第48話 成長
とうとう夏休みも終わりか。晴家さんが部屋にいないことに、違和感を覚えている自分が怖い。あそこまで常駐していると、もはやオブジェクトだよ。
結局、雨宮さんと晴家さんしか会わなかったなぁ。っていうかほぼ外出しなかったなぁ。ええっと……晴家さんの水着を買いに行った時と……あとなんだっけ? コンビニに数回行ったぐらい? それも結局、早朝とか深夜だったよね。そりゃ誰にも会わねえわ。別に会ったとて……って感じだけどさ。
で、何したっけ? 一緒に読書して、ゲームして、性交して……まあ、屋内でできることなんてたかが知れてるよねって。いやぁ、まさかゴムを二ダースも使うとは思わなかった。俺はともかく、晴家さん痛くないんかね? あんな頻繁にヤったら、痛み残りそうなもんだけど。
「アンタ、全然外出なかったわね。学校で倒れないでよ?」
母上殿、その一言をかけるの遅くない? 普通は一週間目ぐらいで、不安を覚えないか? っていうかよく許可したよな? 夏休み丸々宿泊したぞ、あの人。『娘ができたみたいで嬉しいわぁ』とか思ってんのかね?
「母さん、皿多くない?」
「あらやだ……今日からしばらくハルちゃんがいないのを忘れてたわ」
おっちょこちょいだなぁ。でもまぁ、一ヶ月以上も毎日用意してたら、クセで出しちゃうか。それはいいんだけど……。
「しばらく? もしかして冬休みも泊めるの?」
「え? あー、それいいわね」
おっと、ヤブヘビだったかな? いや、まあ……晴家さんがいないと寂しいし、アリなんだけどね。っていうか、長期休暇と言わずにずっといてほしいよ。
だってさ、夏休み中俺一回も自慰してないのよ。毎回晴家さんに処理してもらってたのよ。もうね……一人じゃ性欲処理できないよ。
まあいいや、とにかく学校に行こう。初日から遅刻はシャレにならんし。
九月だってのに、まだまだ暑いなぁ。外に出てなかったから、余計に辛いよ。というか歩くのがしんどい。一応、性交で体を動かしてはいたんだが。
「あっ、おはよう!」
「……」
はい、予想通りガン無視です。道端で出くわした同級生に声をかけたけど、その耳は飾りだったようです。
……はぁ、夏休みが明けてもこれか。いつまで子供みてえなことをしてんだよ。
「おはよう! 日焼けしたね!」
「…………」
あらら、早足で去っていったよ。この調子じゃ、誰に話しかけても無視されるだろうな。一応チャレンジし続けるけども。
うん、まあ、わかってた。アレから結局、雨宮さん以外誰も返事してくれなかったよ。一つ気がかりなのは、俺と雨宮さんが喋ってる時に周りの人達が注目してきたことかな。別にやましいことなんてないのに、何故監視されなきゃいけない?
もしかしてアレか? カースト上位の雨宮さんに、変態が近づいていると思われているのか? 彼女をカースト上位にしたのは俺だぞ? いや、彼女の努力の賜物だけども、ダイヤの原石を掘り出したのは俺だぞ? アンタら、彼女の魅力に気づきもしなかったじゃないか。
と、まあ、それはおいといてだな……。
「寝癖ついてるよ」
「あっ……おい、皆見てるって……」
「気にしない気にしない」
なんか全く脈無さそうだった人達がイチャイチャしてるんだけど、夏休みの間に何があったんだ? それも一組、二組の話じゃない。登校するまでの道のりだけで、三組はカップルを見たぞ。廊下とか他の教室でも、イチャついてるカップルを結構見かけたし。本当に何があったんだ?
カップルだけじゃない。陰キャとか陽キャとか、オタクとかスポーツマンとか、そういう垣根がなくなってる気がするんだ。
俺以外全員とまでは言わんけど、全体的に皆仲良くなってない?
「今日もバスケ行こうぜ!」
「平日はさすがにちょっと……。っていうか今日は、ゆっくりとアニメ見たいよ」
「お? なんてタイトル? 面白いん?」
え、キミらどういう経緯で仲良くなったの? ゴリラみたいな体格のヤンキーと、俗に言うチー牛がめっちゃ仲良くなってるんだけど。
え、バスケ? アニメ? キミら、絶対に相容れなくない? お互いに歩み寄ってんの? 絶対苦手ジャンルだろうに。
「次の土曜日テニスコート予約してんだけど、誰か来る人ー」
「行くけど、普通は人集めてから予約せん?」
「どうせ集まると思って」
「それはそう」
待って、待って、なんの話? バスケだのテニスだの、どこでやんの? 予約って何? もしかして夏休みの間、頻繁にそういう集まりがあったの? 俺には一切情報出回ってないんだけど。
っていうか皆、顔つきというか雰囲気変わった? なんていうか大人になったというか……垢抜けた?
何があったか知らんけど、出遅れたというか、置いていかれたような気分だ。別にいいんだけどね? 他人は他人だし……。
「アメちゃん、長袖暑くない?」
「え、あはは……その……」
「あっ……ゴメン……。そうだよね」
……? なんか雨宮さんの様子がおかしいような。
っていうか睨まれてない? 鈴木さんが雨宮さんを庇うように立ってるけど、何を警戒してるんだ? 別に何もしないっての。
わっかんねぇ……何が起きてんだ? さっぱりわからんが、二つだけわかることがある。一つ目は俺に非はないってこと。二つ目は心配する必要はないってこと。
どうせ時間が解決してくれるし、解決しなかったらその時はその時さ。雨宮さんと晴家さんがいれば、卒業までの学校生活はなんとでもなる。




