。宝物は宝箱に入れて、見つめて、撫でて、愛でたい。普通のことでしょ?」
「そっ、そっかぁ……」
…………そうかな、そういうものなのかな。山中さん達の反応は、異常な物を見た時のソレだけど。
でもなんでだろうね? セリフだけ聞くと、特段おかしいことは言ってないはずなんだよ。よくわからんけど、要するに宝物みたいに大事ってことでしょ? なのに、なんで不安……っていうか恐ろしいんだろうね?
ま、まあいっか。どうせ俺には関係のないことだし。




