第44話 性別による価値観の相違(?)
「高校生で絵日記を書かされるのって、どうなんだろうね。最終日まで宿題終わらないの困るんだけど」
「後半は捏造すればいいじゃないか。雨宮女史は些か真面目すぎるよ」
「ハルちゃんが不真面目なんだよ。そんなんだから不良と勘違いされるんだよ?」
「不良とは程遠い生き物だと自負しているが、色眼鏡で見られている人間は、とかく生きづらいものだな」
小さな火花が散っている気がするけど、和気あいあいとしているな。いやぁ、性交について言及されなくてよかったよ。
「宿題事情に変化をつけるだのなんだの、そういった理由があるそうだね」
「だからって絵日記なんて書かせるかな? 中学生でもやらないよ」
あれ、流れ的に性交を言及されるんじゃないの? だっていつもそうじゃん、嫌なお約束みたいなのあったじゃん。
っていうかさ……。
「じゃあ読書感想文にすればいいじゃないか。どちらか片方でいいはずだよ」
「え、本当? あっ、本当だ……」
宿題一覧を見て、がっくりと肩を落とす。うん、これは学校が悪いよ。
「もしかして両方やっちゃったの? 雨宮さんは可愛いなぁ」
「……ヤったのは二人でしょ?」
うぐっ……カウンターがエゲツなさすぎる。痴話喧嘩で過去の話を持ち出してくるタイプだ、この人。
「恥を知らない私だが、性交中の顔を見られたら憤死するだろうな」
急に何を言いだすんだ、キミは。
「……下品な話はおいといて、二人は当然読書感想文だよね? 絵日記なんて、書くことがないだろうし」
笑顔と裏腹に腹を立てているらしく、当てつけのようなことを言ってきた。今までなら気にも留めない煽りだが、今の俺には効くなぁ。
「終業式以降、一歩も外に出てないからね。変化点と言えば、晴家さんの本を読む体勢ぐらいかな」
「週に二回ヤるとしても、半分以上は書くことがないね」
俺とヤったことを絵日記に書くの? 絶対に読書感想文選んでくれよ? ラノベとはいえ、人一倍本を読んでるんだから。
「私は書くこといっぱいで迷うなぁ。カラオケに行ったの初めてだし、ボーリングも友達と行ったのは初めてかなぁ。ショッピングとか映画とか登山とか、色々誘われてるし……体が足りないよぉ」
もしかして、さっき晴家さんが言ったクソしょうもないジョークって、煽りだったのか? 雨宮さんが早口で、夏休みを満喫していることを自慢しだしたんだけど。
「楽しそうで何よりだな。こんなあばら家で油を売ってる暇はないんじゃないか?」
油とかけたかったのか知らんけど、無礼がすぎるぞ。ひび割れ一つない一軒家をつかまえて、何を言うか。
「ちょっと疲れちゃってね……というか今日はさすがに行けなかったの」
行けなかった? そんなに疲れてるのか? 朝早くから俺の家に来る余裕があるなら、遊びに行けそうなもんだが。
「今日の本来の予定はなんだい? 乱交パーティかい?」
一般的な高校生に対する偏見が凄い。悪い洋画の見過ぎだよ。
「皆でプールに行くんだって」
あー、いいなぁ。大人になったら行く機会減りそうだし、今のうちに行っときたいなぁ……っていうか毎年行ってたんだよなぁ。
あっ、中学の友達誘えばいいんじゃないか? 賢いなぁ、俺。
「行けばいいじゃないか。キミの平均より少し下ぐらいのスタイルで、男共を魅了してやるといい」
プールをなんだと思ってるんだろう。公共の施設だよ? 盛り場じゃないんだよ?
「平均より遥かに下なのに、よく言えたね? 虚しくならない?」
「豊満だの貧相だの、重要じゃないさ。彼が求めてくれるならなんでもいい」
「……二人目が現れたら、乗り換えられるかもよ?」
「それはいけないな。私しか愛せなくなるまで、体を重ねるしかない」
「そんな頻繁にしてたら、すぐ飽きられるよ? ステーキも毎日はキツいし」
「残念だが私は主食だ。米に飽きる人間はそうそういまい」
すっかり仲良しだなぁ、微笑ましい。会話内容に俺が絡んでなければ、もっと微笑ましいのだが……。
まあ、キャットファイトはさておいてだな……。
「で、結局なんで行かないんだい? まさか水着を持ってないのかい?」
考えてみれば、友達がいなければ水着なんて買わないよな。家族と海に行ったりするようなタイプでもなさそうだし。
「一応夏休み前のショッピングで買ったけど……プールには男子達も来るらしいの」
あっ、一応買ったんだ。お金ないからネイル断ってたのに。
っていうか、そりゃ男子も来るだろう。だって男女グループに属してるんだから。
「素晴らしいことじゃないか。これを機に、男をつかまえるといい」
「あはは、私なんて鳩山君以外から相手にされないってー」
まだそんなこと言ってるのか? 片手じゃ数え切れないくらい、告白されてるはずだろ? 彼らは全員鳩山君なのか?
「そんなことないさ。男なんて尻の食い込みを直す仕草を見せれば、発情するさ」
ラノベの影響なのか知らんが、男子への解像度が高いな。発情までいくかどうかはさておいて。
「そんなので食いつく男子なんて、さすがにお断りかな。いくらモテないからって、そこまでチョロくないよ」
「フフッ、節操なしの男の舌先三寸に騙されたくせに」
晴家さん、まさかとは思うけどさ、俺のことじゃないよね? むしろ節操しかないんだけど、俺。って、舌先三寸とはなんだ、舌先三寸とは。俺は本音しか口にしていないし、そこに打算はないぞ。
「鳩山君は本気だよ? そりゃ最初は、からかわれてると思ったけどね」
思ってたんだ……謙遜とかじゃなくて、本気の否定だったんだ。
「まさか首のホクロまで褒められるなんて……」
……わりと適当なんだよなぁ。なんていうか、一つでも多く褒めようと適当に絞り出したっていうか……まぁ、確かに色っぽいと言えば色っぽいのかもしれんけど、俺別にそういうフェチないし……。
「ふむ? 善吉君はホクロフェチなのかい?」
あっ……。
「んー? ハルちゃん、それどういうことかな? 話の流れ的に、ハルちゃんも褒められたように聞こえるんだけど」
「胸やふとももの付け根のホクロを褒められたよ。こんなもの長所でもなければ、短所でもないが、善吉君が発情するのであれば私の魅力と言えるね」
……そういや褒めたっけか。褒めるっていうか、世間話程度に軽く触れただけな気もするけど、いかんせん記憶が曖昧で……。
「鳩山君……」
晴家さん、見てごらんなさいよ。キミの不用意な一言で、何故か雨宮さんがキレてらっしゃるよ。
いや、前々から思ってたんだけど雨宮さんのキレるポイント謎すぎない? 男女問わず色んなヤツと遊んできたし、女子だけに限っても結構な回数デートをこなしてるんだけどさ……こんなにすぐ不機嫌になるのこの子くらいだよ?
もしかしてこういう性格がたたって、今まで一人だったんじゃ……。
「私だからこそ褒めてくれたと思ったんだけど、誰でもよかったんだね。こんな私でも大人の魅力が秘められてるんだって……勝手に思い上がって……バカみたい……」
あ、あれれれ? なんか半泣きだぞ? 情緒不安定すぎん? 俺? これって俺が悪いのか? いや、絶対に違うってのはわかるんだけど、謎の罪悪感が押し寄せてくるぞ。なぁ、晴家さん?
「ダメだよ。『私だけが特別』なんて思わせちゃ。いっそのこと『コイツ誰にでも同じこと言うんだろうな』って悟られるぐらい露骨にいきなよ」
え、何そのダメ出し? なんでキミも不機嫌なの? なんで敵側、被害者側に回ってんの?
男女比偏るとこういう現象起きるよね。男女による価値観の違いが生じているってだけの話なのに、なんか一方的に悪者にされちゃってるよ。
なんかこの二人といると、自分が最低な男に思えてくるぞ。
いや、いかんいかん! この二人だけが俺をわかってくれるんだ……。あと雲倉さん。彼女もきっとわかってくれる。雲倉さんが俺に冷めてるなんて、晴家さんの見当違いに決まってる。そう、この三人だけは絶対大事に……。




