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自己肯定感の低い女子を褒め続けたら人気者になったので距離を置くことにした  作者: シゲ ノゴローZZ
鳩山視点

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第54話 意識改革

 俺はそろそろ死ぬかもしれない。医者に余命宣告をされたわけでもないのに、そんな確信があった。

 体育の授業でソフトボールをしたんだけど、バットが飛んできたんだよ。俺の知識が正しければ、ソフトボールはボールを飛ばす競技だ。にも関わらず、飛んできたのはバットだ。避けなけりゃ確実に足を骨折していただろう。

 本人は勢い余ってすっぽ抜けたと主張しているが、絶対に嘘だ。あんな的確に投手めがけて飛んでいくわけがない。

 だいいち俺がピッチャーを任されたってのが既にきな臭い。以前までの俺ならまだしも、今の俺なんてライト辺りに配置されるだろ。つまり……グルってことだよね?

 問い詰めるべきか? いや、味方がいない状況でそんなことをしても、自分の立場が悪くなるだけだろう。そもそも証拠がないし。


「とまあ、こんなことがあったんだ。だから高橋君には気をつけたほうがいいよ」


 とりあえず雨宮さんに報告することにした。あの男が彼女に危害を加える可能性があるからね。


「へー……。そんな酷いことされたんだ……」


 さすがというべきか、同級生の非道な行いに心を痛めてらっしゃる。人間として当然の反応といえばそれまでなんだけど、悪意に晒され続けた俺にとっては聖人君子に見えて仕方がない。


「雨宮さんも気をつけてね? こういう一線を平気で超える人は、相手が女の子とかお構いなしだと思うから」


 考えれば考えるほど血の気が引いてくる。

 わざと肩をぶつけるとか、足を踏むとか、それぐらいならまだわかる。俺は絶対にしないけど、わかる。

 でもバットはさすがにやりすぎじゃない? あの勢いは事故じゃすまないよ。

 何が恐ろしいって他の男子もグルってことだよ。


「大丈夫。悪い人は必ず報いを受けるから」


 全く根拠のない言葉だ。希望的観測とでも言えばいいだろうか。

 正直気休めにもならない言葉だが……。


「だから心配しないで? ね?」


 心に響かないセリフも雨宮さんの笑顔とセットになれば、急激に説得力が増すから不思議だよ。そりゃ人気者になるわ、この人。


「ありがとう。でも俺は別に彼が酷い目に遭ってほしいとは思ってないよ」


 金輪際、俺や雨宮さんに酷いことをしなければそれでいい。更正なんて期待してないから、せめて大人しくしててほしい。

 わかってくれるだろ? キミなら、俺の慈悲深さを……。


「甘い!」


 あれぇ? まさかの叱責? 人を恨むことを咎められるならわかるけど、許す方で咎められることある?


「ツケは必ず払わなきゃいけないよ。踏み倒しなんて認めちゃダメ」


 人差し指を立て、子供に言い聞かせるかのような物言いをする雨宮さん。背伸びしてお姉さんぶってる幼子みたいで可愛いが、さすがに納得できん。

 だってさ、俺の考えがどうであれ、彼が報いを受けるかどうかなんて運否天賦というか、俺が介入する余地なくない?


「復讐しろって言いたいの? はは、穏やかじゃないなぁ」

「違うよ」


 手を前に出し、首を横に振る。なんか俺がズレたこと言ってるみたいな空気になったけど、俺悪くなくない? 文脈的にこういう解釈をするのは当然というか。


「こういうのはね、気持ちの問題なの」


 気持ちねぇ……。


「というと?」

「言動には責任がつきまとい、良くも悪くも報いを受ける。その認識をしっかり持っといたほうがいいよ」


 ……? 言ってることはわかるんだけど、なんで俺にそれを言う? 別に雨宮さんがどういう思想で生きようが勝手だけど、人に説くようなこと? いや、考え方自体に異議はないけど。


「その認識を持つとどうなるんだい? 自己啓発的な観点で物言ってる?」


 意識が変わると世界観も変わる的な感じかな? わかるといえばわかるんだが。


「自己啓発というかね、いざという時に結果を受け入れやすくなると思うの」


 うーむ? それはつまり……高橋君が酷い目に遭っても、下手に同情して心を痛めずに済むってこと? それは精神衛生上ありがたいけど、実際に彼が報いを受けることはないだろうしなぁ。

 因果応報だの、勧善懲悪だの、そんなの現実じゃ中々ないと思うのよ。富める者は富み続けるし、貧しい者は失い続けるのが世の常よ。だってほら、イジメっ子とか不良ってさ、過去の悪行が全部時効になって普通に結婚したりするじゃん。でもイジメられっ子は……。


「辛い目に遭うっていう星のもとに生まれてきた人もいるだろうけど、大体はそれなりの事情があると思うんだ」


 ……? イジメられっ子にも原因がある的な? まあ、否定はしないよ。本人に問題があろうとイジメていい理由にはならないけど、他責思考ってのも良くないと思うんだよね。イジメを嘆くのは自由というか自然な行動なんだけど、自分の立ちふるまいを見直すのも大事だと思うのよ。


「何が起きても、これまでのツケ、報いだって受け入れられたら幸せになれるよ」

「……そうだね」


 とりあえず肯定しておいたけど、正直あんまり理解していな……あっ、はいはいはいはい、そういうことね。あー、はいはいはい。なんとなくだけど、事情が見えてきたぞ。なるほどねぇ。

 ほら、最近というか夏休み前くらいから、雨宮さんと晴家さんが仲いいじゃん。晴家さんのことを〝ハルちゃん〟って呼んでるし、晴家さんは晴家さんで心を開いているような感じするし。

 要するに晴家さんの影響を受けたってことだよね。ラノベを借りたのか、二人でお話してるうちにうつったのか、どっちにしろいいことだと思うよ。俺に残された数少ない友達だし、仲良くしてくれて嬉しいよ。


「ツケは必ず清算する時がくる。覚えててね」

「あはは、肝に銘じるよ」


 ……俺を励ましてくれてるんだろうけど、ちょっと意味深なんだよね。なんていうかその、我ながら捻くれた考え方なんだけどその……『鳩山君の境遇は自分のまいた種だよ』って言われてる気がしてさ。いや、もちろん被害妄想だということはわかってるよ? ハブられてることに関しては俺に非がないし、雨宮さんもズレた皮肉を言うような子じゃない。ははっ、少しナーバスになりつつあるな。


「じゃあ鳩山君、Xデーが来るまで高橋君に近づかないようにね」

「Xデーって……ははっ、雨宮さんも気をつけてね」


 ……さすがに影響されすぎじゃないかな。厨二病にならないといいんだけど。

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