第61話 愚かな自己申告
俺さ、晴家さんの好意自体には気付いてるんだよ。いや、気付いていたつもりだったと言うべきか? 燃えるような恋がしたいという戯言にも近い野望を耳にしたせいで、勘違い説が出てきちゃったよ。
だって俺相手に燃えるような恋は無理だろ? 俺も恋について明るいわけじゃないけど、燃えるような恋とやらは障害があってこそだと思うんだ。
障害と聞いて初めに思い浮かぶのはお互いの親族だが、俺の母親は女の子だったら誰でもOK出すし、晴家さんのところも放任主義だ。つまり障害と呼べるような物は特に……あっ……。
「どうしたの? 下校しないの?」
恋の一番の障害って、対抗馬じゃない? いや、対抗馬って言い方が適切かどうかは知らないし、どうでもいいけど、とにかくライバルポジションのヒロインだ。
……晴家さんのライバルポジションと言えば、やっぱり雲倉さん?
「鳩山君? 体調悪いの? 保健室行く?」
「え、ああ……大丈夫だよ」
とりあえず俺の目の前にいる女性は違うだろうな。当事者の俺から見ても、俺と雨宮さんが恋愛関係になることは絶対ないと思う。冷静に物事を見ることができる第三者、晴家さん視点では尚更だろう。
「考え事? もしかして、また誰かに酷いことされたの?」
「あはは、考え事は考え事だけど、トラブルは特にないよ。高橋君が不登校になってから、ああいう事件起きてないし」
そういや彼、今頃何してるんだろうね。このままじゃ留年、場合によっちゃ自主退学になるんじゃないか? 性欲に支配された哀れな人だけど、さすがにちょっと心配だなぁ。わざわざ手を差し伸べようとは思わんけど。
「高橋君はどうでもいいけど、考え事が気になるなぁ。下校しながら聞いていい?」
どうでもいいんだ……。雨宮さんって誰にでも優しいイメージあったけど、下心丸出しで近づいてくるような男は願い下げってことかな。まあ、彼の場合、それだけではない気がするけど(俺も大怪我させられかけたし)。
「まあ、大した話じゃないんだけどさ」
「うん、うん。どんな話?」
落胆させないために予防線に近い前置きしてるのに、そんな興味津々にならないでよ。聞かせる気がないギャグをさりげなく呟いたら、聞き返されて変な空気になった的な感じ? ちょっと下手な例えかも知れんけど、大きく外してはいないはず。
「俺と雨宮さんって、良いお友達だなぁって」
「うん、うん……うん?」
「なんていうかさ、異性の友達って自然と恋愛感情生まれたりするじゃん?」
「……うん」
急に興味失わないでよ。確かに面白く無さそうな入りだけど、リスナーのテンションが低いと余計に話しづらくなるからさ。
「でも俺と雨宮さんって、いつまでも程よい距離感を保てそうだなぁって」
もう少し近づけるなら近づきたいけど、それを口にするほどバカじゃない。雨宮さんがその言葉を望んでいるなら何回でも口にするけど、実際は口にした瞬間に関係が崩れる最悪の一手だ。少なくとも警戒ぐらいはされるだろうね。
「へぇ? ドバイで家族になるって宣言までしたのに?」
「ドバイ? ドバイってセレブなイメージのある、あのドバイだよね? 急にどうしたの?」
家族になる宣言? 俺が? っていうかなんでドバイ? あっ、誰かと勘違いしてるのかな? 友達が増えた弊害だねぇ。喜ばしいことのはずなんだけど、他の男と間違えられるのは複雑な気分だ。何より家族って……。
「どうしたってどうしたの? 鳩山君が何を言ってるかわからないんだけど……」
奇遇だね、俺もキミが何を言ってるかわからん。
「私とハルちゃんの選択に委ねるんじゃなかったの? あっ、今はクラちゃんも入るのかな? ははっ、キレそう」
……? 今『キレそう』って言った? キレる要素あった?
「クラちゃんって、雲倉さんのこと?」
「うん。〝クララ〟と迷ったんだけどね」
「へー、いいセンスだね」
女子会一つで、随分と距離を詰めたなぁ。
それはさておき、選択ってなんのことだろう。確かに雲倉さんとはゆくゆく家族になるけど、別にドバイに行くつもりはないよ? 行くとしても、キミ達は別に関係なくない? ハネムーンに着いてくるの? さすがに嫌だよ?
あっ、そういやドバイ旅行がどうのこうの言ってたっけ? で、お土産は二人のセンスに任せるとかなんとか、言った気がするよ。ああ、なるほど、雲倉さんも旅行に行くってことね? 女子の距離の詰め方すごいなぁ、初女子会でそこまで進展する?
あれ、結局家族って何? なんのこと?
「クラちゃんのことはひとまず置いといてさ」
「え、うん。雨宮さんと俺の話だったもんね」
「うん……。私と友達でいつづけるってのはどういうことかな? ひょっとして、私を怒らせたいの?」
えっ、怒るって何? 俺との友達関係を断ち切りたいの? 今日の雨宮さん、いつにも増しておかしくない?
「いや、えっと、ほら、雨宮さんって可愛いじゃん?」
「きゅ、急にどうしたの? 何回言われてもニヤニヤしちゃうから、屋外でそういうこと言わないでよ……もう」
なんで初見みたいな反応できるんだろう。この手の言葉は数十回ほど浴びせてるはずなんだけど。
「そういう反応が可愛いんだよ。お高く止まってないというかさ」
「あざといってこと?」
この若干ネガティブというか、捻くれたところも可愛いよね。っていうか何しても可愛いわ。適切な距離感じゃ我慢できなくなりそうだし、可愛さを控えてほしい。
「あざとくないからこそ可愛いんだよ」
「へ、へぇ? わかるようなわからないような……」
「つまりね、いくら俺が性に対して自制心を持っているとしても、タガが外れかねないということだよ。っていうか普通は外れる」
ホント、我ながらよく我慢してるよね。
だって雨宮さん、ナチュラルに誘ってくるじゃん。無防備すぎるっていうか、無意識に異性を弄ぶタイプっていうか、気をつけないと刺されるよ?
「外さないの?」
ほらー、こういうこと言うんだもん。キミのために我慢しているというのに。
「なんとかギリギリで堪えることに成功してる。本来であれば我慢できないのに、我慢できている。つまり、友達としての適性が高いってことだよね?」
おっ、我ながら上手くまとめることができたぞ。頭の中を整理せずに喋り始めたから、着地点見失ってたんだよねぇ。
「……へー」
あれっ、反応薄くない? ゲームを極めたことを友達に自慢したら、とっくにブームが去っていた時のことを思い出すよ。なんだろ、この気持ち……承認欲求かな?
「納得できない部分もあるけど、タガが外れかねない状況ってことだけは覚えておくね。ありがとう、話してくれて」
「……どういたしまして?」
なんか知らんけど感謝された、嬉しい。
いやー、無意識に地雷を踏んだ気がしたけど、結果的にプラスだったね。更に打ち解けることができたよ。よかったよかった。




