第55話 依存容認
いやぁ、因果応報って存在するんだなぁ。雨宮さんの言う通りXデーが来たよ、まさかの翌日に。ははっ、タイミングが良すぎて雨宮さん黒幕説が出そうだよ。いや、ありえないんだけどさ。
「高橋君、今日も来てないね」
「気にしてるの? 鳩山君は何も悪くないよ?」
俺が落ち込んでいるように見えたのか、顔を覗き込みながら励ましてくれた。いちいち言うのも若干気持ち悪いけど、本当に可愛いなこの子。
「いや、気にしてるわけじゃないよ。キミのおかげでXデーに対する心構えができてたというか、そのぉ……」
「顛末がくだらなくて同情する気も失せた?」
すげえ、以心伝心すぎる。オレンジレン……。
「ふふっ、それにしても面白いよね」
「そ、そうかな? 俺は正直あんまり事情がわかってないんだけど……」
高橋君のことを内心良く思ってなかったのか、妙に嬉しそうだな。可愛いけど、人の不幸を笑うのはあまり良くないよ? 可愛いけども。
「イジメならまだしも、ちょっと泣かされたくらいで不登校なんて男らしくないよ」
「はは……現場見てないからなんとも言えないけど……」
経緯が全くわからないんだけど、高橋君が女子と殴り合いの喧嘩をして、泣かされたとかなんとか……。それから一週間近く不登校になってるみたいなんだけど、本当に何があったんだ? 喧嘩の原因とか詳細は知らんけど、不登校って相当よね。男のプライド? 泣かされたって、どのレベルだろう。学校に来れなくなるぐらいギャン泣きしたのかな。
「雨宮さんは見てたの? 喧嘩を」
「んー、私は暴力とか苦手だから見てないよ。なんか揉めてたから、すぐにその場を離れたよ」
まー、そりゃそうだよな。男子と女子の喧嘩でそこまで激しい殴り合いにはならんだろうけど、雨宮さんみたいな平和主義には耐えられんよね。喧嘩強いとモテるとか言うけど、実際の喧嘩を見るとドン引きするってよくある話よね。
「そっか……。喧嘩したのって山中さんだっけ?」
「……山中? ああ、うん。深雪ちゃんとタイマンしたみたい」
タイマンって……てっきり女子数人がかりでリンチしたのかと思ったけど、タイマンで女の子に負けたの? 山中さんがお咎め無しで済んでるあたり、凶器を使ったということはなさそうだし……え、情けなくね? 別に喧嘩の勝ち負けなんてどうでもいいし、女子に負けたからダサいってことはないと思うんだけど……不登校ってどうなのよ? 病院送りにされたわけじゃないんだろ?
まあ、高橋君の安否とか今後はさておき……。
「あの、雨宮さんは大丈夫なの?」
「え? 別に高橋君なんかとは縁ないけど……」
「いや、そうじゃなくて……。山中さんと仲良いけど大丈夫? 暴力とか……」
男子を喧嘩で不登校に追い込むほどの乱暴者なんだろ? ただのギャルだと思ってたけど、かなりの野蛮人っぽいし、不安だなぁ。雨宮さんって虫も殺せないような子だし、酷いことをされないといいけど……。
「あはは、大丈夫だって。深雪ちゃんは良い子だよ? きっと高橋君が悪いことをしたんだって」
……何があったら殴り合いになるんだ? まさか平手打ち一発で不登校なんてことはないだろ? 雨宮さんが大丈夫だと豪語するなら信じてあげたいけど、この子は人を疑うってこと知らないからなぁ。もうちょい人を疑ったり、悪いことに手を染めたりしてもいいと思うんだよねぇ。
「あー、人にバットを投げるようなヤツだもんねぇ……」
「そうそう! 深雪ちゃんは悪くないよ!」
……この子、優しすぎん? 友達が男子をボコボコにしたって聞いたら、普通怖くならんか? 博愛主義……ではないか。高橋君を蛇蝎のごとく嫌ってるみたいだし。
「そうだね……。処女の彼女がほしいとか言って、雨宮さんを狙ってたし」
「えっ……気持ち悪っ……」
おっと? 口が滑ったかな? 雨宮さんを怯えさせたくないから、俺の胸の内に秘めてたんだけど、ついつい……うっ!?
「あ、雨宮さん?」
が、学校だよ? 人通りの少ない場所とはいえ、抱きつくのはさすがに……あ、良い匂い……。
「告白されたけど……拒否しなかったら酷いことされてたかも……」
あー、そういや体育館裏に呼び出しとかあったなぁ。
どうしよう、めちゃくちゃ震えてるよ。どう慰める? 無難に『高橋君はしばらく学校に来ないだろうし、女子に懲りただろうから平気だよ』と言うべきか? それとも、ちょっと臭いけど『俺が守るよ』とか言っちゃう? いや、そんな無責任なことは言いたくない。無論、いざという時は守るよ? でも軽々に口にするのは無責任というか、逆に薄っぺらいというか……。
「もう……他の男子も怖い……。今まで空気扱いだったくせに、ちょっとオシャレしたぐらいで急に告白してくるなんて……」
……そっか。急にモテだしたら有頂天になってしまうとか、それは第三者ゆえの勘違いかもしれん。当事者からすれば、恐怖を感じてしまうのかも……。
「鳩山君は平気だよね? 私に酷いことなんかしないよね?」
「しないよ。安っぽい言葉かも知れんけど、命をかけてもいい」
証明はできないけど、俺は本気だよ。境遇が酷くなると心が擦れてくるけど、それでも大事な友達を傷つけるほど落ちぶれていない。雨宮さんに抱きつかれたことで少しだけムラムラしてしまったけど、俺は性欲なんかに負けんよ。ましてや、こんなに震えている女の子相手に……。うん、絶対雨宮さんとはヤらない。雨宮さんが迫ってきたら受け入れるけど、『ヤれそうな雰囲気だから押し倒してみるか』なんて浅慮なことはしないよ。
「うん、信じる……。疑ってごめんね?」
「いいんだよ。キミは何も悪くないよ」
腰に手を回してきたんだけど、これは抱き返したほうがいいのか? 普通なら抱き返すのが正解かもしれんけど、怯えさせてしまうんじゃないか? それともこの流れなら安心するのか? わからん……。
「逆恨みが怖いから他の男子とも表面上は仲良くするけど……鳩山君にしか心を許さないつもりなの……」
……何故俺をそこまで信用できるんだろう。ここまで嫌われている男に、なんで全幅の信頼を寄せられるんだ? というか、この雨宮さんのムーブはいいのか? 全員が全員下心を持ってるわけじゃないだろうし、本当の友達を拒むようなことをしていいのか? ……とまあ、色々複雑な気持ちではあるが……。
「うん。それでいいと思うよ」
嬉しい。
なんだろう、独占欲だろうか? それとも支配欲? わからんけど、雨宮さんが俺だけを見てくれるのがたまらなく嬉しい。
俺に依存するのは良くないってわかるけど、それでも俺にとっては都合が良いってのも事実なわけで……。
ほら、これはアレだ。雨宮さんの考えを改めさせるって、それすなわち、雨宮さんの意思を否定するってことだろ? 彼女が落ち着くまでは、彼女の思うようにさせてあげるのが優しさじゃない?
うん。いいんだ、これで。日を改めて話し合えばいいさ。今はただ、彼女の全てを受け入れてあげよう。




