第46話 疑惑
俺ひょっとして、雨宮さんに嫌われてるのかな? いや、わざわざ家まで遊びに来るぐらいだし、それはないと思うんだが……だったら何故……。
「お客様に留守番をさせるなんて、心苦しい限りだね」
雨宮さんを慮るような発言をしているが、『心にもないことを言いました』って顔に書いてるよ?
「本人の希望だから仕方ないよ」
そう、雨宮さんも買い物に誘ったのだが『いいよ、私はここで待ってるから』と断られてしまったのだ。
買い物をする予定がなくても、こういう時って普通は同行するよね? それってつまり……俺と買い物に行きたくないってことだよね?
いや、考えすぎだって。暑いから外に出たくないだけに決まってる。そりゃそうだよ、だって今の気温エゲつないもん。月並みな表現だけど、車のボンネットで目玉焼きができるレベルだもん。
「不服という顔をしているね」
俺の前に回り込み、表情を伺ってきた。正解だと褒めてあげたいが、歩行中に回り込むのは危ないからやめてほしい。
「しょうがないよ、この猛暑だもん。一昔前なら冷房目的で同行しただろうけど、今は一般家庭でもエアコンつけっぱなしの時代だし」
まあ一昔前を知らないから、完全に憶測なんだけどさ。でも田舎の人達って、近所のショッピングモールまで涼みに行くイメージあるじゃん? 別にここ田舎じゃないけども。
「本当に暑さだけが原因かな? 出不精な私ならいざ知らず、アウトドアに目覚めた雨宮女史だよ?」
……何が言いたいのかな? こんなところで突っ立ってると他のお客さんに迷惑だし、早く目的地に行こうよ。
「この店に足しげく通ってるわけじゃないが、それでも高確率で同級生に出会う」
「まあ、そりゃそうじゃない?」
都会みたいに大型のショッピングモールが集合してたら話は別なんだろうけど、この辺で大型店なんてここぐらいなもんさ。書店に行けば同級生が漫画やら参考書を物色してるし、フードコートに行けば同級生の集団に出くわす。
そういや去年、偶然出くわした中学の同級生にプライズで取ったぬいぐるみをあげたけど、元気にしてるかな? 当時そこまで喋ったことない子だったけど、よく受け取ってくれたよね。持ち帰るのが大変だから押し付けただけなんだけど、気があるって誤解されてたりして……なんてね。
「評判の悪い我々と出歩いているところを、同級生に見られたくなかったんじゃないかな? 学校で喋ってるところを見られるのとは、わけが違うからね」
……晴家さんはお喋りがお上手だね。言わなくてもいいことは、ベラベラと喋らないほうがいいよ? 余計な発言は人を不幸にすることもあるから、覚えておこうね。
「あの子はそんな子じゃないよ」
自分の評判可愛さに、友達を見限るような人じゃないさ。『一緒にお出かけして噂されたら恥ずかしいし』なんて言うような子じゃないさ。
「ずいぶんと彼女を信頼しているようだね。その無垢さはキミの美点でもあり、欠点でもあるよ」
それはなんにでも言えることじゃない? 長所と短所は表裏一体だし。ほら、面接では短所を上手く長所に言い換えろって言うじゃん? 物は言いようってことね。
「なんと言われようと俺は皆を信じるよ。この陰湿なイジメだって、夏休み明けには解消されるさ。だってただの誤解……勘違いによるすれ違いだしさ」
きっと元の日常に戻れる。だっていわれのない差別だもん、こんなの。このような事態に陥った経緯はわからんけど、一過性のものさ。
「ふむ……」
俺の言葉に引っかかるところがあるのか、顎に手を当て考え込む。何気ない仕草だけど、ミステリアスな雰囲気も相まって絵になるなぁ。
「キミが信念を曲げないと言うなら、私も何も言わない。野暮だからね」
納得してくれたのかどうかはわからないが、再び歩き出す。この件について論じるのは、もう終わりだということだろうか。
「余計なことは言わないが、一つだけ質問がある。無理に答えなくてもいい」
「え、うん」
「何故彼女はキミを誘わないんだろうね? いつも報告のみだ」
何故って……それは周りがまだ誤解しているからじゃないのか? 俺と夏休みを過ごしても不利益は一切ないのだが、なんらかの理由で俺を嫌厭している。ゆえに誤解が解けるまでは、誘うに誘えないってだけの話だろ? それをまるで、雨宮さんに裏があるかのような物言いを……。
「彼女だって気付いているはずだ。キミがどういう状況に置かれているかを」
「だろうね。気付いてなかったら鈍感にも程がある」
さすがにね、生物として終わってるよ。野生じゃなくとも、鈍感は命取りとなるわけだし。物理的な死はないにしても、社会的な死はあるよ。
「だったら自ずと辿り着くはずさ」
「……どこに?」
「結論さ」
相変わらず回りくどいな、喋り方が。人の話術にケチをつける気はないけど、そういう喋り方はいらぬ誤解を招くよ? 感情的な人間も多いわけだし、下手に勘違いさせないほうが賢明だよ。何気ない一言で刺されたくないでしょ?
「学校に居場所がない人間に話すようなことかい? 誰それと、どこそこに行って、あれこれをしたなんてね」
あ……。今まで考えもしなかったけど、言われてみればそうだ。ペットが死んだ子に対して、ペット自慢をするようなものじゃないか。彼女のやっていることは。
嫌がらせ……? 雨宮さんが俺に……? い、いや……そんなはず……。
「もういいじゃん、晴家さん。早く水着を見に行こうよ」
「言われなくても向かっているじゃないか。何を焦っているんだい?」
「別に焦ってなんかいないよ」
「そうかい」
なんだ今の言い方は? 『そういうことにしておくよ』っていうふうに聞こえたんだが、俺の被害妄想か?
……焦り? なんで俺が……。俺は雨宮さんを信じているわけだし、何も焦ることなんてないよ。
そうさ、雨宮さんが嫌がらせなんてするわけがない。第一、そんなことをする動機がないじゃないか。俺の心を折ったところで金一封貰えるわけじゃないんだし。
……モヤモヤするなぁ。




