第47話 自尊心
夏休みも残すところ一週間程か。宿題はとっくの昔に終わっているので、気楽と言えば気楽なんだが……。
「浮かない顔だね? 私とやる格ゲーはつまらないかい?」
ここまで追い詰めればもう画面を見るまでもないと言わんばかりに、こちらを向きながらコンボを決めてきた。うん、実力差ありすぎてつまらないよ。でもこの表情は違うんだ、勝てないことを憂いてたわけじゃないんだ。
「いや、今年の夏休みはキミ達二人との思い出ばっかりだなぁって」
例年通りなら皆でプールやら海水浴やら川やら行ってただろうに、今年はこの二人とお風呂でプールごっこ。一般的な男子高校生と比べれば恵まれてるんだろうけど、やっぱり皆で遊びに行きたかったなぁ。
縁日とかも行けなかったなぁ……。俺の部屋から三人で打ち上げ花火を眺めるだけの寂しい過ごし方を……。いや、それも風流というか楽しかったけど、皆で屋台とか見て回りたかったよ。
「今年ねぇ……」
……?
「誰とも会わずにネット漬けも珍しくないさ。そう考えれば、美少女二人と過ごしたキミは勝ち組だと思うが?」
そりゃアンタ、下を見たらそうなんだろうけどさ。それは違うじゃん? それを言い出したら、どんな不幸な境遇でも幸せだよ。五体満足で虐待を受けたことがないってだけでも、平均以上の境遇なんだから。
「誤解しないでほしいんだけど、二人と過ごした日々は本当に有意義だったよ。でも学生のうちに多くの人と交流を深めたくてさ」
「ふむ。それは何故だい?」
何故って、そりゃあ……なんでだろうね? 社会人になれば会う機会が減るから、今のうちにって思ったんだけど、よくよく考えたら会わなくてよくない? 社会人になったぐらいで切れる縁なんて、無理に繋ぐ必要なくない? 今のうちに選別しておくのも悪くないな。
「いや、なんでもない。忘れて」
「そうかい」
深堀りする気はサラサラないらしく、再びゲームに集中する。
もしかすると、晴家さんがロンリーウルフなのってこういうことか? 卒業後と共に縁が切れるのが目に見えているから、自分の時間を確保することに邁進しているのかもしれない。なるほど……悪くない考え方だ。
「夏休みだからあれもこれもしなきゃいけないって、その考え自体がよくなかったのかもしれない。そう思い始めてるよ」
時間を無駄にするのはよくないけど、生産性だの効率だのに囚われすぎるのもよくない。変に焦ると幸福度下がっちゃうし、視野も狭くなってしまうからね。晴家さんと家でゴロゴロしているうちに、そういう考えが芽生えてきたよ。
「よく喋るね。操作がおろそかになっているよ」
うん、ゲームに関してはもう諦めてるからね。どうせ勝てないし。
「ハハ、俺にはセンスがないらしい」
「それは困る。オンラインサービスがいずれ終わることを考えると、キミには極めてもらわないと」
……そんなにやりこむ気なの? 次回作とか他の格ゲーに移ったりしないの?
「これ出たばっかりでしょ? 人気あるみたいだし、三年ぐらいはオンライン稼働するんじゃないの?」
「三年じゃ困るなぁ。最低でも後五十年は生きる予定だからね」
五十年も同じゲームする気なの? オンライン以前にゲーム機そのものが壊れそうなもんだけど。っていうか五十年後、俺いないよ? そりゃまあ、この世にはいるかもしれないけど、隣にはいないよ?
「まだ老後を考える年ではないが、ボケ防止には会話やゲームが効くらしい」
「そりゃあ、脳みそ使うだろうしね」
「キミが漫画やアニメに関心を持ってくれれば話し相手に困らないし、キミがゲームを極めれば対戦相手にも困らない。老後は安泰と言えるだろう」
ほえー、そういう考え方もあるんだな。老後の蓄えとか備えって貯金だけかと思ってたけど、あらかじめボケ防止策を用意するのも備えの一つか。勉強になるなぁ。
「ふふっ、晴家さんはお年寄りになっても俺と遊んでくれるのかい? 嬉しいよ」
「同じ屋根の下で過ごすんだ。疎遠になりようがあるまい」
ははっ、本気で結婚する気満々じゃないか。
残念だけど、俺は期待してないよ。どうせ学生の戯言だし、数年もすれば大学で彼氏を作るだろう。無論、それは雨宮さんにも同じことが言える。
そう、そして俺にも同じことが言える。この二人のことは大事だし、雲倉さんのことも好きだ。でも結婚するような年になったら、また別の相手が出てくるさ。
「話は変わるが、夏休みが明けてもキミの待遇が変わらなかったらどうする?」
「ん? 無視が続いたらってこと? うーん……」
どうでもいいっちゃどうでもいいけど、悔しいと言えば悔しい。雨宮さんが普通に皆と遊んでるってのも大きいかな。どこどこに行ってきたという報告を受ける度に、小さいなほころびっていうか傷ができてる気がするんだよ。
クラスメイトなんて見限ろう、いっそ開き直ろう。そう考えた矢先に報告してくるもんだから、いつまで経っても気持ちに踏ん切りがつかない。困ったもんだね。
「キミ達に認めてもらえたらそれでいい気もするけど、やっぱり皆と打ち解けたい気もする。仮に無視が続くとしても、理由を直接聞きたいんだ」
「知らないほうがいいかもよ? キミに原因があるってパターンもあるよ」
俺に非はないはずだけど、あるならあるで尚更知りたいよ。原因さえ知ることができたら、改善できるかもしれないし。
「自分で言うのもなんだけどさ、俺って必要な存在だと思うんだよ」
「私にとっては必須と言えるね」
「いや、晴家さんに限らずさ……。俺ってクラスの中心とまではいかずとも、皆の心の支えになってるっていうかさ」
自惚れてるみたいで、ちょっと気恥ずかしいな。でも事実だろ? 俺は皆から認められてるし、認められるに値する能力もある。それを自負しているからこそ、誰とでも仲良くできるし、毎日が楽しいんだ。自尊心ってヤツかね?
「それはまた大きく出たね」
「そりゃー、自分に自信を持つって大事でしょ? 実際、雨宮さんも自己肯定感を高めてから人生大きく変わったし」
「ふむ……。それは要するに、自信がなくなったらなくなったで、人生が大きく変わるということになるね」
あー、逆転の発想的な? 確かに変わるだろうね、悪い意味で。でも俺はきっと大丈夫。これだけ無視が続いているにも関わらず、まだ希望を捨ててないもん。夏休みという時間が全てを解決してくれると、心のどこかで期待してるもん。このポジティブシンキングがある日突然失われるなんて、考えにくいね。
そう、人生なんて結局メンタルだよ。メンタルが強い人間が勝つのさ。




